アリッサの余計なお世話
アリッサは宴会からシェーラとカイユーが姿を消したと訝しんだというのだ。
ただし、シェーラは館に一人で戻ってきており、部屋で泣いていたそうだ。
「どうして?」
「大好きなカイユーがあの子を放って姿を消したからでしょうが。しょっぱなから話の腰を折らないで。」
「ごめんなさい。」
アリッサに謝りながら、そういえばコポポル行きの日からずっと、シェーラはカイユーを追いかけていたなと思い出していた。
そうだ。
カイユーが大怪我をした日も、彼女は彼の枕元にいたでは無いか。
私がカイユーにいらないと言われた日でもある。
「ちょっと、聞いている?聞きたく無いのかな。」
「ごめん。聞きたい。お願いします。」
「よし。」
アリッサは人を慰めることなどしたことは無い。
彼女自身が人からの慰めを求めたことが無いからでもある。
しかし、シェーラの泣き声はアリッサの神経を逆なでするほどに哀れであり、また、アリッサの大嫌いな幽霊話の幽霊の泣き声みたいでもあり、彼女は宴会場に戻って酒のボトル一本でも盗んで来ようと考えた。
酒を飲ませればシェーラだって泣き止むだろう。
「未成年だって、ダグド様に叱られるわよ。」
「シェーラは二十歳じゃ無いの。ここに来た時にはすでに十四歳だったじゃない。当時は十二歳位に彼女は見えたけれどね。」
「あ、そか。なんだか、あなたぐらいに見えるのよね。時々。あなたが大人びているからかもしれないけど。」
「はっ。アルバートルに聞かせたいわね。あいつは私をベベって呼んだわよ。誰が赤ちゃんよ。」
私は顔を真っ赤にしてアルバートルを罵っているアリッサが初めて年相応に見え、凄く可愛らしいと、彼女と付き合って九年目にして初めて思ってしまった。
私の視線というか、私の内心を読んだのか、アリッサは大きく舌打ちをすると、再び続きを話し始めた。
続きと言ってもそれほど長くも無い。
つまり、階段を降りたところで差支配人室で男と女の囁き声が聞こえて耳を澄ましたら、アルバートルがエレノーラを篭絡しようとしているところだった、というだけである。
「エレ姐はね、絶対にできないって頑なで、それであたしが一肌脱いだの。あら、ダグド様のお城で一晩?素敵ね。シロロちゃんのベッドと言わず、ダグド様のベッドに潜り込みたいわね。私が裸になったら、いくらダグド様でも私をベッドに入れてくれるでしょう?って。」
彼女としてはエレノーラさえうんと言えばいいぐらいの気持ちだったが、そこでアルバートルが余計なことを言い出したのだそうだ。
「無理。君はまだベベちゃんじゃないか。裸になっても全然無理。」
「なにおう!」
アリッサは当初の思惑など忘れてアルバートルに噛みついたが、アルバートルはそんなアリッサをグイっと自分へと引き寄せてそのまま腕に抱いた。
アルバートルの左手はアリッサの腰に蛇のように巻き付き、だが、アルバートルの右手の指先はとても繊細に、まるで羽毛のようにアリッサの頬や首筋をなでていくのだ。
「え、あ、はぁ。」
アリッサの身体は撫でられる事で、ぞくぞくと背中の、それも腰の辺りが電気に感電してびくびくとするようで、自分を支えて立てるはずの脚でさえそこにあるのかわからない程の混乱をしてしまった。
そんな混乱したアリッサの耳元に、それも耳たぶに吐息が掛かるようにして、アルバートルが囁いて来たのだ。
「俺が手ほどきしてやるよ。それで、もう少し色っぽくなったら、俺がダグドのベッドに放り込んでやる。この気性は気に入った。俺が磨いてやる。君がダグドを堕として、ダグドの花嫁になればいい。」
アリッサを助けたのは勿論エレノーラだ。
彼女は自分の兄に幼い妹が崩壊されるくらいなら、と、シロロの身代わりになるという悪巧みに与する事を受け入れたのである。
話し終わったアリッサは、話す前の偉そうな顔つきが消えて、なんだか少々涙目の頼りない雰囲気になっていた。
しかし、彼女は顎をぐいっと上げて、アリッサらしい台詞を言った。
「どう?私のお陰でしょう。」
「ええ。あなたこそ功労者だわ。よくもあんな肉欲淫行魔人に対峙できたものだわ。あなたって本当に度胸があって素晴らしいわ。」
私は彼女を褒めながら抱きしめていた。
でないと、アリッサが可愛いと吹き出してしまいそうなのだ。




