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黒竜の養女となったノーラさんの備忘録  作者: 蔵前
あなたを愛している限り
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野菜工場

 ダグド領にしかない野菜工場という場所は、私がダグド領に来て最初に与えられた仕事場だ。

 今は領土をエレノーラと回って領民の様子を確認したり差配人室で数字を計算する毎日だが、私はここで数年間は働いていたという感慨深い場所である。


 一番大きくて一番最初に建設されたという第一工場には、工場内で問題が起きた時の宿直室や、労働者が具合が悪くなった時の為の医務室もダグドによって設置されている。

 私はここに来る前に領民の一人から借りた入館キーで入り口ドアを解錠すると、そのまま工場の中に足を踏み入れた。


 土が無くとも光と水だけで植物は育つという不思議な魔法の世界だ。

 土が無いからか小さな虫の発生も抑えられ、農場なのに清潔感溢れる世界となっている。


「帰って頂戴。あなたにはここに入る権限が無いでしょう。」


 私の背中に冷たい声による言葉が投げつけられた。


「あら、私はどの施設にも立ち入ることが出来る権限は持っているわ。」


「だったらどうして自分のIDを使わないのよ。」


「それは私が差配人代理人、あるいは領民管理官として立ち入りたくなかったからだわ。それから一言言わせてもらえば、ここには確実に権限のない人間が一人いるはずでしょう。私はその彼を連れ帰りに来ただけよ。」


「連れて行かせないわ。彼は私に助けを求めたの。」


 ガチャリと銃口が向けられた音が聞こえたが、私は振り返る事もしないで前へと一歩踏み出した。


「止まって。それでそのまま帰って。お願いよ。私が彼を外に出す。彼と一緒にダグド領を出ていくから!」


 私はもう一歩踏み出して、しかしすぐに横からの衝撃で私は前どころか大きく横に転がった。

 進むはずだった方角には筒のようなものが飛び退り遠くで暴発した。


「本気で撃つなんて!ノーラになんてことをするんだ!」


 私を庇って一緒に転がったのはカイユーであり、私は私を庇うようにして両腕を地面に着いている男の横っ面を大きくひっぱたいた。


「あつっ!」


「あなたがシェーラを誑し込んでのこれでしょう!恥を知りなさい!」


「ああ、カイユー!ノーラったら!彼を叩くなんて!何て酷い人なの!」


 私に照明弾で穴を開けようとした女は、女の手で殴っただけの行為の方が重いと見ているようだ。

 私はカイユーを押しのけると立ち上がり、私の足元で座り込んでいるカイユーと私に銃を再び向けたシェーラを交互に睨みつけた。


「あなた方。大人しく家に帰りなさい。今なら不問にしてあげます。」


「はっ。偉そうに。そうよ、いつだってあなたは偉そうだわ。あなたはいつだって皆の中心で、皆に愛される。どんなに頑張ったってあなたの前では霞んでしまう。本当に憎らしいわ。あなたがいる限り私は誰にも見てもらえない。はじめて、はじめて愛した人が私にお願いをしてきたのよ!私はそれを叶えてあげる。絶対にカイユーをここから逃がしてあげるの!」


「よく言うわ!あなたこそ何でもできるでしょう。誰にも見てもらえない?勝手に殻に閉じこもっているだけじゃ無いの!カイユーの願いを叶えてあげる?あなたがやった事は、虫歯が痛い子に甘いお菓子をあげる行為じゃないの!バカにしないでよ!カイユーが私を頼らなくたって構わないのよ。私を嫌ったってかまわないの。私が彼が好きなだけなんだから!」


 私は自分が叫んだ行為をそのまま実行した。

 カイユーのシャツの首元を掴み、彼を引きずって行こうとしたのだ。

 当たり前だが、細身のカイユーと言えど私よりも体重はあり、そして、彼は私よりも力が強い。

 彼は1ミリも動かず、だが、私に掴まれた彼は私を見上げてニヤリと笑った。


「俺をどこに連れて行くつもり?処刑台かな。」


「その通りよ。やった事をやり直せるスタート地点に連れて行く。」


「あいつの方が悪いのに。あいつは俺に何て言い放ったと思う?やっぱり俺を自分の兵士に再任命すると言ったんだ。ああ、俺は喜んだよ。そう、喜んだんだ。情けなくも俺は嬉しいと思ってしまったんだ。こんな、こんな目に遭わせた男に自分の兵隊にしてやると言われて、俺は情けなくも喜んだんだ。」


「その酷い男は私に守って欲しいと言って来たわよ。あなたが死んだら辛いから守って欲しいのですって。あなたが自分の盾になって死ぬのが嫌だから任を解いたけれど、今のあなたの方が辛いからあなたを自分の盾にする決心はついたって。アルバートルはあなたに死んで欲しくないだけなのよ!」


「いまさら!」


「うるせえな。お前を放流する方が危険性が高いってわかったからさ、もう一回俺の兵隊にしてやるって言ってんだろ。」



 傷つけたカイユーに謝罪どころか偉そうに登場しただけの男に対して、私はもう一度カイユーに殺されて来いと言ってやりたくなった。

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