モニークとリリアナが脅えるわけ
「エレ姐。これはなんですか?」
「銃よ。護身用。」
「え?」
私は驚いていた。
エレノーラと馬車の御者台に座ったのだが、そこには大きな大砲が転がっていたのである。
銃というものを使う騎士を一度見たことはあるが、彼はとっても小さく、そして細く長い筒が付いた物を銃だと見せてくれたはずだ。
これは筒の太さが赤ちゃんの拳が出てくるくらいあって、筒の長さが女性の肘から手首ぐらいという大きさのあるものなのだ。
「こんなに大きな銃ってあったのですか?」
私の驚きにエレノーラはクスリと笑った。
「これはダグド様特製なのよ。」
「魔法の銃、ですか?」
「ふふ。そう。この世界は女子供には危険がいっぱいだからって。」
「あの、領地の大人の人達は同行しないのですか?」
「彼らもね、外が怖いから。仕方が無いわ。」
「ははん!城門が入れてくれなくなったら困るもの。それが怖いって話よ。」
私はアリッサの言葉に荷台へと振り向いた。
彼女はダグドから渡された布と一緒に荷台に乗りこんでいる。
昼寝がしたいからだと言っていた通り、彼女は既に寝転がっており、私の視線を感じるとニヤリと不敵な笑顔を見せた。
「で、あなたはそれでも行くのかな?」
城門に拒まれた映像が脳裏に閃き、私は心臓がきゅうと縮んだ気がするが、それでもこんな小さな子供に馬鹿にされたくないと顎を上げた。
「行くわよ。」
「あら、あなたって骨があるのね。喜ばしいわ。」
そうして馬車はガラガラと音を立てて進み、なんと外と領地の境となる第一の城門、私が叔父に突き飛ばされた門の所に、ダグドが心配そうな顔つきで立っていたのである。
あなたは破壊竜とか、暗黒竜とか呼ばれていたはずでしょうと、こっちが心配になるほどの不安そうな顔つきだ。
「気を付けるんだよ。何かありそうだったら、すぐに帰って来るんだ。無理はしない。いいね。そんな布も身の危険を感じたら投げ捨てたってかまわない。」
私はここまで心配するダグドにほろりと来たが、エレノーラはダグドから貰ったという大筒をガチャリと音をさせて彼に答えた。
「わたくしが信用できませんの?」
ダグドはハッとした顔つきに戻ると、行ってらっしゃいと弱々しく呟いた。
しかし、こんな機会を逃さないのがアリッサだ。
彼女は荷台の端に移動すると、ダグド様!と彼に抱きついたのだ。
「こうしてダグド様が心配してくれるなら、私は何度でも市に行って、何度でも無事に帰ってまいりますわ!」
「ハハ、もう、アリッサは。君も気を付けるんだよ。君は大人だけど、子供なんだからね。」
「もちろんです。私はいつまでもダグド様の子供ですわ!」
アリッサはぎゅうとダグドに抱きつき彼にも抱き返されており、私は自分の年齢が二桁であることをこんなにも悔しく思った事は無い。
私も八歳であったなら。
そんな私とエレノーラは同じ気持ちになったのだろう。
ガチャリと再び大きく銃の音をさせたのだ。
二人は氷を背中に入れられたようにひゃっとなって離れ、それからなんと、エレノーラがダグドに右手を差し出した。
「今回は突風とげんこつがあればいいかしら。」
「ホームタウンは絶対だ。」
私はなんの事だと思いながら見ていると、ダグドはエレノーラに三枚の札を手渡し、絶対に帰って来いと彼女を抱きしめた。
そして、それだけでなく彼は右手を伸ばし、私の頭をポンと撫でたのだ。
「君も気を付けるんだよ、ノーラ。」
「はい。」
私はとっても嬉しそうに微笑んで見せたが、実は私も抱きしめて欲しかった。