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2話、過去を語るは白うさぎ(3)



「ねえ、ルドルフ……」

「? 何だいアリシャ?」

「話変わっちゃうんだけどね……、りんちゃんの鍵のこと、祐太君なら何か知ってるかな?」


 ゆうた君……?

 ゆうた君って誰だろう?

 男の人の名前みたいだけど……。


「真田マスターか……、確かに彼は人間だけれども、果たして他人の鍵のことなんて知ってるかなぁ……」

「知らなくても、祐太君なら優しいから、協力してくれそうじゃない」


 人間……。

 私と同じ人間の人が、この世界にいるの?


「……確かに真田マスターなら、協力を頼めば、快く引き受けてくれるだろうけど、アリシャは真田マスターの居場所を知ってるのか?」

「……今ちょうど、このサルクトアのどこかに滞在してるらしいんだけど」

「……どこかに、ねえ……」


 ルドルフおじさんが、左の方へと顔を向けながら、苦笑いを浮かべている。

 私もルドルフおじさんに釣られて、右にある窓から外へと目を向けた。

 遠目に見ても、緑色の葉をつけた木々が立ち並んでいるだけで、とくに目ぼしいものは見えないのだが……。


「『噂をすれば影』って言うし、そのうちきっと現れるわ」

「……アリシャは、真田マスターが現れるまで、彼の噂話をするつもりなのか?」

「うん、そのつもりよ……」

「……そ、そお……」


 アリシャおばさんの笑顔の肯定を、ルドルフおじさんが呆れたような声で返した。


「りんちゃん、祐太君はね、すっごく優しい男の子でね」


 アリシャおばさんが、懐かしそうに目を細めながら、笑顔で、そのゆうたって人の話をする。

 私も、自分以外の人間が、この妖精世界フェアリーランドにいたことを知り、興味がわいたので、その話に聞き入った。


「えっと、としは……あれ? ルドルフ、祐太君のとしっていくつくらいだったっけ?」

「30年前のあの時は、12歳だった」


 ……30年前!?

 え、それってもう、男の子って呼ぶような年齢じゃないと思うけど……?


「と言っても、人間と妖精じゃ時間の流れ方が違うらしいから、そのまま年齢を当てはめてもとしは合わないんだけど」

「!!? 時間の流れが違うって、どういうことですか?」

「詳しいことはよく分からないけど、人間はこの妖精世界では非常に長寿なんだ……、え~とね、確か人間世界での1年が、この妖精世界では7年に相当するんじゃなかったかな?」

「……1年が7年?」

「要するに……………………りんって今いくつ?」

「? えっと、14ですけど」

「じゃあ、りんが15歳になるときには、私はえ~と、54だから61歳になってるというわけだね、アリシャは71歳か、もうお婆さんと呼ばれてもおかしくない年齢だね」

「……………………お婆さんで悪かったわね!!」

「……怒ることないだろうに……」

「え? え? え? あ、あれ? も、もしかして、アリシャさんの方が年上なんですか?」

「そうよ? あ、りんちゃん気付かなかった?」


 アリシャおばさんの問いかけに、私は、首を縦に振ることしかできなかった。


 ……うわぁ、ずっと、ルドルフおじさんの方が年上だと思ってたのに、アリシャおばさんの方が年上だったのか……。

 ルドルフおじさんはすっごい貫禄があって、アリシャおばさんは年齢に似合わない可愛らしさがあったから、アリシャおばさんの方が年下だと思ってたけど、人は見かけによらないって言うか……ゴニョゴニョ……。


「若いころは私がお姉さんしてたのに、いつの間にかルドルフの方がおじさんっぽくなってたのね」

「……30歳前くらいから、髭を蓄えるようになったから、そのあたりから年齢が高く見られるようになったのかもね」


 ルドルフおじさんが、口髭をさするような仕草を見せる。

 背中越しに見てるので、ほんとに触ってるのかどうかは、分からないけど……。


 う~ん、ルドルフおじさんに貫禄があったように見えたのは、髭のせいだったのか……。

 それだけじゃない気はするけど、とりあえず納得。


「話がずれちゃったけど、りん達人間は、この妖精世界フェアリーランドでは、すごく早く時間が流れてると思ってくれていいはず」

「すごく早く……ですか」

「うん、体感的に時間の速さは感じないだろうけど、身体の変調はすでに感じていると思うよ」


 変調?

