父は怒り心頭
私はダグドに相談する前に叱られた。
屋敷に戻ると怒り心頭のダグドが私を応接間で一人で待っており、なんと、私を目にするや、初めてという程の大声を私に向かって荒げたのだ。
独身男性の部屋に一人で入っていくとは何事だ、と。
「でも、王様よ。この国の客人よ。ほったらかしってできないでしょう。」
「ほったらかしではありません。ちゃんと、朝食を誘う準備はしておりました。どうして君がアールの所に行っちゃったのかわからないけどね。」
「じゃあ、そのことを教えてください。私は空腹な客人をほったらかしだなんてと、物凄い罪悪感と申し訳なさでの行動でしたもの!ダグド様が用意されていたと知っていれば、私はアールの所に行きませんでした!」
「でも、二人っきりの朝食でしょう!どうしてエレノーラかモニーク、あるいはエランを連れて行かなかったの!」
「どうしてエラン。」
「あいつは絶対に女性に無体な行動は取らない。皆がそれを知っている。だから君の名誉は傷つかない。」
昨日は私の後ろで腹を抱えて笑っているだけという無体な状態でしたけど、と、ダグドに言い返そうと思ったが、私の悪戯心が騒いだ。
「カイユーを呼べば良かったかな。」
ダグドは口元を片手で押さえて何やら考えだし、いいかも、と軽く呟いた。
「ねぇねぇ。いいかもって、何ですか?何を考えたのかしら?」
「いや、別に。カイユーは子供だからいいかなって、だけ。」
私は昨夜のカイユーの表情を思い出していた。
なんだか思い詰めた様な、脅えた様な、真剣な表情で私の左腕を掴んだ彼。
「そんなに子供じゃないわよ。うん、でも、彼は気さくだから、一緒にいて楽しいわね。次はカイユーを絶対に誘おう。」
なぜかダグドは大声で私を叱るようにして叫んだ。
「だめだ!いいか、これからは誰一人として君と二人だけの朝食を許さない。いいか、誘ってきた奴がいたら俺に言え。俺がそいつを殺す。」
うわあ、これはモニークを口説いた時のイヴォアールに対してと同じね、と私はとっても嬉しくなっていた。
私はダグドにとってどうでもいいどころか、手放し難い大事な子供だったんだって、誤解でひどい目に遭わされそうなアールとカイユーには申し訳ないけれど、私は物凄く幸せな気持ちになっていた。
「って、まずい。」
「どうしたの?」
「うん。アールが私に国に来て欲しいって。あの、私に彼の国を見て欲しいのですって。普通に観光のお誘いでしょう、今回の滞在のお返しのような。それを断るのは失礼よね。でも、駄目かしら。」
ダグドは私の相談を聞くと無表情になり、そして、膝をカックンと折って床に立ち膝状態となってしまったのである。
真っ黒い髪の毛が真っ白くなってしまったように錯覚するほどの放心状態だ。
「だぐど、さま?」
彼は両手で顔を覆うと、エレノーラを呼んで、と子供のように呟いた。




