人選
エレノーラは私がアールの国に観光に行くことには手放しで賛成した。
ダグドがじとっと恨めしそうな目でエレノーラを睨んだ事で、彼は自分が私に嫌われないように、かつ、私が傷つかないように、そして、アールへの失礼が無い形で私がアールの国に行かない方法をエレノーラに考え出して欲しかったようだと私は理解した。
どこまでエレノーラ頼みの竜なんだろう。
「世界を見ることは良い事だと思うわ。それにね、私は兄とコポポル国へ行った事がありますけどね、あそこの国は女性頼みの国で、本当に男と女が助け合って尊敬しあっている良い国だって思いましたもの。食事もおいしかったし。ノーラにとって素晴らしい経験になると思うわ。」
ニコニコとエレノーラは私に笑いかけながら言い切ったが、絶対に私よりもダグドを知ってるはずなのに、エレノーラは我が道を行くというか、少し意地悪な女でもあると思った。
ダグドは両方の眉が一本につながるぐらいに眉間に皺を寄せて、エレノーラを反抗期の少年のような顔つきで睨んでいるのである。
どうしよう。
コポポル国に行くことよりも、ダグドの変顔がどれだけ見れるか試したい。
「えっと、私も行きたいなって、思っていたの。」
「えぇ、行ってらっしゃい。シェーラとアリッサも一緒に。」
ダグドの首が折れるかと私は心配になった。
エレノーラの言葉に、ダグドはぐいんと首をエレノーラへと回したのだ。
「ちょっと、え?エレノーラ?」
「あら、ダグド様。旅行っていい経験だと思うわ。女一人旅よりも仲の良い女三人での旅行なんて楽しいと思うの。私は一緒に行った相手が兄じゃなくて、ノーラ達だったらって思ったもの。」
「君は酷いな。アルバートルが聞いたら泣くぞ。」
「大丈夫です。ダグド様から玩具を貰って慰めてもらえるでしょう。」
「君は!」
夫婦喧嘩のようになった二人だが、私はダグドと同じくエレノーラは怖いと思ってしまっていた。
シェーラは一番の新入りで、私が十五の年になった時にダグド領に来た子だが、彼女は少々とっつきにくく、彼女は一人でいる時の方が多い。
しかし、植物に造詣が深いからか、野菜工場の責任者にもなってしまった。
責任者でなくなったリリアナは怒るどころか、もっと作曲活動が出来ると彼女はシェーラの存在に感謝さえしている。
けれど、アリッサはシェーラと仲が良いどころか話しかけもしない。
そんな三人の旅を提案とは、エレノーラは今回の私の浅はかな行為に罰を与え、そして、仲が悪い三人は仲良くなれというお題までも盛り込んだのである。
寝顔に悪戯書きをしてくる子と一緒に旅行、って無理よ!
「エレノーラ。三人だけはやっぱり心配なの。コポポル国は安全かもしれないけど、近くには元ザワークローゼン王国があるし、そこには他国の荒くれが集まっていると聞くわ。ボディガードが欲しいな。」
エレノーラはにっこりと笑い、そしてなぜだかダグドはまたもや変顔を、まるで千年生きた亀のようにクシャっと皺だらけに歪めた顔で私を睨んだ。
「ちくしょう。バチュラ―パーティのノリになって来た。男達の人選は俺が決める。エランとティターヌでどうだ。」
「シロロちゃんのお守はどうなるの?ティターヌ、フェール、カイユーね。フェールが行けてカイユーが行けないと彼が拗ねちゃうし、その反対もでしょう。ティターヌだったらあの二人を押さえられる。そうじゃなくて?」
ダグドは大きく舌打ちをした。
シロロはダグドの次にエランがお気に入りなのか、ダグドの傍にいない時にはエランに纏わりついており、また、子育てに疲れたダグドにシロロを積極的に押し付けられてもいる。
エランは品行方正過ぎて、ダグドとシロロに都合の良い男扱いされているという、不幸な青年でもあるのだ。
「シロロちゃんも連れて行きましょうか?」
「じゃあ、エランも!」
「きゃあ、いつの間に。」
真っ白な肌に真っ白い髪をした真っ黒の瞳という、普通だったら不気味な組み合わせかもしれないが、世界中の何よりも可愛いとしか見えない生き物が私の足元に急に現れたのである。
しかし、シロロはすぐにダグドによって捕獲された。
「シロロは駄目。」
「えー。砂漠で召喚獣をたくさん出して遊びたい。」
「ふざけるな。たった今の数秒間の記憶を消してやる。」
シロロはダグドによって上下に激しく振り回された。
私達は不穏当な事を言い出した魔王と魔王を振り回しているダグドを無視して、コポポル行きのメンバーの最終決定をすることにした。
まぁ、決めたのはエレノーラだったが。
彼女が決めたメンバーは、私とシェーラとアリッサに、ボディガードとしてティターヌとカイユーとフェールである。
ダグド領はエレノーラの采配で動いているって本当だ。




