生贄同士
この屋敷には私とエレノーラの他に女の子達が三人も住んでいて、違うか、四人の女の子が住んでいた所に私が加わったと言うべきだ。
三人も、特別な少女達だった。
菫色の瞳に蜂蜜で出来ているのではと思う程のなまめかしい金色の髪を持つリリアナと、憎たらしいけれど妖精みたいに可愛らしいアリッサ、そして、真っ赤な燃えるような巻き毛と水色の瞳が印象的なモニークだ。
財産略取に丁度いいからと捨てられた私と違い、彼女達は生贄たる要件、村一番に美しい処女、という選ばれし乙女達なのだから美しいのは当たり前か。
また、ダグドの領土には村が作られており、そこには捨てられたという家畜だけでなく、私のようにいらないと村から放逐された人々が居住していた。
生贄の娘達だけは特別なのか、城に隣接する屋敷に住まわせられているらしいが、十七歳のエレノーラがこの領土の差配人だと言うから驚きだ。
しかし、驚きはそれだけではない。
彼女は朝早くから起き出して大量の朝食を作り、その一食分をダグドに届けると、そのまま村の家々の老人宅をめぐって朝食を渡して体調を尋ね、そして、屋敷に戻ってくると差配人として書類仕事を始めるのだ。
私は彼女の働きぶりに驚きっぱなしで、そして、驚いたまま何もしないでいることはこの領土では出来ないのだと知らされた。
私は朝食が済むやおっとりしているようでしっかり者のリリアナに引っ張られ、生贄の少女達に与えられているという仕事場、野菜工場へと連れ込まれたのだ。
連れ込まれたそこは、魔法の屋敷だった。
家の中で植物を育てている事にも驚いたが、土も無い所でレタスなどの葉物にナスにキュウリ、そして苺などが大量に育っているのである。
それも、見たことも無いほどに瑞々しく美味しそうな野菜たちなのだ。
この凄く大きな魔法に驚かされながら、魔法では目の行き届かない植物の世話をするというのが仕事であった。
そして、私に仕事を教えるリリアナがもう一つというか、一番大事な約束事を教えてくれたが、それは、ダグド様には生贄という言葉を教えない、ということで、これこそ生贄の少女達の絶対なる不文律だった。
破ったらここから追い出してやるぞ、というくらいの絶対的なものだ。
「どうして。」
「あの方はね、私達が捨て子だから受け入れているの。生贄だなんて知ったら、私達を元の場所に返しに行くはずよ。あるいは、私達が自分のせいで不幸になったって、物凄く落ち込んでしまうとか、ね。」
「そうね。でも、あなたはお家に帰りたくは無いの?」
リリアナはとても寂しそうな笑顔を見せた。
「家族は私を連れて逃げようとして村人に殺されたの。こんなことをダグド様が知ったら、ダグド様は落ち込むどころでは無いわ。そうでしょう。」
「そうね。」
私はリリアナが教えてくれたこのルールには賛成だし、このルールを違える気持ちなど無い。
だって、あの優しい男の人が落ち込むなんて悲しすぎるし、私が村に返されたとして、私の居場所など残ってはいないのである。
「あなたこそ帰りたくは無いの?」
「……村に帰りたくなんて無い。」
「同じね、私達。仲良くしていきましょうね。」
「ありがとう。リリアナ。」
私達はにっこりと微笑みあった。
私は選ばれた生贄じゃなくて本当に捨てられた捨て子なのに、私は何て嘘吐きな女の子なんだろう。




