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5話、意地悪な騎士


「……」


 ルドルフおじさんの運転する馬車で辿り着いたところは、大きな……とても大きなお城の前だった。

 サルクトア王国のシンボルともいえるお城。サルクトア王城……。見た目の様相からは、華やかな雰囲気が微塵も感じられず、どこか、強烈な威圧感を覚えさせられる、そんなお城だった。

 私はそのお城の入り口前で、ひたすら呆然と見入っていた。はたから見た私の姿は、とても滑稽に映ったことだろう。とにかく私は、お城の大きさに圧倒されていた。


 ルドルフおじさんが、アリシャおばさんを連れて、城内へと入って行ってから、ずいぶんと時間がたっている。

 入城の許可をもらってくるからって、言ってたけど、大丈夫なんだろうか?

 それほど長い間、一緒にいたわけじゃないけど、いつもそばにいてくれたアリシャおばさんと離れると、なんだか不安な気持ちになる。

 幸い、フィリナさんや祐太さん、テリオルさんが今もそばにいるので、不安な気持ちが、それほど大きくならないのが救いだった。


 テリオルさんとフィリナさんは、私のすぐそばで、姿勢を正して、緊張した面持ちで立っている。

 二人は、サルクトア王国の宮廷騎士らしいんだけど、普段の仕事は、街の警備や巡回だから、こうしてお城に来ることは、ほとんどないんだって。

 一方の祐太さんは『ひなたぼっこする』って言って、すぐ近くに止めてある、私達の乗ってきた箱馬車の屋根の上で、のんびりと寝転んでいた。

 羨ましいくらい神経が図太いらしく、こちらはまったく緊張感の欠片もない。


 しばらくお城の前で、ルドルフおじさんとアリシャおばさんの帰りを待っていると、お城の中から現れた、年配の男性に声をかけられた。

 ルドルフおじさんと同い年くらいだろうか、その男性は、重厚な鎧をその身にまとった、熟練の騎士を思わせる姿だった。

 身につけた鎧の胸元には、立派そうな勲章がいくつもついており、顔立ちもどこか陰のある、鋭い瞳が印象的な強面の風貌。ただ、髭を生やしていない分、ルドルフおじさんよりも若くは見える。


「先ほどからここにいるようだが、何か用なのかね?」

「あ、ラムナス公爵様」


 テリオルさんは、その男性のことを知っているらしく、緊張感溢れる表情で応対する。


「君は、私のことを知っているようだね」

「は、はい、私は、サルクトア宮廷騎士団、東方小隊所属のテリオルと申します」

「東方……、アイルナミア家が率いる宮廷騎士か、隣にいる者もそうなのかね?」

「お、お初にお目にかかります。東方小隊所属のフィリナです」


 話の様子からして、フィリナさんは、ラムナスさんっておじさんとは、初めて会うようだった。

 二人とも襟元を正して応対するので、このラムナスさんって人は、偉い人なのかもしれない。

 私も、テリオルさんやフィリナさんの緊張を感じ取り、背筋をピンと伸ばしていた。


「で、君も騎士なのかね?」

「! は、はい……」


 テリオルさんやフィリナさんの様子に気を取られていた私は、ラムナスおじさんの問いかけに、思わず『はい』と返事をしてしまっていた。

 テリオルさんとフィリナさんが、驚いた顔で私を見てる。


「あ、えっと、その、騎士じゃ、なくてですね」

「……では、何なのかね」

「……」


 すごい迫力のラムナスおじさんに、私は、もう何も答えられなくなっていた。

 テリオルさんやフィリナさんが、ラムナスおじさんに声をかけ、私から気をそらそうと取り計らってくれているのだが、まったく効果がなく、睨みつけるような目で、私のことを見続けている。


 ……う~、誰か助けて……。


「ふあ~~~~~……」


 突然、誰かが気の抜けた声を上げた。

 その瞬間、ラムナスおじさんの視線が私から外れて、声のした方へと顔を向けていた。

 私も、それに釣られて、声のした方へと顔を向けた。


「はあ~~~~~……」


 声を上げたのは、箱馬車の上でひなたぼっこしてた、祐太さんだった。

 変な声だと思ったら、どうやらそれは、祐太さんのあくびだったみたい。


「……ん、ああ、こんにちはレフトこう

「……そんなところで何してる」

「ひなたぼっこ」

余所よそでやれ」


 ……レフトこう

 祐太さんって、ラムナスおじさんのこと知ってるの?


