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真夜中の船上にて

 船の上からは星の瞬きが見えなかった。

 イカ漁船には煌々といくつものランプが灯され、その明りで目がくらんで空が真っ暗に見えるだけなのだ。

 けれど、冷たい潮風と海のさざ波の音は気持ちがよく、私は来て良かったと再び空を見上げた。




 親友のモニークも企みごとに引き込んだ。

 だって、彼女もダグドとイヴォアールを天秤にかけてしまった袋小路の中にいるのだ。

 彼女は私の企みを聞くと、協力すると頷いた。


「やる。やってみる。あたしだって、ダグド様を思い切りたい。いつもの朝の飛行を遅らせて、ルートもフェレッカを避けるものにしてみる。」


 私は心の中で毎朝のダグド様との飛行というひと時、飛行機そのものとなったダグドの囁きを独り占めできるその時間を持っているモニークを羨んでいた。

 そして、そのひと時について聞くたびに、心の中はどす黒くなっていたのに、今の私には羨ましいというよりも、アールが私の耳元に囁いた時のどきりとした時や、肩に感じたカイユーの頭の重さや、そう、カイユーの整った鼻筋や長いまつ毛を思い出してどきりとしただけだった。

 あら、私は自分で思っていた以上に、ダグドを思いきれていたのかしら。


「あなたはダグド様の寵愛を失うことを覚悟していますか?」


「え、どうしたの?ノーラ。」


「うん。私はエランに今回の計画を実行した後の事を、この言葉で忠告されたのよ。あなたは大丈夫?せっかくのひと時を失うことになるかもしれないのよ。」


 モニークは考えてもいなかったのか、顔を青ざめさせ、でも、このままでは前にも進めないから、と私の目を真っ直ぐに見て言った。


「モニーク。」


「あたしはノーラみたいになりたい。いっつもダグド様はノーラを気にかけていて、そして、あなたは度胸があるから前へいっつも進める。」


「え、ダグド様が気にかけているのはモニークの方でしょう。いっつも、モニークに一番に話しかけるじゃない。」


「そんなことないわよ。ダグド様は必ず聞くもの。ノーラが何か企んでいないかなって。腰に紐をつけて屋敷の屋根から飛び降りる計画はもう無いだろうねって、未だに聞いてくるわよ。」


 いや、それは気にかけているんじゃなく、気にかけているのか。

 彼は私の行動に信用がない訳だ。

 彼にとっては私は誰よりも危険極まる子供だったようだ。


「俺と似ている馬鹿娘って、ノーラの事を言ってた。」


「そう?あなたの事は俺に似ている分解魔って呼んでいるわよ。」


 私達は笑いあい、ダグドを罠に嵌めてやろうと手を打ち合った。




「そう、私達は彼を結婚という罠に嵌めて前を進むのよ。」


「もう少し下がって、姐さん。海に落ちるよ。」


「あら、そう?」


 声をかけて来たカイユーを見返したが、彼は私に振り向くどころかそのまま船主と話すフェールの所へと歩いていった。

 彼らは相手がクラーケンだからと、何度も打合せ、彼等や私達の安全の確認を何度もしているのだ。

 フェールもカイユーもいつものふざけている雰囲気は一切消しており、とてもピリピリしていて怖いくらいだ。

 私は船の中央で胡坐をかき、何かの歌を歌っているシロロの傍に行った。


「その歌もクラーケンを呼び出す歌かしら?」


「ううん。ただ歌っているだけ。これから戦うのだもの。精神統一が必要でしょう。僕はどんなふうにクラーケンと戦うのかなって。」


「あら、お話し合いに来たのでは無いの?」


「まずは、一当て二当て。それから話し合いです。僕は魔王ですけどまだ魔王じゃありませんから、彼を弱らせる必要があります。」


「私も戦えないかしら。」


「では、乙女の斉唱をお願いします。一人だけだけど、ノーラは強いからとっても僕達の力になると思う。」


「あら、それってどうすればいいの?」


「歌を歌ってください。僕の為に。あるいはカイユーやフェールの為に。大好きな人のために歌えば、それだけ力が増します。」


「まぁ、凄い。私の歌でそんなことが出来るの?」


「はい。」


 私はリリアナが作った曲のどれを歌おうかと考え、そして、シロロを見つめ、彼の為ならばと考えて、そして、シロロが口ずさんでいたメロディが、単なる子守唄だったと気が付いた。


「あなたは北のフォンラーゼン国が故郷だったの?」


 彼は頭をがくりと下げ、違う、と言った。


「違います。最初の記憶がその国の小さな村だってだけです。僕はお母さんもお父さんもわからない。気が付いたらその村にいて、時々殴られたり、でも、時々食べ物を放られたりもしたから生きて来れたの。でも、辛いから、その村を食べてしまいました。」


 私は彼を抱きしめていた。

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