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「あの、ええと、アルバートルさん、ご一緒にお茶はいかがですか?」


 おずおずと声をかけた私に対し、彼はにっこりどころか、にやりに近い微笑を口元に作ると、うわ、私の腰に手を添えて、近くにあった椅子にいつのまにやら私を座らせていた。


 こいつは危険だ。


 ここが広場であったから良かったが、彼を部屋に招いたら、私はきっと気が付く前に彼にベッドに横たえられている事だろう。


 その上、彼はいつのまにやら営業の終わったはずのレストランに入り、なんと、私と自分の分のソーダ水を持って戻って来たのである。

 私は彼の一連の動きに、アリッサに期待を込めていた。


 ちょっとここまで凄い男が、十七歳の女の子、実年齢は四十歳くらいではないかと私はあの子が八歳の頃から思っているが、そんな彼女にやり込められる姿を見たいと、性格の悪い私が私の中で叫んでいるのだ。


「俺も君と話がしたいと思っていた所なんだよ。カイユーのね、猫騒動、聞いたよ。聖騎士を辞めてから、俺達には給料ってものが無いだろ。金が無いって、あいつが猫一匹買えなかったのが可哀想でねぇ。」


「あ、ええ、ええ。私も知らなかったの。私達は市に行って布の代金からお小遣いを取り分けたりもしていたのよ。ええと、男の人には言えない買い物も時には必要でしょう。そのことでダグド様も了承していたし。でも、そうよね。あなた方だって、この領地で支給されるもの以外、外で買わなければいけないものってあるはずですよね。」


 アルバートルは、それはもう、私から炎の吐息が飛び出してしまうくらい、素敵な笑顔で私を見返した。

 うわぁ、ホットな男って意味がよく分かる。

 笑顔が素敵すぎて、きっと私のほっぺは真っ赤だ。


「そうなんですよ。君はエレノーラの秘書役でもある。君から伝えてくれないかな、あいつに。お兄さんはお金が欲しいと。」


 ヒューという感じに、私から一気に熱が冷めた。


「すごい直接過ぎて、なんか色々と台無しです。」


「切実なんだ。」


「ご自分でエレ姐におっしゃられたらどうですか。」


「あいつが俺に金をくれると思いますか?」

「ですよねー。」


「あら、何を話し合っているのかしら。私も混ぜて下さらない?」


 アリッサがようやく登場し、アルバートルの肩どころか、彼の首に両腕を回して背中に抱きついて来たのである。

 直接過ぎでしょう。


「うん、素敵な背中。私と遊んでくださる?遊んで下さらないと、背中から離れません事よって、あら。」


 アルバートルは一瞬抱きつかれて目を丸くしたが、私がダグドに抱きついた時のダグドの様には固くならなかった。

 それどころか、彼はアリッサを背中にぶら下げたまま立ち上がり、私に頼むよとだけ言い捨て、そのままぶらぶらとアリッサを背中にぶら下げて歩いて行ってしまったのである。


 アリッサもアリッサだ。

 意地でもぶら下っている。


 私は彼らがあの姿のままどこまで行くのか見届けたい気もあったが、恐らく人の目がある所では、二人は意地になってあのままのような気がした。

 そして、普通に子供でしかなかったアリッサに、私は笑い声を立てていた。

 あの子は私と違って悪女を演じているだけなのだ。

 そうやって、可愛がられようと必死なのだ。


「うん、私って鈍感だった。みんな必死でみんなが頑張っている。私一人頑張っているって、卑屈になったり羨んだりばっかりだった自分が恥ずかしいわ。」


 館に戻り、私よりも数十分後に戻って来たアリッサにどうだったのか尋ねると、彼女は勝ったと小さく答えた。

 小さく答えたのは、彼女はアルバートル隊のいる第一城壁から館のある第二城壁内まで徒歩で一時間近く歩いて戻らなければならなかったからだろうか。

 あ、そうしたら、彼女が帰って来れた時間が早すぎる。

 ま、いいか。


「勝ったなんて、さすがのアリッサね。」

「ええ。奴は私をちゃんと口説いたわよ。」

「口説いたの!そして、口説かれても大丈夫だったの?」

「えぇ、大丈夫よ。あいつめ、簡易厩舎に私を連れ込んだの。」


「あぁ、第一城壁の厩舎じゃなくて第二城壁の馬留か。ちゃんと、彼は馬を使ってあげているのね。ダグド様が彼らが馬を厩舎に入れっぱなしで馬が可哀想だって騒いでいたから。」


「そんなことは良いのよ。ついでに言えば、あいつは徒歩だし、団員の誰も馬を使っていないから、馬なんか一頭もいないイグサだらけの連れ込み宿状態だったわ。それでね、あいつは私をそのイグサに放るとね、そのまま上着を脱いだのよ。それで、俺の遊びってやることだけど、いい?って。」


「それ、口説いて無いじゃない。」


「口説いたわよ。たぶん。私をその気にさせるならいいわよって、私がカーディガンを脱いで答えたら、彼は私の手を掴んでね。」


「あなたの手を掴んで?」


「美しい君。ごめんなさい、俺が間違っておりましたって。そう言って私を放ったまま逃げた。」


「それ、口説いて無いじゃない。」


「口説いたわよ。私をあんな目に遭わせた男はあいつが初めてだもの。絶対に攻略してやる。絶対に跪かせてやる。そう思っちゃったんだもん。私を口説いたも一緒でしょう!」


 それって、あなたがアルバートルに惚れたんじゃない?とは言えなかった。

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