 私は、祐太さんとラムナスおじさんの二人を、交互に見回した。


「それよりさあレフト公……。ルドルフさんやアリシャさんが、城内に入ってからしばらく経つんだけど、戻ってこないんだよ。ちょっと様子を見てきてくれない?」

「……お前、この私をあごで使うつもりか? そんなことは、そこにいる宮廷騎士に頼めばよかろう、宮廷騎士なら城内の出入りは自由だ」


 ラムナスおじさんはそう言いながら、テリオルさんやフィリナさんの方へ、目を向ける。


「いいでしょ別に、どうせレフト公だって暇なんだろうし」

「勝手なことを言うな、暇ではないわ」

「それならレフト公が入城の許可を出してよ、そしたらうちらで探しに行くからさ……。レフト公なら、それくらいの権限持ってるでしょ?」

「……」


 祐太さんとの話に、ラムナスおじさんは難しそうな顔をする。


「……分かった、祐太、それにりん、お前たちの入城を許可する」

「えっ!? あ、ありがとうございます」


 思ったよりあっさりと入城許可が下りて、ちょっとビックリしたけど、言ってみるもんなんだね。

 私は素直に、ラムナスさんにお辞儀をしていた。


「まずは謁見の間に向かうがいい、場所はテリオル、お前が知っておろう」


 ラムナスおじさんが、お城の方へと身体を向けながら問いかける。

 テリオルさんは、改めて、姿勢を正して、一礼した。

 そんなテリオルさんの様子に、ラムナスおじさんは満足そうにうなずくと、お城の入口へと歩いて行く。


「……ふぅ、こ、怖かった」


 ラムナスおじさんの後ろ姿を見て、私は、ようやく安堵の溜息をもらして、その場にへたり込んだ。

 強烈な威圧感に圧倒されっぱなしだった私は、緊張が極限に達して、腰が抜けて、その場に立っていられなくなったのだ。


「りんちゃん、大丈夫かい?」

「あ、すみません」


 テリオルさんが、そっと手を差し伸べてくれた。

 私は、テリオルさんの手を借りて、なんとか立ち上がる。


「なんていうか、すごい人っていうのかしらね」


 背を向けて、城内へと消えていくラムナスおじさんのことを、フィリナさんが、呆然と見つめながら呟いた。


「あの人が、サルクトア王国の北部地方、レフト領の領主。ラムナス・レフト公爵……。騎士としての名声は高いし、領民からの信頼も厚い優秀な人なんだけど……」

「……?」

「俺はあの人、あんまり好きじゃないんだよね~、性格悪いし……」


 ……そ、そうなんですか?


 祐太さんの説明に、私は、苦笑いを浮かべるしかなかった。


「……りん達は、気付かなかったの? あの人うちらをからかってたんだよ」

「えっ?」


 祐太さんの言葉に、私は、テリオルさんやフィリナさんと顔を見合わせた。

 テリオルさんやフィリナさんも、驚いた顔をしてる。


「ふぅ……その様子じゃ気付いてないね……」


 祐太さんは、私達の様子を見て、小さな溜息を吐く。

 そして、箱馬車の屋根から飛び降りると、私のすぐ隣までやってきた。


「りん……、レフト公はどうしてりんの名前を知ってたんだろうね」

「え……」

「りんはレフト公に名乗ってないはずなのにね」

「……あ……」


 祐太さんの説明に、私は、実に間の抜けた声を上げていた。


 ……そういえば、確かに、名乗ったことのないはずの私の名前を、ラムナスおじさんは呼んだよね……。知らないはずの私の名前を知っていたということは、つまり……。

 ………………なんだ、からかわれてただけだったのか……。

 ………………妖精さんにもいろんな人がいるんだね……。


 私は、安心したような、ガッカリしたような、変な気分だった。


「あの人たぶん、最初からうちらに城に入れって言うために来たんだよ」

「……」

「そしておそらく、ルドルフさんたちのいる場所は、謁見の間……」

「そういや、確かラムナス公爵もまずは謁見の間へ向かえとかって言ってたな」


 祐太さんの言葉に、テリオルさんが納得したように呟く。


「ほんっとに性格悪い、あの人」

「……公爵様のことはともかく、謁見の間に行きましょ。入城の許可はもらったんだし」


 フィリナさんに促され、意地悪なラムナスおじさんのことは、とりあえず忘れることにして、私達は、サルクトア城の中へと足を踏み入れた。

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