アリッサの耳打ち
私は急いで事の次第をダグドに告げに行こうとしたが、私の腕はアリッサに掴まれて引き留められた。
「バカね。モニークの捜索はイヴォアール様直々よ。それに、あの子は無事ですってよ。無傷。ただし、西の森という訳の分かんなさでホームタウンが使用不可という障害があるのですって。」
「そ、そう。それなら、モニークは、あぁ、戻って来れるのね。」
「あの飛行機はぐちゃぐちゃらしいけれど。」
「そう、私はモニークに謝っても謝り切れないわ。」
「うわ。本気でいい子ちゃん。あんなの、壊れてせいせいでしょう。」
私はアリッサを責めることどころか、先月ぐらいだったら同じようにざまあ見ろと言っていただろう。
「そうね。以前の私だったら言っていた。でも、今はそうは思えない。私がもうその特別を羨ましいと思わなくなっているから。だってね、本当に飛行機が欲しければ、私達はダグド様に強請れば良かったの。モニークの飛行機を奪おうとするのでは無くて、新しく作ってとお願いすれば良かったのよ。」
そこで洗濯機が終了のベルを鳴らし、私はガラスの扉を開けて乾燥も終わった洗濯物を取り出した。
「洗濯機も三台あれば十分なのに、六人それぞれに一台で六台もあるわ。見張り台の個室だって、まあ、アルバートル達に取られちゃったけれど、あそこも六室。人のものが欲しいといっても無理だけど、新しく欲しいって言えばダグド様は与えてくれた。」
「わかっている。ええ。みーんな同じ。みーんな。ただ、ダグド様の愛を求めて取り合っていただけね。その点でいえばシェーラは凄いわね。欲しがるどころか拒否をしている。」
「そうなの?」
「ええ、そうよ。同じが嫌みたい。でも、特別も嫌みたい。訳がわからない。」
「カイユーだったらわかるかな。彼はシェーラと仲がいいもの。」
「あいつこそわかんないでしょう。あいつは一人の女に夢中だもの。」
「そっか。そんなに好きなのね。モニークの事。」
私はカイユーの服を畳みかけ、畳めなかったのはアリッサに奪われたからだ。
「畳んでくれるの?」
「するわけないでしょ。ハイ、私に注目。私はあなたが数秒前に言った台詞を聞き返したいだけよ。なんですって?カイユーがモニークを?何を言っているの?」
「あら、だって。褐色の肌の男が魅力的なのかなって、私に聞いて来たわよ。すっごく思い詰めた様にしてね。それに、私には呼び捨てや姐さんなのに、モニークはモニークさんやモニークちゃん、じゃないの。わかりやすいでしょう。」
アリッサは百歳生きた老婆のように顔じゅうを皺くちゃにすると、私から奪ったカイユーの服を乱暴だけれど丁寧に畳みだした。
アリッサは誰よりも服を畳むのが上手いのだ。
ダグドはそんなアリッサを、彼女の前世がシブヤのカリスマショップ店員だったからと言って揶揄う。
シブヤってどこだ?
「ありがとう。手伝ってくれて。」
「いいのよ。なんだかカイユーがすっごく哀れに思っちゃったから。なんか、優しくしてあげたい気持ちになったのよ。うん、でも、畳むの下手なノーラのしわくちゃの方が良いのかな。」
彼女はせっかく畳んだ服をぐしゃっとさせると、私の方へ放り投げた。
「モニークは森。カイユー達も取りあえず戻って来ない。エレ姐とシェーラが見張り台の詰所でダグド様の相手をしている。あなたには誰にも邪魔されない長い時間があるわね。いいことノーラ。あなたは洗濯室に籠っていなさい。そして、可哀想なカイユーの行動の一つ一つを思い返して御覧なさい。」
「え?」
「だ、か、ら、ああ!もう、いい!私が今言った事全部忘れて!」
「え?」
アリッサは自分の頭をぐしゃぐしゃと両手でかきむしると、私が畳みかけたフェールの服を取り上げて、そして丁寧に畳みだした。
「もう!わたしはどうしてこんなに優しいのかな。もっと性格が悪かったらよかったのに。あぁ、ノーラの性悪さが羨ましい!」
「悪かったわね。嫌な女で。昨夜はエランにも真っ黒だって言われたわ。」
アリッサの手が止まり、私を見返した。
「うっそぉ!あなたはエランまで落としたの?あの品行方正君が?」
「までって何よ。それに、エランは落ちていません。品行方正な彼は私の利己的で真っ黒な所を尊敬するって言って来ただけよ。失礼よね。」
「あっはっは。ねぇ、昨夜って、本当はどんな悪巧みがあったの?アルバートルが全然教えてくれないんだもの。私がエレノーラの後押しをしてあげた功労者だというのにね。」
「え?あなたは何をしたの。」
アリッサはとっても悪そうな猫みたいににんまりとした。




