1人の雛鳥と2人の母鳥
皆さんは“カッコウ“という鳥をご存知でしょうか。
カッコウとは鳥綱カッコウ目カッコウ科に分類される鳥です。生息域は森林や草原に分類し、日本では主に山地に生息します。
ここだけ聞くとごく普通の鳥ですが驚くべきはその種の保存の仕方です。カッコウの親鳥は他の種の巣に卵を産み落としそのまま雛鳥を育てさせる。つまり育児を放棄するのです。これを托卵といいます。
確かに托卵が種の繁栄に繋がるのは分かりますが、もしカッコウという鳥を人間に置き替えるとどうなるのでしょうか。
ーこれはわたしの生みの親鳥と育ての親鳥。2人の母から聞いた物語です。
4月下旬、桜が散りゆく中で一つの命が生まれた
「オギャー!オギャーー!」
「ハァ…ハァ 始めまして、産まれてきてくれてありがとう…」沙知は涙を流し、産まれたばかりの我が子を優しく抱きしめた。
「ではこの子はもう」
看護師が赤ちゃんを受け取ろうと両手を差し伸べる
「やだっ!やっぱりやだ!私が育てたい!…私の…子供だから…!」
「俺たちじゃまだ…沙知分かってくれ」
「そんなのは…わかっ…てる」
沙知は握ったその小さな手を離そうとしなかったが、ついに決心しゆっくりと我が子を受け渡した。部屋から我が子を連れ去る看護師の姿は涙でなにも見えなかった。
「うぅっ…あぁあぅっ」
涙が止まらずその場で顔を埋める沙知。父親になるはずだった和樹は沙知の手を握った。
2人はまだ16歳の高校1年生であり、当然そんな2人では子供を育てるのは難しい。そこで2人は里親制度を選択した。
里親制度とは家庭で暮らせない子供たちに家庭の場を提供し、養育する制度。
互いの両親おり混ぜての話し合いで決まったことだった。
まだ人を育てられるのは無理だろう。2人はそう判断された。