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トレンバーチでの誘拐事件

 私達の誘拐事件とは、トレンバーチという都市が私達を捕虜にしてダグドを脅した、という事件である。

 あれは、アルバートル達がダグドの領地に押しかけて来たばかりの頃だ。


 ダグドはせっかくだからアルバートル隊の誰かを警護に付けろと私達に言い、けれど、彼等を追い出したい私達はそれを拒んだ。

 もの知らずな私達は、その時はとても万能感に溢れていたのだ。

 私達、アリッサとエレノーラと私の三人が、ダグドの布がトレンバーチの市の目玉商品になるからと、その頃にはトレンバーチにおいての貴賓扱いで出迎えられるようになっていた事もある。

 専用の控室を与えられ、私達を守る専用の警護官までも用意されていたのだ。


 それも全部、私達から警戒心を解くための策略でしかなかったが。


 彼らは私達が三枚のお札やダグド特製の空気銃を持っている事を知っており、荷物は持つ振りをして奪えても三枚のお札をどこに片しているのか知らないからと、虎視眈々と探ってもいたのだ。

 私達は本当に馬鹿だった。

 当時、ダグドから贈られたばかりのカシュクールドレスという、物を隠せない服にカーディガンという姿でトレンバーチに出掛けたのだ。


 彼らはさぞ喜んだ事だろう。

 私達は三枚のお札をどれかの鞄に入れている、と、一目でわかる格好だ。


 私達はいつもと違うがもっといい部屋だと案内されてついていき、そして、荷物を持つという敵にありがとうと荷物を手渡したのである。

 結果、私達は脱出経路が一本しかないという塔の部屋に押し込められた。

 女の力は無力だと思い知ったのはその時だ。

 私達は簡単に突き飛ばされ、なんと、ベッドにも転がされ、肌をはだけた男達の餌食にもなりかけたのだ。

 無事だったのはダグドの服のお陰だ。

 脱がせないどころか破けもせず、さらに、服を掴んだ男の手を燃やしたのだ。

 私達は完全に閉じ込められた虜囚となったが、体を汚される事からは完全に守られたと一息はついた。


 トイレ問題もあったが。

 シャワー問題も。

 おまるに用を足し、風呂にも入れない状態に、私は三日で音を上げた。


「ほんと、誘拐劇があの三日で終わってよかったわ。あ、でもそうでもないか。あの街にそのあと三日も滞在したんだった。」


 勿論、復讐に燃えた私達が彼等に対して風呂や豪勢な食事や、そして、慰謝料を請求したのは当たり前だし、それこそダグドがアルバートルに命じていた事だった。

 ダグドは二度と誘拐などそんな気が起こらないように、逃げ帰るのではなく居座って帰って下さいと懇願されるまで嫌がらせをしろと、アルバートルに伝えたそうなのだという。


 私は優しいだけだったダグドの一面に驚いたが、ダグド領に戻った後に、ほとんど顔を見せなくなっていたダグドが毎日私達の具合を確かめに来て、怖くは無かったのかと慰めに来てくれたことにかなりほろりと来たことも思い出した。

 エレノーラが怪我が治っていない振りをしろと私達に指示をしたが、言われなくてもそうするつもりだったし、ダグドを騙していても全く罪悪感が湧かなかったのも事実だ。


 本当に嬉しかったから。


「ノーラ。どうしてあの誘拐を思い出しているのかわからないけれど、あの馬鹿がまた余計なことをしたの?」


 エレノーラの言う馬鹿は死んでいたはずの実の兄の事であり、彼女は実の兄、エレノーラの死の復讐の為だけに生き延びた兄にはとってもぞんざいだ。

 彼女の世界はダグドだけだからであろうか。


「いいえ。急に思い出して。助けてもらったなぁって。カイユーとエランはあの時、トレンバーチの街を駆けずり回って私達を探していたのですって。」


「だったら、護送馬車に乗せられる前に助けてくれれば良かったのに。お陰であの馬鹿によって馬車は横転させられて、敵に髪の毛一筋の傷も負わされていなかったわたくし達が満身創痍の目に遭ったのよ。全く、あの役立たず。」


 私は心の中で余計なことをエレノーラに思い出させてごめんなさいとアルバートルに謝ると、書類仕事に戻ることにした。

 私達は食料の消費量から必要量を導き出し、そこから必要な金額なども計算しているのである。

 ここにどれだけかかって、どれだけ負担がって、負担だったのね。


「あら、アルバートル隊は意外と金食い虫なのね。」


 銃騎士はグロブス召喚と叫んで銃器類を呼び出すが、呼び出されたその銃器類は本物の普通の武器だ。

 その弾丸を魔法力代わりのスキル能力で連射したりもしているが、連射される弾丸は実弾なのである。

 つまり、ダグド領のどこかにダグドは銃弾のぎっしり入った箱や砲弾をまとめた箱などを備蓄しているという事だ。

 そしてそれらは時々アルバートル達にどこぞへと買いに行かせており、その時に持たせる金貨が必要で、その結果がダグド領の金蔵に響いてもいる。


「えぇ。食料どころじゃなく、電気量、水道料、それに出陣した場合の値も数字に換算するとかなりなものね。装備する銃弾や砲弾だってただじゃない。まぁ、どれもダグド様が構わないと言っているのだから、構わないのでしょうけど。」


「私達の取り分を減らさずに布を一巻多く売れって。」


「全く。増やしたら値崩れするでしょうに。」


「でも、一巻ぐらいだったら。」


「そうね。彼が通商に嫌々ながらも加盟したのはそういう事ね。結局、外と交易をしなければ金を増やしていくことが出来ないのだもの。彼は私達とひっそりと、他国から干渉されることなく生きていたかったのにね。」


「だから、エレ姐はアルバートルを追い出したかったのね。ダグド様の世界が壊れそうだからって。」


「そうね。でも、あいつがいて私達が助かったし、あいつがダグド様に私達が大怪我でひどい状態だって煽ってのあのダグド様でしょう。城から毎日出てきて私達の様子を伺うなんて夢の様、よ!ついでに言えば、体術もあいつが教えてくれたんだし。そう、わたくしがアルバートルが嫌なのは、わたくし自身の問題でしかないのよ。」


「エレ姐?」


「だって、そうでしょう。兄さんは不幸だった。わたくしはずっと幸せだった。兄さんは私が生きていれば、私を人間の世界に戻そうと考えていた。でも、私は死んでも嫌。彼は何のために生きてきたの?」


 私は牧場でのアルバートルとダグドの後ろ姿を思い出していた。

 私達には見せない、フェールとカイユーの二人のような、相棒同士ともいえる後ろ姿である。


「ダグド様におねだりして楽しむため。ダグド様は不幸に敏感だもの。不幸じゃ無かった人には優しくしないと思うから、そのための必要経費?」


 私は意図せずにそう呟いており、エレノーラは私の言葉に楽しそうに笑った。


「ノーラって本当に意地が悪い。だから大好き。」



 ははは。

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