モフモフさんは飼っちゃダメ
取りあえず、私はエレノーラにアルバートル達への給与を提案した。
カイユーが可哀想だったのは事実なので、エレノーラに訴える時に私に力がこもってしまったのは仕方が無いだろう。
カイユーは姉と慕う私を守るつもりらしいが、姉としては大事な弟が喜ぶ姿が見たい。
つまり、私だってカイユーを守ってあげたいのだ。
エレノーラは自分の兄についてはこそっと罵倒をしていたようだが、私の提案にはにっこりと笑い、好きに取り計らっていいわよ、とのお墨付きをくれた。
私は嬉しさのあまり、さっそくアルバートル達に知らせようと、彼らが詰めている第一城壁の見張り台に駆け付けた。
見張り台の会議室には彼ら全員集合どころかダグドもおり、彼はアルバートル達に給料を渡す事は構わないし、けれど、そのために私達の取り分を減らすのではなく布を一反多く売れとまで言ってくれた。
そこで会議室はダグドを讃える男達の声が鳴り響いたが、ダグドがその大騒ぎにさらっと水を差した。
「でもね、カイユーはモフモフを飼っちゃダメ、というか、アルバートル達はペットの飼育は禁止。」
「ええ!酷いよ!父さん!」
カイユーはダグドの息子になり切っているらしい。
そしてダグドはカイユーからの呼びかけに嫌がるどころか、父さんの言うことを聞けとまで威圧的に言い切った。
「ダグド様、それはカイユーがあんまりにも可哀想だわ。」
「そうだよ、俺が可哀想だよ。さすがノーラ。俺の姐さんだ。」
カイユーは私に抱きついて来て、私は彼の頭を撫でてあげた。
しかし、カイユーは顔を上げて、私をまじまじと見つめてきたのだ。
「何をしてんの?ここは俺を突き飛ばすか脛を蹴るところでしょう。」
「あんたは私をどんな目で見ていたのよ。これこそ普通にいつもの優しいノーラさんの行動でしょう。黙ってよしよしされていなさいよ。」
カイユーは何かを言いたそうに眉根を寄せたが、再び私の肩に顔を埋めることに決めたらしい。
私は彼をよしよしとする仕事に戻った。
ところが、私の腕の中というか、私にしなだれかかっていたカイユーはダグドによって引き剥がされた。
ダグドったら、私達はモニークとイヴォのような間柄じゃ無いのに。
「ノーラ。カイユーを虐めるのは止めようか。」
「え、ダグド様。虐めていた?私?え?優しくしてあげていただけよ。」
「いや、姐さん。いい年した男を人前で幼児扱いは、酷いですって。」
フェールがダグドからカイユーを引き取りながら、やれやれと言う風に私に言って来た。
「うそ。私はやっぱり無意識の意地悪女だったの?」
誰もそうだとは言わなかったが、誰も違うとも言わなかった。
「うそ。」
「ええと、ほら、ノーラ。良いじゃないか。ああそうだ、話を戻そう!俺がさっき言いたかったのはね、アルバートル隊は連れて来た馬をほったらかしにする無責任だからってこと。俺は可哀想な生き物を増やしたく無いんだよ。」
「あら、そういえばそうね。アリッサも馬小屋が使われた形跡が無いって言っていた。せっかく馬で第一と第二を移動できる様にって、ダグド様が簡易厩舎を第二城壁にも設置してくれたのに。」
アルバートルが物凄く咽た。
そして、彼は咽ながら私を見返すと、それ以上余計なことを言うな的なテレパシーを私に送ってきた。
私にテレパシーなど無いので、私にだけにわかるように単なる口パクでそう言ってきたが正しい、だ。
「そうそう。あんまり馬が可哀想なんで、俺が馬小屋を改築して放牧場も作ったりさ、散々だよ。」
「だから馬を使えないんでしょうが!馬を使うには、放牧場を駆け回ってお馬さん達を捕獲する所から始めなきゃなんだから!」
「そうですよ!捕まえても鞍を乗せさせてくれないんですよ!」
カイユーとフェールは仲良く肩を組んでダグドに抗議をしたが、抗議されたダグドこそ、意味がわからないという顔を作った。
「普通に呼べばいいでしょう。馬は犬よりも頭が良いんだから。鞍だって普通につけさせてくれるでしょ。嘘はいけないよ。」
がたっと、会議室の椅子が一斉に音を立てた。
アルバートルとイヴォアール、そして、ティターヌまでもがその大柄な体を椅子から立ち上がらせたのだ。
大きな壁となった男達はダグドを囲んで迫り、その頭目であるアルバートルがダグドに低い低い地獄のような声を出した。
「では、やってもらいましょうか。呼びよせと、鞍のせ。」
ダグドは涼しい顔をして、いいよ、と軽く答えた。




