Lv.98 運び屋
船をそこそこ上にまで持ってくる。
高さ的に十五階層辺りだろうか。戦闘の痕があったため、少し調べようと思い立った。
「……お前!」
遺跡の中から声が聞こえる。
振り向く前にピストルを抜き、その方向に発砲する。
何かが地面に倒れる音がする。その方向を確認すると、人型の悪夢が地面に倒れていた。
「テメェ……」
「ふぅん。なんや丈夫やな」
人型の悪夢は色を取り戻しながら立ち上がる。
黄色い髪、小さな体躯。ファイだ。
ファイは、黄金触手レーザーをセレンに向かって放つ。
セレンは船から持ってきた古い鞄から、赤い液体の入った小瓶を取り出す。
それをファイに向かって投げつける。ファイはその小瓶をはたき落とすべく、黄金触手レーザーを向ける。
「そぉら、避けれるか?」
セレンはその小瓶をピストルで狙撃する。中の赤い液体が散らばり、黄金触手レーザーにぶつかる。
黄金触手レーザーが赤い液体にぶつかった瞬間、黄金触手レーザーは黄金の粒子を残して溶け消えた。
「ま、まさかそれは……!」
セレンはさらに小瓶を取り出し、四つ、ファイに向かって投げつける。
「頑張って避けやぁ〜」
ファイとセレンを結ぶ直線を、小瓶は放物線を描きながらファイに向かって飛んでいく。
「こ、こんなものぉ!」
ファイは半狂乱になりながら、黄金触手レーザーを放つ。小瓶はどれも割れ、中の液体がファイに向かって降りかかる。
ファイはその液体の落下地点から、急いで離れる。
だが、その途中にファイは気づいた。
「赤く……ない。偽物……?」
「せ〜か〜い!」
移動したファイの後ろから、セレンががっしりと肩を掴む。
セレンはカトラスを小さく引き、ファイの背中を刺した。
「おかえしや♡ たっぷり味わって、なぁ?」
「お……が、あぁ……! 神経を……!」
いつぞやの仕返し。セレンはファイの背骨を切った。
ファイは力なく、その場に倒れ込む。
セレンは容赦なく、その髪を掴んで顔を起こす。そんなセレンの顔は満面の笑み、その手には赤い液体の入った小瓶。
「や……めて……」
「や、だ」
セレンはファイの口の中に、小瓶をそのままねじ込む。そして頭を踏みつけ、ファイの口の中の小瓶を割った。その瞬間、ファイの頭は一気に悪夢に戻る。
残った体も、じわじわと融解していく。
セレンは鞄の中から小瓶を取り出し、中の液体を観察する。
「悪夢をあるべき形に戻す液体……ふぅん、さっさと配達するか」
セレンは遺跡の中に入り、服のポケットの中から小さな板を取り出した。
小さな板を地面に投げ置き、その上に乗る。足で板の真ん中を踏み割ると、巨大化しホバーボードに変貌した。
「チャチャっと行こうか」
セレンは地面を片足で蹴り、ホバーボードに推進力を与える。ホバーボードはスイスイと遺跡の中を進み、階段すら造作もなく登っていく。
「ん……?」
正面に人影が見える。遠くからでも分かる黄色い髪、ボロボロの体で階段を目指すその姿。
セレンは赤い液体の入った小瓶を取り出し、すれ違いざまにぶつける。小瓶は割れ、ボロボロのファイは何が起こったかを認識することなく悪夢に戻った。
勢いそのままにセレンは遺跡の中を登っていく。途中、自然の多いエリアを通り。途中、一度は塞がれたが無理やり開かれたような階段を登り。途中、悪夢が氷の中に閉じ込められているエリアを抜け。
だだっ広い部屋に出た。部屋の中央では、四人のファイを相手取りながらも奮闘する吟遊詩人がいた。
「届けもんや〜」
セレンは背中を向けていた斧を持っているファイの頭を、小瓶で殴りつけた。中身がファイにかかると、ファイは一言も発する暇もなく悪夢に戻った。地面に広がったファイだったものを見て、三人のファイは戦慄する。
次は自分達がああなる番だと言うことを、理解しているのだろう。
セレンは楽しそうに舌舐めずりをして、小瓶をさらに取り出す。
「ど、どうして……!」
「そんな……! 融解液はもうこの世にないはず!」
「黄金卿が全て回収したはず……! 黄金卿に報告しないと!」
天井に開いた小さな穴に向かって飛び上がるファイ。そのファイに、セレンは小瓶とピストルの照準を合わせていた。
引き金を引き、ピストルから弾が発射される。弾は小瓶を貫き、中の液体を纏わせながら飛び上がったファイの胴体に打ち込まれる。
ファイの体は半分に溶け切れ、コントロールを失って天井にべちゃりと打ち付けられた。打ち付けられたファイは、固形でなく、悪夢になっていた。
「さて、残機はあと何個や〜? ここにおる二体だけか〜?」
「いや、上に一体行った。それにしてもその融解液、どこから……」
吟遊詩人が自分の傷を庇いながらセレンの隣にやってくる。
セレンは吟遊詩人を一瞥し、ファイに視線を戻した。
「なら一体任せたで。早く届けなあかんねん」
セレンは小瓶を一つ、吟遊詩人に投げ渡した。
吟遊詩人は間違っても小瓶を割らないように、握った。
「「この黄金眷属、残り少なくなろうとも。ただ目の前の敵を殺すのみ!」」
二体のファイが大鎌と直剣を構え、戦闘体制を取る。セレンはポケットから、小さな木のナイフを取り出した。
「【奥の秘:死が蔓延る大都会】」
その木のナイフを地面に突き刺す。木のナイフからいくつもの影が伸び、直剣を持ったファイを取り囲む。
「な、なんだ……!」
「逃げんかった時点でお前の負けや」
影はビルのように伸び、ファイの逃げ場を閉ざす。ファイは逃げようと影を飛び越そうとするが、体が動かない。
「お前の影は都会に囚われたんや。もう逃げられん。この奥の秘はなんでも動きを止めてくれる。やろうと思えば時間だろうが神だろがな」
「……! ……!!」
「ほな吟遊詩人、先行くで〜」
動けないファイの顔面に小瓶を投げつけ、悪夢に戻す。
そのままファイは階段を登っていった。
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