私は本当に嫌な女
ダグドは時々しか私達の館に来ない。
館どころか領地にもほとんど出てこないのだから、私達の所に来てくれるだけでもそれはありがたい事なのだろう。
私達は毎日会いたいが。
そこで、私はやってはいけない事をした。
彼の昼ご飯のトレーに、ダグド様と話がしたい、と書いたメモを置いたのだ。
結果は驚きだ。
彼は来た。
そして、私を呼び出すと、何があったのだ、と本気で心配した声を出した。
ただ会いたかっただけ、は許して貰えるのだろうか。
「ええと、あの。」
「何だい?ノーラ。」
彼はなんと、しゃがみ込み、私を覗き込むようにした。
目尻に笑い皺ができていて、なんて優しそうなほほ笑みで私を見つめるのだ。
私は取りあえず、ここ数日間で疑問に思っている事を伝えようと考えた。
話したいとメモに書いておきながら、話題一つ持っていなかった自分を責めてもいた。
どうして、会いたい、と書かなかったのだろうって。
そうしてこの事態は自分の引き起こした結果なのだからと、くだらないと、彼に叱られてもいいと覚悟を決めた。
「あの、も、モニークが分解した金属の箱は、数字の計算が合わないと思うの。」
事実はエレノーラが分解してモニークが直したものであるが、彼女達が弄る前では部屋の灯が全部点いて機械も全部動いたが、直してからは全部を点けようとすると真っ暗になるので、機械の使用時間や部屋の電気を点ける場所などを計画して実行しなければならなくなったのである。
このような機械やスイッチを押せばつく灯りなど無かった世界に十二年も生きていて、このダグドによる魔法世界に住んでふた月と少し、好きに灯りを点けられないとたった数日で不便を感じるようになるとは、神様が言う通り人間は堕落する生き物なのかもしれない。
やっぱり彼は人を駄目にする暗黒竜なのか。
けれど、私の告白によって暗黒竜こそ駄目になっていた。
「え、数字が合わないって、え、もしかして、配電盤弄った?うそ、あそこを弄ったの?死んじゃうよ。感電したら死んじゃうよ!えぇ、嘘。違うと言って。ノーラ、違うよね。君が言っている事は俺の考えている事じゃないよね。」
もう、両手で頭をわしわしやっての、彼はパニック状態なのだ。
私はダグドの助けになればいいと考えながら、私が見た物がダグドの言う配電盤では無いはずだと説明を重ねた。
「違うと思います。だって、沢山の線があって、決められた数字内に線を繋ぐものでしょう。間違えても誰も死にはしなかったもの。違います。」
彼はキャーと叫び、物凄い勢いで部屋を飛び出していったが、そこは、エレノーラとモニークによって破壊された金属の箱のある場所その場所だった。
そこで彼のキャーという叫び声が再び上がった。
「うそ。あれが配電盤っていう、死んじゃうかもしれないものだったの?」
結果、モニークとエレノーラはダグドにきっちりと叱られ、私はダグドに頭をわしゃわしゃと撫でられて褒められた。
その上、モニークとエレノーラは、危なかったんだよ、とダグドに抱きしめられもしたので、私は二人に嫌われるどころか感謝される立場になった。
また、アリッサとリリアナからは、不便だった日常が元通りになったと私を英雄扱いまでしてくれた。
私はずっとその場では微笑んでいたが、褒められて頭を撫でられるよりは私もダグドに抱きしめられたかったのだと、その夜はベッドで泣いた。