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4話、神暦(かみごよみ)文字

 


 私は今、ルドルフおじさんの運転する箱馬車に乗って、アリシャおばさんとともに、サルクトア王国の城下町へと向かっていた。

 途中で、真田祐太さん、テリオルさん、フィリナさんに出会った……。あ、真田祐太さんは、最初からいたみたいだけど……。

 ともかく、今はその6人で、サルクトアの城下町へと向かっていた。



 ゴトゴトと揺れる箱馬車の中、私は、アリシャおばさん、フィリナさん、祐太さんの、3人との会話を楽しんでいた。

 そう、今、箱馬車の中にいるのは、テリオルさんではなく、祐太さんなのだ。

 テリオルさんは、女性へのナンパで、フィリナさんにお灸を据えられ、もうフィリナさんの隣にいるのは嫌だと、ルドルフおじさんの隣にいた祐太さんと、その場所を交換してもらっていた。

 

 最初のうちは、テリオルさんと場所を交換した祐太さんが、やけに恥ずかしそうに座ってた。

 祐太さんが言うには、フィリナさんって、お母さんにそっくりなんだって。

 そう言えば、祐太さんの初恋の女性が、フィリナさんのお母さんだって、ルドルフおじさんが言ってたっけ。

 祐太さんの方が、私より年上なんで、こんなこと言うのは失礼かもしれないけど、恥ずかしそうにしていた祐太さんは、可愛らしかった。


 ところで、話をしていて分かったのだが、祐太さんは、私と同じ世界から来たようだった。

 祐太さんの名前からしても、そんな気はしてたけど、実際に聞いてみないと分からないよね。間違ってたら失礼だし……。


 それにしても、祐太さんの持っていた物には驚いた。

 祐太さんって『かたな』を持ってたんだよ……。いわゆる日本刀を……。

 最初は、模造刀(刃のない、切れない刀)なのかなって思ったけど、どうも本物らしくて、妖精世界フェアリーランドの冒険では、必需品だよって言われちゃった。


 ……む~、妖精さんの世界って、なんかすごい危険があるのかな?


 すごい不安になったけど、危ない目に遭いそうになったら、私が助けてあげるって、フィリナさんに言われちゃった。

 何か、本来、私たち人間は、武器を持たずに妖精さんの世界を旅してて、危ない時は、一緒に冒険するフェアリーナイトに助けてもらうのが、普通みたい。

 だから、この妖精さんの世界では、祐太さんのように、人間が武器を持ってる方が不自然なんだって。


 ちなみに、祐太さんの持ってる刀は、知り合いから譲ってもらった物だって言ってた。

 その知り合いのことを聞くと、祐太さんは寂しそうな顔をした。祐太さんだけでなく、アリシャおばさんも寂しそうにしてた。

 二人の様子からして、その知り合いとは、過去に何かあったのかもしれない。

 二人の寂しそうな表情に、これ以上聞くのはなんだか忍びなくなったので、ごめんなさいと謝って、話題を変えようとしたんだけど、祐太さんが、いいんだと言って、刀を貰った経緯を教えてくれた。


 刀の前の持ち主は、前にルドルフおじさんが言っていた、サルクトア王国の英雄、フェアリーマスター神城祐也さんで、その話を聞いたフィリナさんは、すごく驚いてた。

 祐太さんは4年前(妖精世界だと30年前)に、祐也さんと妖精世界フェアリーランドを冒険したらしいんだけど、その冒険の終りに、祐也さんから刀を譲ってもらったんだって。

 何か、話の様子から分かったんだけど、その冒険には、ルドルフおじさんやアリシャおばさん、それにフィリナさんのお母さんも、フェアリーナイトとして参加してたみたい。

 そりゃ、フィリナさんが驚くはずだよね。

 王国の英雄と言われてる超有名人と、自分のお母さんに面識があったんだから……。

 でも、その冒険の内容は、サルクトア王国……だけでなく、妖精世界フェアリーランド全土を巻き込む騒動に発展する恐れがあるから、詳しいことは教えられないって言われちゃった。

 むむむ、そんなこと言われると、余計に気になっちゃうのが人のさがなんだけど、アリシャおばさん達に迷惑かけちゃうのは嫌だったので、聞きたい気持ちは自分の胸にしまいこむことにした。


 ともかく、刀はその冒険の終りに譲ってもらって、今も大切にしてるんだって言ってた。

 そのサルクトアの英雄に、私も会ってみたいなって言ったら、祐太さんやアリシャおばさんがまた寂しそうな顔をしてた。

 理由を聞いたら、サルクトアの英雄、神城祐也さんは、もう死んじゃったんだって教えてくれた。


 ……そっか、だから刀のことを聞いた時、祐太さんもアリシャおばさんもあんな寂しそうにしてたんだね……。

 ……大切な人が死んじゃうのって、寂しくて悲しいよね……。


 私も、お母さんが死んじゃった時のことを思い出しちゃった。

 私のお母さんは、一応病気で亡くなったってことになってるけど、本当は原因不明の突然死で、何で死んじゃったのか、お医者さんにも分からなかったみたい。


 ……お母さん……。

 ……!!


