相談相手
恋人がキスもしてくれない、そんな相談を誰にするべきだろう。
リリアナもアリッサも恋人どころか恋愛もしておらず、さらに言えば、私の相談を酒の肴にして喜びそうなだけなので問題外であり、そして、シェーラなどはカイユーに片思いしていたのだから、そのような相談など出来る筈は無い。
私はそこまで鬼畜では無い。
それに彼女は昨日ダグド領を去ったばかりだ。
では、イヴォアールという恋人がいるモニークか?
いや、駄目だ。
あんなに可愛い彼女と私は違うという事に気が付いてもいない彼女は、絶対に、きっと、親切心だけで、自分を経験豊かにしてくれたイヴォアール様に相談する事だろう。
イヴォアールは私の天敵のアルバートルの副官で親友だ。
絶対に絶対に、そんな悪手は取れやしない。
アルバートルは私をカイユーから遠ざけたいと思っているようで、私には意地悪舅みたいな存在となり、彼は私を小馬鹿にしたり横暴な事しかしない。
私はあの日シェーラに本気で刺されていたというのに、大丈夫か、と尋ねることもなかったのだ。
確かにシェーラが使ったナイフは本当に小さくて、薄皮一枚破れた程度の傷口でしかなかったが。
私がグフっとなって一時動けなくなったのは、シェーラの拳が鳩尾にしっかり入ったからだ。
彼女は私をグフっと言わせた後に、拳で握っていたナイフで私を傷つけて私から血を流させたに過ぎないのである。
では、新婚のエレノーラか?
……エレノーラが助けになるはずは無いじゃないか。
彼女とダグドが相思相愛でありながら全く発展しようともせず、その関係に痺れを切らして後押ししたのはこの私自身では無かっただろうか。
そこで、私は目先を変えることにした。
私はカイユーの親友を呼び出したのだ。
カイユーも呼んだこともない私の部屋だが、内緒話をするにはここしかないし、それに、エランだって入ったことがあるのでいいだろう。
そして私に呼び出された男は、割合と図々しい素振りで私のベッドに腰かけ、私が自分の書き物机用の椅子に座って彼にお菓子やお茶を差し出しながら教えを乞うという情けない格好となった。
けれど、人の部屋で寛いで見せていた男は、私の相談を聞くやとってもがっかりしたようにして両手で顔を覆った。
「聞くんじゃなかった。なにこれ、最悪。姐さんにはがっかり。いや、デリカシーが無いのは知っていたのだから、これは姐さんの通常運転か?」
「どうしたらカイユーはそんな気持ちになるかしらって、普通に可愛い乙女の相談でしょう。そんなに最悪な事かしら?」
彼は顔を覆っていた手を顔から下げて、でも、口元は両手の指先で覆っているという状態で私をじっと見返した。
「シェーラちゃんのさ、お姉さんが捕らわれていた売春宿を姐さんも見たでしょう。そこでどんなことが繰り広げられていたのか、姐さんはその目で見たよね。シロちゃんの映像だけだったけどね、ちゃんと見たよね。」
シェーラが私を刺したのは、カイユーを私に奪われた腹いせではなく、彼女がガルバントリウムの間者だったからである。
彼女は父親と姉を人質に取られており、彼女の家族を人質に取った男を呼び出すために私を人質に取ったのだ。
数日前のあの告白しあって幸せだったはずの私達は、そのまま普通に幸せに終わるどころか、あのアリのドライブの目的地の狼村にてガルバントリウムの暴徒と一戦を交えたりと、本当に大変な目に遭ったのである。
私の恋敵だったシェーラこそ散々だろう。
彼女の家族は全て酷い目に遭って死んでいたのだ。
シロロに頼んで探索してもらい見つけたシェーラの姉の最期の地、フェールが語った売春宿にはシェーラの姉は既に死んでいなかったが、そこで働かされている女性達は、人以下の存在として嬲られて痛めつけられていた。
「見たわよ。凄く胸糞悪かった。だからあなた達に壊してってお願いしたのじゃない。あの人達を助けてってお願いしたのじゃない。それがカイユーとどう繋がるの?」
フェールは真ん丸な目で私を数秒眺めてから、私から顔を背けて、素か?演技か?と何やら呟いた。
「ねえ、何が言いたいのよ。」
彼はくるっと振り向くと、久しぶりにノーラと私の名前を呼んだ。
「ノーラ。君は男と女がする繁殖行為についてどこまで知っているの。」
「な、何を急にそんなことを、い、言うかな!」
「いいから!はい、男と女が裸になりました。その後は何が起きるの?」
「え、普通にベッドに行くでしょう。そこで結ばれるのでしょう。」
「どういう風に。」
「言わなきゃ、……駄目?」
「重要だよ。さあ、言ってみて。俺の的確なアドバイスが必要なんでしょう。」
私の頭には初夜の穴の開いたシーツが浮かび上がり、私はそのシーツが意味する行為をフェールに口にしていた。
「お、女の穴に、男の出っ張りを入れるんでしょう。」
「あ、知ってたんだ。じゃあ、わかるよね。売春宿で行われていた事を自分に置き換えてみた時、カイユーを怖いものと見てしまうんじゃない?カイユーはそこを気にしているんだと思うよ。」
「どうしてカイユーが気にするの?」
「え、説明したでしょう。」
「カイユーはあんなことを絶対にしないわ。それに私達は愛し合っているもの。それがあんな行為になるはずは無いでしょう。愛し合っている二人は優しく抱き合っての行為でしょう。」
フェールは、そうきたか!と叫んだ。
「な、何がそう来たのよ!」
「いや、ノーラが無邪気な耳年増な修道女だったって、話だよ。ああそうか。だからノーラは俺を平気で自分の部屋にいれちゃうし、あの修道士に好かれるのか。ああ、わかった。どうしようかな。まぁ、とりあえず、シロロちゃんとかくれんぼしよう。」
「え?」
私がフェールに意味がわからないと見守る中で、彼はベッドから立ち上がるとそのままベッドのわきにしゃがみ込み、何もないベッドの下に手を入れて、なんと、手を引き出した時にはその手の中にはシロロがいた。
「え、ベッド下には何もなかったはずでしょう。」
驚く私の目の前でシロロはしゃくりあげて涙ぐみ、フェールの手を振り払うと、そのままたかたかと足音を立てて部屋から走り去っていった。
「ちょっと、待って!シロちゃん!どうしたの!」
私は自分の相談事よりも、いつもと違うシロロの素振りの方が気になって、結局私の相談はうやむやに、フェールと一緒にシロロかくれんぼに突入した。
ああそうだ。
エランはシェーラの護衛としてシェーラと一緒にダグド領を旅立っていったのだった。