 う~ん、変調なんて言われても、とくに感じないけどなぁ……。


「たとえば……、腹が減らないとか、眠くならないとか」

「!」


 ルドルフおじさんの言葉の中に、思い当たる節があった私は、身体をピクリと震わせていた。


「あ、あの、そう言えば、昨日から何も食べてないけど……お腹とかぜんぜん空いてないです」

「だろう? 人間はあくまでも人間世界での時間で生きているから、この妖精世界フェアリーランドでの時間には当てはまらないんだ」

「……」

「理論的に説明するのはすごく難しいんだ、私は学者のように頭が良いわけではないからね」

「……」


 えっと、1日は24時間で……、時間を分に直して……、それから7倍で流れてるから、え~と……。

 うあ~、頭痛くなってきた……。


「りんちゃん……、りんちゃん!」

「! あ、はい? なんですか?」


 ふと、名前を呼ばれた私は、我に返った。

 アリシャおばさんが、心配そうな表情で、私を見つめてる。


「顔色悪いわよ、大丈夫?」

「え、あ、はい、大丈夫です……、ちょっと時間のことを考えてたら頭痛くなっちゃって」

「そう……、もぅ、ルドルフ! りんちゃん困っちゃってるじゃない」

「ははは、ごめん……。でも、りんが人間である以上そのあたりもしっかり理解しておかないと戸惑うかと思ってね」

「あ、ありがとうございます」

「一応、真田マスターが簡単な時間の計算をしてくれたから、それを使って説明するね」

「あ、はい」

妖精世界フェアリーランドでの時間は人間世界と同じで1日=24時間、1時間=60分、ここはいいね?」

「はい」

「時間を分に直さないと計算できないから、24時間×60分で1日=1440分」

「そっか、それを7で割るんですね」

「そう……………………、割り切れないけどね」

「えっ?」

「まあ、小数点以下を切り捨てて、205分、時間に直せば3時間25分」

「……」

「これで分かると思うけど、この妖精世界フェアリーランドでの1日は、人間世界ではわずか3時間25分程でしかない……というわけだ」

「そっか~」


 妖精世界フェアリーランドでの1日は、人間にとってそんなに短いものだったのか……。

 どうりでお腹が空かないわけだ。


 私は、ルドルフおじさんの説明を聞いて、ようやく疑問が氷解した。


「で、真田マスターの年齢は、妖精世界フェアリーランドの経過した年数である、30年から7年を割った年数を、当時の年齢に足せば答えが出るよ」

「……え~と、確か当時の年齢は12歳だったんですよね?」

「そうだね」

「てことは、30÷7=4.2だから、12+4.2で16.2……16歳!!」

「なるほど~、祐太君はりんちゃんより二つ年上なのね」


 アリシャおばさんが笑顔で、パチンと手を叩いた。


「祐太君、ちょっとは大人っぽくなったのかしら?」


 アリシャおばさんは、懐かしそうに目を細める。


「あの頃の祐太君は可愛くって、女の子にモテモテだったのよ~」

「は、はぁ……」


 モテモテ……ねぇ……。


 私は、アリシャおばさんの話しぶりに思わず、苦笑いを浮かべた。


「……アリシャ、あれはモテてたって言えるのか~?」

「?」


 ルドルフおじさんが、苦笑混じりの声でアリシャおばさんに問いかける。


「え~、だってほら、え~と青い髪の誰だっけ?」

「……ヴァネッサかい?」

「そうそう、ヴァネッサが祐太君のこと可愛がってたじゃない」

「……あれは可愛がってたっていうより、からかってたようにしか見えなかったがなぁ……」


 ……可愛がると、からかう……。

 アリシャおばさんから見た視点と、ルドルフおじさんから見た視点では、ずいぶんとギャップがあるような気がする。


「イリーナやフィナも、祐太君を取られまいと必死だったじゃない」

「……フィナは、真田マスターをからかうヴァネッサから守ろうとしていただけだし、イリーナは3人の中で一番年上で、ヴァネッサとフィナの2人をなだめていただけだろう」


 ……どっちが真実なんだろうか?

 何かもう、どうでもいい気がするけど……。


 私は、アリシャおばさんとルドルフおじさんのやりとりに、小さな溜息を吐いていた。


 まあ、少なくてもアリシャおばさんが、祐太って人のことを、可愛く思ってたことに違いはないだろう。

 あれだけ熱心に話すくらいだし……。


「しっかし、アリシャも意外と真田マスターのこと見てたんだな、男嫌いで有名なお嬢様だったはずなんだが……」

「……えっ!? 男嫌い!?」


 ルドルフおじさんの呟いた一言に、私は思わず声を上げていた。


「全然そんな風には見えないですけど……」


 私の呟きに、アリシャおばさんは口元に右手を置いて、恥ずかしそうに微笑む。


「子供のころに色々あって、大人の男性を信用できなくなっていたの、ルドルフと結婚するまでは、ほとんど男の人と話をしたことはなかったわ」

「……」


 ……信用できない……。

 余程なことがないと、そんな風にはならないよね……。

 子供のころに何があったんだろうか?


 私は、アリシャおばさんの話に耳を傾けつつ、そんなことを考えていた。


「でもね、ルドルフ~、祐太君はあの時12歳の男の子だったわけで大人じゃないから、まったく話をしてなかったわけじゃないのよ」

「……」

「それでも、30年も前の話だから何の話をしてたかなんて覚えてないけどね」

「そう……ん?」


 何かあったのか、突然、ルドルフおじさんが馬車を止めてしまった。

 その様子を見て、アリシャおばさんが声をかける。


「? どうかしたの、ルドルフ」

「……噂をすれば」

「祐太君がいたの!!?」


 ルドルフおじさんの言葉に、アリシャおばさんが間髪入れずに食らいついた。

 アリシャおばさんが、馬車の扉を開けて、外へと顔を出す。



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