表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/37

夏SS

書籍化作業は順調です。発売時期の発表はもう少々お待ちを。

web版とはだいぶ変わりますが、百倍面白くなってるので楽しみにお待ちいただけると嬉しいです!

 夏は想夜歌のための季節である。


「うみだ!」

「うみ……!」


 燦々と降り注ぐ太陽の下で、想夜歌と朔が叫んだ。

 まだ車を降りたばかりなのに、子どもたちは元気いっぱいだ。潮風に飛ばされないように帽子を押さえて笑う想夜歌が可愛い。


「神谷さん、送ってもらってありがとうございます」

「あいよ~。ま、楽しんでいってよ。アタシがやってる海の店に来たらサービスしてあげるし」


 小麦色に焼けた肌でサムズアップする姐さん……もといママ友の神谷さんは、相変わらずカッコイイ。

 湘南の海まで車で送り迎えしてくれるばかりか、シャワーやロッカーまで無料で貸してくれるというのだから頭が上がらない。


「助かります」

「ウチの娘は暑いの嫌いでさ。ついてきてくれないからアタシも寂しいわけよ。君たちが来てくれて嬉しいよ」


 娘さんは父親と一緒に家で涼んでいるらしい。

 若い頃からの付き合いで毎年海の家を手伝っているらしい彼女は、見た目に違わないバイタリティで走っていった。恐縮する俺と暁山に、背中越しに手を振る。かっけえ……。


「暑いわ」

「あちいなぁ」


 取り残された俺たちは、どちらからともなく益体もないことを言い合う。


「お兄ちゃん、はやくいこ。そぉか、さめさがす」

「サメはいないと思うぞ」


 神谷さんの厚意で貸してもらった更衣室で、水着に着替える。

 幼稚園児なので異性の更衣室に入っても問題はないのだが、せっかく暁山もいるので交換して入った。朔は大人しいししっかりしてるので心配はないが、想夜歌は大丈夫か……?


「はっ、暁山お前、裸の想夜歌に何かするつもりなんじゃっ」

「響汰こそ、朔が可愛いからって変なことしないで」


 それでなくとも、想夜歌の可愛い水着姿を先に暁山に見せるなんて……。いや、店でも家でも散々試着したけど。


 朔の水着は普通の短パンだった。サンダルを履かせて、荷物を二人まとめてロッカーに入れる。小銭とスマホだけ、防水のカバンに入れて肩に掛けた。


 男子の方が着替えは早いものなので、更衣室の前で朔と待つ。


「きょうた兄ちゃん、およげる?」

「ちょっとはな。授業でやる程度だけど」

「すごい……!」


 幼稚園でもプールはあるけど、年少ではまだ泳ぐところまでいかない。浅いプールで水遊びする程度だ。


 朔と雑談をすること十分。思ったよりも早く、想夜歌と暁山が出てきた。


「お兄ちゃん!」

「想夜歌! 可愛いぞ! 暁山に変なことをされなかったか!?」


 想夜歌は可愛すぎるから、相手が女性だからといって油断できない。最近仲いいからな、この二人。


「すみちゃんもかわゆい」

「ん?」


 ああ、想夜歌に夢中で視界に入ってなかった。


 暁山の方にちらりと目線を向けると、少し気まずそうに前髪を弄んでいた。惜しげもなくさらけ出された太ももの面積は、いつもより圧倒的に広い。海に似合わない真っ白な肌が、太陽の光を反射して輝いている。


 ほとんど下着のようなその姿に、咄嗟に目を逸らす。


 上はラッシュガードで隠しているため、どんな水着を着ているかは窺いしれない。


「なによ」

「いや。日焼け止めは塗ったか?」

「心配しなくても、想夜歌ちゃんにも塗っておいたわ」

「おお、さすが」


 お互いに下の子がいると、話がスムーズで助かるな。


 ビーチサンダル越しでも、砂浜が焼けるように熱い。

 海に突撃しそうな想夜歌を制止しながら、レンタルしたシートとパラソルを設置した。


「飲み物を買ってくるわ」

「あっ、俺も行く」

「私が買ってくるから、そこで朔と待っていてくれる?」

「了解」


 そうなれば、俺はこの拠点を完璧に作りあげることにしよう。


「さめはあぶない」

「さめ」

「さく、たべられる」

「え……」


 こら、海への恐怖心を植え付けるんじゃない。


 絶対に飛ばされない休憩所が完成したところで、遠くから暁山の声が聞こえてきた。


「結構よ」

「いやいや、俺たちと遊んだ方が楽しいって」

「そうは思えないわね」

「つれねぇな。まあ、美人はちょっと冷たいくらいがいいな」


 ナンパか。

 一緒にいると麻痺してくるけど、暁山はめちゃくちゃ美人だからなぁ。でもそいつ、ちょっとじゃなくてかなり冷たいぞ。朔以外には。


 無視して歩き続ける暁山に、二人の男たちが追い縋る。身体に触れるようなことはまだしていないが、いつ無理やり連れて行こうとするかわからない。

 一人にしたのは失敗だったな。


「おい――」

「姉ちゃん!」


 俺が腰を浮かせた時には、朔が走り始めていた。


 朔が男たちの間に割り込んで、両手を広げる。


「姉ちゃんをいじめるな!」

「……ちっ。んだよ、子連れかよ」


 震えながらもしっかりと目を離さない朔を見下ろして、男たちは興がそがれたように後頭部を掻いた。


「あの、その子、俺たちと一緒に来てるんで」

「すみちゃんはそぉかの!」


 俺と想夜歌が、遅れて隣に並ぶ。


「子どもが二人……? 何歳だ……?」

「姉ちゃんって言ってただろ、さっき。おい、行くぞ」


 俺はほとんど何もしてないな。朔の勝利だ。

 二人が離れていったことで、空気が弛緩する。


「朔……ありがとう」


 感極まった様子の暁山が朔を抱きしめる。

 やっぱ男だな、あいつ。いい子だ。完全に出遅れたので、男として負けた気分になる。

 大人相手に怖かっただろうに、判断がめちゃくちゃ早かった。


「よし、じゃあ海で遊ぶか」


 もちろん、写真も撮りまくった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

お読みいただきありがとうございます!

↑評価☆☆☆☆☆↑から

★★★★★で、応援していただけると励みになります!

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