 お母さんの思い出にふけっていると、この妖精世界フェアリーランドに来る直前に、私の携帯電話にきた、不可解なメールのことを思い出した。

 お母さんの、お墓参りの最中に来たあのメール……。

 私は、携帯電話を取り出そうとポケットをまさぐった。


「!」


 その時私は、携帯電話を、アリシャおばさんの家に置いて来てしまったことに気がついた。

 携帯電話は、いつも私の服のポケットに入っているのだが、今着ている服は、今朝、アリシャおばさんから頂いたもので、自分の服ではなかったのだ。

 特に、今朝の着替えは、非常にドタバタしたものだったから、携帯電話のことなんて、頭の片隅にすら入ってなかった。


「ふぅ……」


 私は、いつもは欠かさず持ち歩く携帯電話を、うっかりアリシャおばさんの家に置いて来てしまった、おっちょこちょいな自分に小さな溜息を吐いていた。


「……?」


 ふと、溜息とともに、視線を自分の右手に向けた時、その探していた携帯電話が、てのひらに乗っていた。


 ……え……? ……なんで、どうして……?


 それは、間違いなく自分の携帯電話だった。

 アリシャおばさんの家に、置いて来てしまったと思っていた携帯電話が、さっきまで、ポケットまで弄って探していた携帯電話が、なぜか自分の右手に置いてあった。


「……」


 私は不気味に感じながらも、携帯電話を開くと、例のメールを確認してみた。

 相変わらず、差出人名は文字化けしてて、内容も前に読んだのとまったく同じ……。


「ん? りん、何見てるんだい?」


 携帯メールに見入っていると、祐太さんが声をかけてきた。


「え? あ、メールです」

「メール?」

「はい、この妖精世界に来る直前にメールが来たんですけど、意味がよく分からなくて……、誰かが私に助けを求めてるみたいな内容なんですけど……」

「どれ、ちょっと見せて……」


 私は、祐太さんに言われるままに、携帯電話を手渡した。 

 祐太さんもまた、私と同じように、メールを見て首をかしげた。


「う~ん、あの子のことを助けてあげて……か、確かに変な内容だね……差出人名も文字化けしてるし」

「……」

「でも、もしかしたらこれが、りんの目的なのかもしれないね」

「目的ですか?」

「うん、りんがこの妖精世界フェアリーランドで果たすべき目的……、それが達成されたとき、りんの手元に鍵が現れる……」


 祐太さんはそう言いながら、携帯電話を返してくれた。

 私は、再び戻って来た携帯電話のメールに、目を落とす。


「せめて、差出人が誰なのかさえ分かれば、もう少し目的を絞り込めそうな気はするけど……」

「……」


 祐太さんの呟きに、私も小さくうなずく。


 ……メールをくれたのって、お母さん……なのかな?


 メールが来たのが、お母さんのお墓の前だったから、お母さんが、私に何か助けを求めてるのかと思ったけど、妖精世界フェアリーランドとお母さんのつながりが、私にはさっぱり分からなかった。


「ん~、助けてあげて……ねえ。それにしても、ここの文字はずいぶん難しい文字が使われてるわね」

「!」


 隣から、携帯のメール画面を覗いていたアリシャおばさんが、ある部分を指差しながら呟いた。

 アリシャおばさんが指差したところは、文字化けした差出人名だった。


「あ、アリシャさんって、ここ、読めるんですか?」


 アリシャおばさんの言葉に、私は驚いて、声を上げた。

 アリシャおばさんは難しい顔をして、メールの差出人名をじっと見つめる。


「………………読めないわ」

「……」


 期待をあっさり裏切ったアリシャおばさんに、私は小さな溜息を洩らした。

 そんな私をよそに、アリシャおばさんは言葉を続ける。


「この文字って、たぶん、神暦かみごよみの文字よ」

神暦かみごよみ?」

「まだ、この妖精世界フェアリーランドを創造された神様が存在するって信じられてた時代に使われていたという文字のことよ」


 ……神様の存在って、妖精さんの世界でも、信じられていたんだね。


 私は、アリシャおばさんの言葉に、心の中でそっと呟く。


「今の妖精文字は、神暦の文字をもっと簡略化して使っているから、この文字を読める人はいないと思うわ」

「……そうですか」


 何かが分かるかもって期待が大きかった分、何も分からなかった喪失感ショックも大きかった。

 しかし、そんな私に、もう一度希望を与えてくれたのは、祐太さんだった。


「何はともあれ、りんの携帯に送られたメールが妖精文字で書かれていたってことが、これではっきりしたね」


 祐太さんはそう言いながら、運転席にいるルドルフおじさんに、顔を向けながら声を投げる。


「ルドルフさん、ちょっと行って欲しい所があるんだけどいいかな?」

「……話は聞いていたから、どこに行きたいのかは言わなくても分かるけど、ちょっと時間がかかると思うぞ」

「……それでも、やっぱり行かなきゃ駄目でしょ、りんの目的のためにはさ」


 祐太さんはそう言って、私の方へと振り返ると笑顔を見せた。

 助けてもらってばかりの私は、なんだかとても、申し訳ない気持ちになり、そっと頭を下げていた。

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