適材適所
ダグド領では誰もが何かの仕事をする。
それは大変なようで、実は各々の特性も認められるという事だ。
以前の村で年老いたからと捨てられた老人は、体が動かなくとも「知識」というもので領地に貢献させられているのだ。
こんなにもパワフルな老人を私は知らないって程に、ダグド領の老人達は体が不自由でもかくしゃくとしていた。
また、エレノーラの提案で領地の広場で領民全員の食事というものが行われていたが、それはこの領地の人達が家族に捨てられて独り身ばかリだからである。
独り身であったら農作業などをしている合間に自分の食事も作れはしないだろう、という彼女の深い考えからだ。
そして彼女の凄い所は、この仕事を別の領民に振っているという事だ。
この領地には家族からの暴力から逃げて来た女性や子供もいるのである。
全員が何かしらの仕事を与えられ、だから、一人一人がこの領地にはなくてはならない人間だ、そんな世界が作られているのだ。
ベッドに横たわる老人は昔話を子供達に聞かせ、子供達はベッドに横たわる老人の話を聞いてやる、というのも大事な仕事だとエレノーラが語った時には笑ってしまったが、でも、ここは誰かが誰かの事を考えていれば皆が幸せになれるという夢の実践場という天国だと私は思った。
それから、城の敷地内に別棟として建てられている私達の屋敷、そう、私達だけがここに特別に住めるのは、生贄の娘達が特別であったからだった。
何でもできる女神のようなエレノーラは言うに及ばず、リリアナは音楽の才能と賢さから、ダグドから音楽室という建物を与えられており、そこで領民の子供に音楽だけでなく読み書きをも教えていた。
小さなアリッサ。
ヘイゼルの瞳にピンクブロンドという不思議な髪色の少女は、まだ八歳なのに中年女性のような話し方をするという子供だった。
このこまっしゃくれたところが生贄に選ばれた所以なのだろうか、というくらいに、時々とても憎たらしくなる子供だ。
だからなのか、時々ダグドから渡される素晴らしい布地をダグド領の外の市へ売りに行く際には、エレノーラに必ず市へ連れていかれるのだという。
エレノーラがいない間に村民に生き埋めにされないようにするためかしら。
ほんとーに、憎たらしい時が時々あるのだ。
ダグドが私に話しかけて来たその時に、彼女はダグドに抱きつき抱き上げられ、ダグドの肩越しに私に優越感に浸った目線を寄こす、という風な。
あ、彼女を埋めたいのは私だけか。
「さあ、今回はノーラも行きましょう。」
「え、私ですか。でも、私は来たばかりですよ、エレ姐。」
一番年上のエレノーラを、生贄娘達はエレ姐と呼ぶしきたりだ。
確かに、母親かと思う程に、彼女は私達に対してとてもやさしい。
赤毛のモニークにはとてもぞんざいだが。
うん、適当だ。
ダグドの作った魔法の道具をエレノーラが解体し、直せなくなったらモニークに、ハイ、と彼女は手渡すのだ。
そのせいか、モニークはダグドに分解屋の小鬼と揶揄われている。
誰も訂正しないのは、恐らく、エレノーラが怒ったら怖そうだと何となく感じるところと、ダグドがエレノーラの次にモニークに話しかけるからかもしれない。
うわ、私達ってば、子供のくせに、なんて、女、なんだろう。
「で、聞いている?」
「あ、はい。ごめんなさい。でも、いいの?市は大事なんでしょう。私みたいな新入りが行ってもいいの?」
「今までは私とアリッサだけだったから、手伝いの手が増えるのは歓迎なの。モニークもリリアナも外は大嫌いって子達だから。」
「そうなの?」
私は驚いて子憎たらしい程のアリッサを見返すと、彼女は大人の女性のようにして鼻を鳴らした。
「大勢がいる場所が怖いんですってよ。あの二人は。で、あなたも外は嫌なの?こっちは猫の手も欲しい位なんだけど。」
「もう、アリッサったら、そんな言い方をして。ねぇ、いいかしら?商品を市に持って行って売って帰って来るだけのお仕事なんだけどね、売ったお金でこの領地には不足している小麦や砂糖、そして塩を買って来ないといけないの。」
「あと、綿の布地もよ、エレ姐。どーしてダグド様は綿を紡がないのかしら。」
「種がいっぱいで種を取るのが嫌だからですって。」
私は吹き出していた。
大男で大魔法使いの彼がしゃがみ込んで、種が邪魔だとぶつぶつ言いながら綿花を一生懸命解す姿を思い浮かべたからである。
「どうしたの、ノーラ。」
「何を笑ってんのよ。」
「あら、だって、ダグド様が種が邪魔って綿花を解す姿を思い浮かべたら。」
エレノーラもアリッサも噴き出した。
そして仲良く大笑いしたからか、私の市への同行は確定した。