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兄は勉強ができない

 俺はたしかに赤点を回避したはずだ。ほとんどのテストは五割前後の点数を取ったし、一番悪かった数学でもギリギリ大丈夫だった。


 なのに……。


「なんだこの課題の量はッ」

「響汰が学年で最下位だからよ」


 今回もばっちり学年一位をマークした秀才が、隣でため息を付いた。これが格差社会か。


「二年生で最初のテストだから簡単だったわね。赤点者はいなかったようだし」

「なら皆で幸せになればよくないか? 社会はやはり、弱者を必要としているということか……」

「前期から躓かないように課題で救済してくれているんだから、喜びなさい」


 まあ課題提出でちょっと加点してくれるみたいだからやるけどさ。


 それに、どういう風の吹きまわしか暁山が勉強を見てくれるらしい。お礼とは言っていたけど、たぶん夕食目当てだ。迎えに行った時、朔が縋るように俺を見てきた。

 夏服に装いを変えた暁山は身体の線がはっきり出ていて、こうも近づかれると意識から追い出すのが大変だ。課題のプリントを覗き込んでいる彼女をちらりと見る。


「……なに?」

「いいや。ていうか、なんで眼鏡? 別に授業中でもつけてなかったよな」

「なんで響汰が授業中の姿を知っているのかは置いておいて、これは雰囲気よ。見た目から入るタイプなの」


 教師モードってこと?

 変な方向に吹っ切れた暁山は、伊達眼鏡をくいっと上げてカッコつけた。想夜歌が「おお~」と拍手している。


「すみちゃんカッコイイ……!」

「そう……? いえ、当たり前よ」


 朔は白けた目で姉を見た。カッコイイお姉さん計画は難航しているようである。


 ともあれ、暁山が教えてくれるなら百人力だ。一位と最下位では実力が離れすぎていて過剰だが、大は小を兼ねるのである。俺もある意味一位だから丁度良い。


 想夜歌と朔が二人で遊び始めたので、課題を開始する。

 うん、一問目から分からん。


「そこは――」


 すかさず、隣から解説が飛んできた。頭の回転の速度が数倍くらい違うのではないか、と思わされる。


 暁山の指導は、意外なほど分かりやすかった。

 余裕のある態度からついつい忘れがちだが、彼女は並外れた努力の上で点数を取るタイプである。それこそ、倒れるくらい勉強しているのだ。天才ではないからこそ、色んなノウハウやコツを知っている。

 俺が立ち止まったところも、なぜ理解できないのかを瞬時に把握し分かりやすく説明してくれた。家庭教師とか向いているんじゃないのか?


 何が分からないのか分からない、という俺にとって、まさしく救世主である。


「呆れた。本当に勉強ができないのね。中学生の方がまだできるわ」

「あれ? 今俺の中で暁山の株が急上昇していたのに、罵倒挟む意味あった?」

「教えてあげるから早く続きをやりなさい」

「俺、瑞貴と違って優しくされる方が好きだなー」


 隣から感じる空気がどんどん冷たくなっていくので、慌ててペンを取った。

 しかし、集中できないのは暁山のせいでもあると思う。たまに肩とか腕に髪が当たるし、シャンプーなのかトリートメントなのか分からないが良い匂いがする。当たり前のように家にいるけど、クラスメイトの女の子なんだよなぁ。


 さっき瑞貴に変なことを言われたせいだ。彼女はただのママ友で、朔に美味しいご飯を食べさせるために教師役を買って出ているに過ぎない。あれ、この言い方だとちょっとエロくない……?


「真面目にやりなさい」

「はい」


 死にたくないので本気で集中することにした。


 およそ二時間、ぶっ通しで取り組んだ結果なんとか終わらせることができた。

 暁山の指導で結構理解できたと思う。


「今ならテストで満点を取れそうだ!」

「私が教えたんだもの。八十、いえ六十……五十点は取って欲しいわね」

「学力を加味してハードルを下げてくれてありがとうよちくしょう」


 でも本当に助かった。

 素直に礼を言って、大きく伸びをする。時間もちょうどいいし、夕飯を作るとしよう。今日は時短レシピだ。


「響汰、あれ」

「ん? どうした」

「しっ、静かに」


 暁山は唇に当てた指をそのままソファの方に向ける。


 そこには肩を寄せ合って眠る、想夜歌と朔の姿があった。朔の肩に想夜歌の頬が乗っかって、すごい顔になっている。妙に安定しているから、朔が体勢を合わせてくれたんだろう。

 一緒に寝るなんてけしからん、と言いたいところだけど、今回はそっとしておいてやろう。


「どうしましょう」

「想夜歌なら飯作ったら起きてくるぞ。それとも、俺たちも寝るか?」

「は?」


 いや、そういう意味じゃなくて!


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