サロンでの一コマ
アールに連れられた私達は、お茶を飲むサロンへと案内された。
沢山の絨毯が重なり合う程に敷かれているのでそのまま転がっても良いよとアールに揶揄われたが、たった三十分程度の空の旅なのに私は体を重く感じており、彼のすすめるままに腰を下ろした。
椅子ではなく絨毯でふわふわの床にクッションに囲まれて座るのは初めてだったが、確かに椅子に座るよりも体が落ち着くと感じた。
「素敵ね。本当に転がってしまいたいくらいに素敵な空間だわ。」
「本当!ねぇ、ノーラ、私達の屋敷もこんなお部屋を作りましょうよ!」
「ハハハ、喜んで貰えて良かったよ。さぁさぁ、転がって寝てみようか。」
「アールったら。」
彼はふざけて私達にストールを布団のようにかけようとして、ただし、そのまま動きを止めた。
彼が見ている方へ視線を動かすとシェーラがまだ立っていて、一人ぼっちとなったシェーラの横にはカイユーが立っていて、パートナーのようにして寂しそうな表情の彼女を支えていた。
私はしまったと、自分の浅はかさを呪った。
年下の女の子をいたたまれない状況に陥れてしまったなんて。
「もう、シェーラったら気が利かない。せっかくアール様という素敵な男性に甘えられるチャンスなんだから、もっと、アグレッシブに行動しなきゃ。」
アリッサのからかうような言葉に、シェーラはかっと顔を赤らめ、そして、いつものようにアリッサに言い返して来た。
「わ、わわたしは、あなたのように恥知らずにできないわ。」
「あら、ひどい。アール様が素敵だから、普通に自然にこうなっただけよ。そうだ、あなたの好みってどんな男性かしら。ダグド様って言うのはなしね。それは私たち娘全員の共通だって有名すぎて、この場が白けちゃうもの。」
「もう、ほんっとにアリッサは恥知らずだわ。」
しかし、シェーラは怒り顔ながらずんずんと私達の方へ歩いて来て、私達のすぐそばに腰を下ろしてくれたので、私はとてもほっとしたし、アールもホスト役としてシェーラの仲間外れの事態を回避できて胸を撫でおろしたようだ。
「それで、好みは?ノーラ。」
「はい?」
私は突然アリッサに矢面に出されたことに戸惑った。
え、急に何を言い出すの、って感じだ。
うわ、いつのまにかアールは私達にお茶を出す事も忘れて一緒に座り込んで、そして誰よりも興味深そうな顔で私の顔を覗き込んでいるのだ。
「えっと。」
「ダグド様以外でよ。特定な誰かで無くていいの。好きなタイプってだけ。」
「じゃあ、アリッサはどうなのよ。」
彼女は彼女だった。
「稼ぐ男。」
「あなたは。じゃあ、シェーラは。」
私は卑怯者なので、年下の女の子にお題を投げた。
しかし彼女は鋼鉄の女だ。
さっさと私に投げ返したのだ。
いや、カウンター攻撃か?
「博識で優しい人。ノーラは?」
私はあわあわとしながらも、そういえばダグド以外で好きなタイプって考えたことも無かった。
どうしようって考えたら、なぜか私はカイユーに振り向いてしまった。
「あれ、カイユーがいない。」
戸口にはティターヌとフェールの姿が見えるが、カイユーの姿が全く見えないのである。
「臆病者。」
私はアリッサの呟きの意味がわからなかった。
なぜならば、それが私に向けられたものじゃ無かったからだ。




