部屋に戻って
コポポルのお茶は甘い、の一言だった。
とっても甘い紅茶に、とっても甘いお菓子という、とっても美味しいが、明日になったら私は二倍になっているだろうって程の重たいものだ。
ナッツも果物だって全部蜜漬けという、とてつもなく背徳的なものだ。
重たくなってしまった罪深き私達は与えられた部屋に引き取り、そこでアザラシかトドのようにベッドに転がった。
ベッドは物凄く大きなもので、私達三人が転がってもまだ余るくらいだ。
「どうしよう。夕飯もこの数時間後にあるのよね。」
お腹を撫でながら呟くと、隣に転がるアリッサが舌打ちをした。
「しまった。忘れていた。三日後の自分がどうなっているか怖いわ。」
アリッサの隣のシェーラが満腹によるかすれ声を出した。
「あなた方は食べ過ぎよ。」
「そういうシェーラだってお茶を何杯お代りしたのよ。」
「お代わりさせられたのよ、あのアールという魔物に。」
彼は持て成し上手で、アリッサ以上の天性の営業マンだった。
私達は彼に乗せられ、次々とお菓子を貪り、次々と甘いお茶をお代わりさせられてしまったのである。
「絨毯工場の見学が明日で良かった。私はもう動けない。」
「ノーラったら、本気で真面目ちゃんよね。それって単なる社交辞令で、アールはあなたを手に入れたいだけなのに。」
私はガバッと飛び起きて、そしてアリッサを見返した。
しかし、喉元に食べ過ぎたツケがせりあがって来て、私はゆっくりと体を横にするしかなかった。
「うう。追及は後にする。」
「別に今でもいいわよ。本当に鈍感。普通に婚約者としてこの国にあなたを誘ったのじゃない。それを受けちゃったんだから、私が大忙しって事よ。」
「それって、アリッサがアールを落とそうとしているって事?彼に私を諦めさせるために?」
「いいえ。私がアールを好きなだけよ。私は稼ぐ男が好き。彼がダグド様から安く絨毯織機をせしめ、そして、それによる作品でかなりの儲けを出した時には鳥肌が立ったわ。そう、恋では無いけれど、とっても興味深い男ってだけ。いつか私達が結婚を考えた時、最良の男性を選びたいと思うでしょう。」
「すごいわ。あなたは本当に性悪だけど、その誰よりも自分に正直なところは尊敬するわ。」
「それぜんぜん誉め言葉じゃない。罰として言いなさい。あなたの好み。」
「しつこいわね。でもね、言えないの。私はダグド様しかなかったから。」
「イヴォアールは?あなたは彼に惚れているのでしょう。」
私は飛び起きた。
そして、本気で吐きそう一歩手前になった。
そろそろと再び横になる。
「ぐふ。アリッサ、たら。お腹に爆弾を抱えている時に馬鹿なことを言わないで。イヴォの事は好きだけど、それは友人としてよ。彼はモニーク一筋でしょう。」
「だから、あなたが叶わない恋心で落ち込んでいるって私は聞いたわよ。」
「シェーラまで。でもそれは誰に。」
アリッサの隣の彼女の目を見て話すどころか、彼女はごろりと横になり、私には彼女の黒い頭しか見えなくなった。
「もう、そんな馬鹿話を広めたのは誰よ。私が落ち込んでいたのはダグド様のせいよ。今は元に戻ってくれたけど、通商の奴らを騙すためなのかしばらく十代の少年みたいな可愛い姿になった事があるじゃない。それで、あんな可愛い姿になったものだから、ええと、なんだか、諦めていた恋心って奴を刺激されたというか、なんというか。」
「あぁ、そういうこと。確かに可愛かったけど、私は今の方が良いわ。そっか、ノーラの好みはフェールタイプって感じか。」
「違うでしょう。フェールは可愛いけど、そういう目で見たことはありません。」
「じゃあ、カイユーは?」
「しつこいわね。あの子は弟よ。そんな感じ。大体好きになったとしても、彼は、いいえ、言うべきでないわね。」
「何か問題?」
「何でもないし、弟って感じでそんなこと考えたことも無い。」
「ふうん。」
そう、考える必要も無い。
カイユーはモニークが好きなのだから。




