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Lv.1 俺と異世界とオート経験値と

この田中銀太には夢がある。

いや、夢と言っても所詮は夢。叶う事のない夢想に過ぎない。

しかし、夢は大きくとよく言うではないか。ならば俺は、この大きな夢を抱かせてもらう。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』という夢を。


そしてモテたいという小さな夢も。


そんな事を願い始めたのは確か中学生の頃……



「あの、お話長くなります?」


突如、誰かに声をかけられる。


(馬鹿な!頭の中に直接……!?)

「えっと、ご自分がどういう状況か理解(わか)りますか?」

(自分の状況?)


今までの、具体的には一時間圏内の出来事を思い出す……

確か、高校から帰る途中。

猫が道路の真ん中に神聖そうな白い猫がいて……


(俺、猫を助けて轢かれたのか!?)

「そうです……しかも私の飼い猫です」

(猫は無事だったんですか?)

「えぇ、おかげさまで。本当にありがとうございます」

(よかったよかった……)


しかし、今の自分の状況も飲み込めてきた。

猫を助けて、死んだ。そして神聖そうな猫の飼い主に話しかけられているのか。


(って事は……)

「お話が早くて助かります。お礼に願いを叶えさせてください」


俺は心の中でガッツポーズをした。夢にまで見た。何度も願い、されど叶わない夢。異世界転生が今、手の届くところまで降りてきているのだ。


(異世界転生させてください!お願いします!)

「すいません……異世界転生をする力は持ってないんです」

(そ、そんなぁ!)

「でも異世界召喚程度なら……」


異世界召喚、俺の夢と少し違うが大筋は同じ。昨今は異世界転生と言いつつ、異世界召喚される話が山ほどある。しかし行き着く先はどうせチートハーレムだ。大した違いはないはずだ。


(あ、チート能力って貰えますよね?)

「ちーと……?」

(え……)


もしやこの人、チートをご存知無い?

いや、そんな人もいるだろう。チートやらラックやらは、所詮オタク用語の域を出ない。一般人に通じない事もあるだろう。


(チートと言うのは……語源は英語の騙す等から来てまして。今俺の使っているチートって言うのは、ズルのような強さという意味でして……)

「なるほど。ズルのような強い能力が欲しいって事ですね!」


こう何だろう。正面から刺されたような胸の痛みは何だろうか。いや、分かりやすく言っただけだ。ズルというのは仕方ない言い方なんだ。

俺は大きく頷いた。


「分かりました!どんな能力がいいですか?」

(……おまかせでお願いします。説明書とか送ってもらえたら助かります)

「はい!では、第二の人生。ぜひ楽しんでください!」


俺の脳内に、真っ白い光が溢れる。意識は薄らぎ、体は宙に浮くような感覚に。

心地よい、海に浮かんのでいるかのような気分……





次の瞬間には、硬い地面に背中を強打していた。

目を開けると、高い空と二つの太陽が俺の頭上に浮かんでいた。


「わお」


つい、言葉が漏れる。

いやしかし、本当に異世界だ。何がどうなっても太陽が二つになることなんてありえないからだ。

自分の足元から広がる草原は、地平線の先まで広がっている。そして所々に半透明の丸い生き物が、ぴょこぴょこと跳ねている。


「スライムだ!生きてる!」


大興奮のままスライムに近寄る。かっっわいらしいつぶらな瞳をこちらに向け、初めて見る人間の姿に興味津々と言ったところか。

ゆっくりと手を伸ばす。

スライムは警戒するどころか、俺の手の方にゆっくりと体を伸ばしてくる。かわいい。


スライムと俺の手が某宇宙人との友情を描いた名作映画さながらに、その指先が触れた。


ジュッ


溶けた。

俺の指が溶けた。


俺は手を引っ込めた。その瞬間。


『テレレテッテテ〜♪』


本当にそうとしか表せない、間抜けなファンファーレが鳴った。


『れ、レベルガ上ガリマシタ〜!』


さっき聞いた声が、脳内に響いた。

その瞬間、俺の体は光を放った。


「うわっ眩しい!」


一瞬の閃光は俺の目を焼くが、それも一瞬の事。目を開けばさっきのスライムが目の前にいた。

俺は後ずさった。スライム一匹に命の危機を感じたからだ。


(ふざけるな、これではまるで死にゲーではないか!)


