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7話、助けを願うもの(3)


「りんちゃん!! ちょっと来て!!」

「?」


 セレナおばさん達との話に、夢中になっていたとき、本棚の反対側から声がかかった。

 私は、絵本を本棚に戻すと、声のした方へと向かった。


「りんちゃん、たぶんこの本で、神暦文字を翻訳できると思うわ」


 本棚の反対側にいたのは、アリシャおばさんだった。

 アリシャおばさんは、分厚い本を手に、嬉しそうに微笑む。


 ……そう言えば、絵本の話に夢中で、すっかり忘れてたけど、私は、神暦の文字を調べるために、ここに来たんだったっけ……。


「さっ、りんちゃん、あっちの机に持って行って、調べてみましょ」


 アリシャおばさんの指差す方向には、大きなテーブルが置いてあった。

 私は、アリシャおばさんに促され、テーブルと一対になっている長椅子に、腰を下ろした。


「さっきの何だっけ、手紙みたいなの見せて」

「手紙? ……ああ、携帯メールか」


 アリシャおばさんに、手紙を見せてと言われて首をひねったが、すぐにそれが携帯メールであると分かり、私は、ポケットに入れていた携帯電話を取り出した。


「ここ、ここ……え~と」


 アリシャおばさんは、文字化けした差出人名を指差すと、分厚い本をパラパラとめくり始めた。

 たぶん、辞書だとは思うのだが、隣からその本を覗き見ても、私には何が書いてあるのか、さっぱり分からなかった。


「!」


 ふと、顔を上げると、机を囲むように、ルドルフおじさんやテリオルさん達が集まっていた。

 皆、真剣な顔で、アリシャおばさんがめくる本へと、視線を注いでいる。


「……」


 皆に迷惑ばかりかけているような気がして、申し訳ない気持ちになり、私は、俯きながら、アリシャおばさんのめくる本へと、視線を動かした。

 アリシャおばさんは、黙々と携帯メールと本を見比べて、本のいくつかのページにしおりを挿んでいく。

 しばらくそれを繰り返すと、一度本を閉じて、一番最初にしおりを挿んだページを開きなおした。


「……これで読めそうね」


 アリシャおばさんはそう呟くと、携帯メールの文字化けした差出人名と本を、再び、見比べた。


「えっ……と、…………す…………り…………さ…………かな?」


 ……すりさ?

 すりさって、誰だろう?


 私は、聞き覚えのない名前に、首をかしげた。


「ん? ……アリシャ、それ、抜けてないか?」

「えっ?」


 ルドルフおじさんが、差出人名の真ん中あたりを指差す。

 私には、どれも訳の分からない文字列にしか見えず、どのことを言っているのか、さっぱり分からないが、アリシャおばさんはその指摘に、驚いた声を上げた。


「あら本当だわ、私ってばおっちょこちょいね」


 アリシャおばさんが、恥ずかしそうに微笑む。


「え~とね……、もう一度最初から読むわね」


 アリシャおばさんは、姿勢を正すと、三度みたび、携帯メールと本を見比べる。


「……す……す……す……、あれ……ここ難しい……。え~と…………ど……かな?」

「ど?」

「うん……、え~とね……す……ど……り……さ……かな?」


 ……すどりさ?

 ……あれ? すどりさって、もしかして……。


 私はふと、ある人物の名前が思い浮かんだ。それは、とても大切な人の名前……。


「あ、アリシャさん、その名前ってまさか…………!?」


 私が、アリシャおばさんに向かって声をかけようとした時だった。

 突然、携帯電話の画面から、光があふれたのだ。


「!」


 私は、その光の眩しさに目を閉じる。





 そして、次に目を開けた時には、大きなお城の前に立っていた。


「!!?」


 何が起きたのか分からず、目を擦るが、何も変わらない。

 アリシャおばさんやルドルフおじさんの姿を探して、辺りを見渡すも、誰一人いない。


「……ど、ど、どういうこと!!?」


 私は思わず、頭を抱えた。

 一瞬、また別の知らない世界に来てしまったのかと思ったが、目の前にある大きなお城には見覚えがあった。

 それは、ルドルフおじさんの運転する馬車でやって来て、しばらくその場で見入っていた、あのお城……。


「さ、サルクトア城……だよね?」


 私は、そのお城の名前を確認するように、誰ともなく呟いた。


「……それにしても、すごい静か……」


 私は、再び辺りを見回した。アリシャおばさんやルドルフおじさん達がいないのは相変わらずだが、それよりも、あまりに静かすぎることが不安を大きくしていた。

 まるで、自分以外、この世界には誰も存在していないような気さえする。


「……!」


 辺りをうかがいながら耳を澄ませていると、誰かの声が聞こえたような気がした。

 私は、迷うことなく、声の聞こえた方へと足を進める。


「……?」


 しばらく歩いたところで、両手で膝を抱えて、しゃがみこんでいる子供の姿が見えた。

 可愛らしいフリルのついたドレスを着た、女の子だ。

 女の子はどうやら、泣いているようだった。


「うっく、ひっく、カシュおにいちゃん……、どうして……なっちゃったの……」


 女の子が、泣きながら誰かの名前を呟く。


「……カシュ?」


 聞き覚えのない名前に、私は首をかしげた。


「レナードおじちゃん、マイリアおばちゃん、レグルスおじちゃん……。みんな、いなくなっちゃう……」


 ……レナード、マイリア、レグルス……。

 みんないなくなるって、どういうことだろう?


 私には、女の子の言葉の意味がまったく分からなかったが、泣いている女の子をそのままにしておくわけにもいかず、その女の子に声をかけた。

 しかし、女の子は、何の反応も示さず泣き続ける。まるで、私の声が聞こえていないかのように……。


「!?」


 突然、女の子の真後ろに、黒い布をその身にまとう、どこか少年のような顔立ちをした、男性が現れた。

 その体格や、見た目の容姿からでは、とても少年のようには思えないが、顔立ちだけは、男の子と呼ぶにふさわしいような、不思議な姿だった。

 その男性の、純金の長髪が、風もないのにサラサラと揺れる。

 女の子の様子を見て、男性は、ニヤリと、不気味な笑みを浮かべる。


「……」


 その笑みを見た瞬間、私の身体全体に、悪寒が駆け巡った。


 ……何だろう……。この嫌な感じ……。


 身体中の血が、凍りついてしまうような錯覚に陥った私は、一歩も動くことができず、その場に立ち尽くした。

 黒い布の男性は、女の子を自らの布で覆い隠すと、徐々にその姿が、幻のように消えていく……。



 その時、突如、私の右手が激しく震えた。

 いつからその手に持っていたのか、まったく分からないのだが、私は、携帯電話を右手に握りしめていた。

 携帯電話を開くと、新しいメールが届いていた。私は、おそるおそるメールを開く。





 りん、あの女の子を助けて!!





 メールにはそう書いてあった。

 今回のメールの差出人名は、文字化けしておらず、しっかり名前が記されていたが、それを見た瞬間、私は、全身鳥肌を立たせて硬直した。









 差出人は『須藤すどう理紗りさ










「お母さん……!!!?」

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