そう心の中で毒を吐く。

さっきのスライムは俺の指の味が気に入ったのか、はたまた野生の本能で逃げる獲物を追うのか。俺の方にぴょんぴょんと跳ねてくる。そのつぶらな瞳は、今の俺には恐怖の対象でしかなかった。

スライムが俺の体の上に飛び乗ってくる。

目を瞑り、手を突き出す。スライムに腕ごと飲み込まれたのが、感触だけで分かる。スライムは止まることなく、俺の腕を飲み込んだまま俺の胸の上に乗った。


(グッバイ俺の腕、女の子を抱きしめられなくてごめんな。グッバイ俺の胸、筋肉付けてやれずに悪かったな)


などと目を瞑って別れの言葉を告げる。

覚悟を決めて目を開ける。


「あれ?」


俺の腕はキチンと付いていた。スライムの中で動かす事もできる。胸は……いや、服がゆっくり溶けている。

俺はすぐさま立ち上がった。スライムはずり落ち、俺の足元に転がった。

溶けた服から、端っこが溶けた紙がポトリと落ちた。


「……説明書って書いてある!」


俺はスライムが飲み込もうとしている説明書を拾い上げ、中身を検める。


「いや内容うっす!」


説明書とは名ばかり。たった一枚の紙切れに、手書きの文字で色々書かれているだけだった。


「え〜っと?『チート能力、自動レベルアップについての説明書』……?ははーん、俺の能力は自動レベルアップってわけか!」


だから何もしていないのにさっきレベルが上がった事を知らせるファンファーレが鳴ったのか。


『テレレテッテテ〜♪』

『れ、レベルが上がりましゅッ……上がりました』


しかも噛んだ。きっと人力でやっているのだろう。

いやしかし、すごい勢いでレベルが上がっていく。レベルが上がることに、どんな恩恵があるのかと紙を読み進める。


「『この度は私の猫を助けていただき』……重要そうなところまで読み飛ばすと〜?……『この能力は一秒間に1ずつ、経験値が手に入ります。それに呼吸をする毎に3経験値。一歩歩くと5経験値。などと言う様に日常の様々な動作をする毎に経験値が手に入ります』!?……『しかも通常、経験値を手に入れる為に行う必要のある行為。筋トレ、戦闘、学習などで得られる経験値は5倍されます。経験値の詳細は‘‘ステータス‘‘と唱えていただくとご覧になれます』!何もしなくても最高になれるってわけだ!最高だな!」


しかし、その下の文から何故か赤文字で書かれている。

まぁ何もしなくても最強の俺に怖いものなどなかった。


「『()()()()()()()()()()()()1()0()1()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()では、第二の人生。ぜひ楽しんでください!』」


『テレレテッテテ〜♪』

『れ、レベルが上がり「ふざけんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


あまりの怒り。いや、混乱に叫ぶ。

こんなことがあっていいのか。いや待て。おかしいだろうが。

俺の足元にいたスライムは驚き、離れていった。しかしそんな事はどうでもいい!


「す、ステータス!」


ステータスと叫ぶと、本当にステータス画面が開れた。免許証みたいに顔写真と名前。そして現在の称号、二つ名という聞き慣れない項目が空白で存在している。

俺は自分の顔写真の下にある『プロフィール変更(一度きり)』と書かれている部分を高速でタッチした。

事態の把握よりも。何よりも優先すべき事項が見つかった。


「じゃあな。ブサイク」


俺は俺の見た目が嫌いだった。世間から見れば下の下。この見た目でいじめられ、自分自身を呪うこともあった。

だが、今俺は生まれ変わる。


まるでキャラクタークリエイト画面を高速で操作し、自身の見た目を変えていく。

髪の毛は銀の短髪サラサラヘアー。肌はもっちりでできものなんて一つもない。鼻、口、目元をきれいに整える。

そしてここでシェフのこだわりワンポイント。目は少し切れ長にして、瞳の色を金に変更する。


「完璧だ……!」


はたから見れば厨二病と笑われるかもしれない。しかし、俺はこれがかっこいいと思っているし、実際かっこいい。

そして勢いに乗って名前も変更する。思い切ってネットネームを使う。

俺は親からもらった自分の名前を情け容赦なく消去し、苗字に『オーロ』。名前に『シルヴァ』と入力した。


最後にプロフィールを一通り確認し、決定ボタンをタッチした。

一瞬顔が焼けるように熱くなり、形が変わっていくのが分かる。

顔が通常の温度に戻ると、俺は水溜りを探した。

水溜りは幸運な事に数歩先に存在した。早速覗き込むと、反射で自分の顔が……


「濁ってんじゃねぇか!」


ものの見事に濁った水。何も見えなかった。


「ん?お前はさっきのスライムか」


さっきのスライムが、俺の腕に纏わりついてくる。そのつぶらな瞳は何故か自身が溢れているように見えた。そして、銀髪の理想のイケメンがぼんやり見えた。


「……俺の顔が写ってる!」


スライムを両手で掴み、その体を見つめる。うっすらと、俺の新しい顔が見える。俺が表情を変えると、スライムに写った顔も表情を変える。

とても有意義な時間だ。一生こうしているのも悪くないだろう。


『テレレテッテテ〜♪』

『れ、レベルが上がりましたっ!』


俺はその音で、現実へと引き戻された。


レベルの上昇を止める方法を見つけないと、俺は呼吸しているだけで死ぬ事になってしまう。

そんな難易度ナイトメアな縛りのついた、俺の異世界生活が始まった。

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