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「いつもと違う時間」

作者: 零桜

「はぁ!?」

「うるざい…」

「煩いっておまっ…はぁっ!?」

自分でもこの馬鹿さには分かっている。

分かっているからこそ、せめてもの反抗心でう~、と唸ってみる。

案の定、唸っている場合かと額をコツンと叩かれてしまったのだが。

想定内、普段ならそうやってふんぞり返り、また怒られる所だったのだろう。

しかし今の状態は普段とは掛け離れている。そんな巫山戯た事を言う元気も無かった。

目の前の男は決してコントローラーを離さず、ひたすら唸りながら何かを考えている。

悪戯に頬に口付けでもしてやろうかと考えるも、3分後に私は死んでいる事が確定しているので決してしない。

確かに若干頭は回らないが、そこまで阿呆な訳では無い。

なんていつもの馬鹿な頭で馬鹿な事を考えていたら。

ふと気付いたら顔が目の前にあったものだから、反射的に目の前の男のみぞおちを殴ってしまった。

熱でも威力は差ほど変わらない様で、今度は向こうがぶっ倒れて悶絶してしまった。

「あ…ご、ごめんごめん!つい!ついね!…ってか!いきなり顔を近付けるのが悪いんでしょうが!断りもなく乙女に顔を近付けるなんて…恥を知りなさい!」

いつもの二次元から取った台詞を決め、更に腰に手を当てふんぞり返ってみる。

いつもなら物凄く冷たい目線を送られ静かにそのままゲームをしようとするのだが。

矢張りこの状況が『いつも』では無いからか、何か言いたそうにしながらも押し黙ってしまった。

こうなってはツッコミ不在となる。ツッコミ不在はボケ専門からすると実に痛い。

然し私から『何か言ってくれ』なんて馬鹿げた言葉など出せる訳が無く。

虚しいくらい静かな時間が流れた。

この空気で熱など容易に冷めてしまうのでは無かろうかと言う程。

よし、逃げ出してやろう。

隙有りと忍び込んだ幼馴染の家だったが、安易に見付かり、更には誰もいない状況で熱を出してぶっ倒れてしまったのだ。

普通に恥ずかしいし何よりこの空気から逃げ出したい。

くそう、昨日久々の雨だからと張り切って水浴びするんじゃ無かった。

我ながら馬鹿だった自分の行動に後悔しながら、回らない頭で必死にこの場から逃げ出す術を口にした。

「あー…も、もう私帰るね!ごめんね~急に!あざっした~!んーじゃっ…」

「帰ってもお前1人だろ、そんなとこに帰せる訳無い」

一段と低いトーンで、矢張りマジレスが返ってくる。

然しそんな事はお見通しなのである。

何とか変な理由でも帰りたい事をアピールすれば、いつもの様に空気を読んでくれて何とかして帰してくれるだろう。

彼奴は妙にお人好しなのだ、それを逆に利用するのは何だかちっぽけな私の良心が痛む気もするが、既に私はあの空気で心ズタボロなのである。

「あっと…あ、あー!私冷蔵庫にプリン残してたんだったー!早く食べないと賞味期限切れちゃう~!だから帰らし…」

「プリンの賞味期限って未だ先だろ、確か5日ぐらい」

「なんで知ってんの!?」

「お前自分で言ってた。後…それ言ったら嘘バレバレだろ」

「ウア゙ッ…」

さっきから自滅の道しか進んでいない。

いいやまだだ、根性だけなら自信がある。

自慢の根性で取り敢えず嘘八百並べ立てるのだ。

「あー!もうじき姉さんが…!」

「お前……何があっても帰らせないからな」

「なぬぅっ!?」

溜息と共に吐かれた言葉は、私の良心共々破壊させた。

然し冷静になって考えてみると、親が帰ってくるのは早くとも夜中、それに今まで早く帰ってきたことなど無かったのだから、大体明け方か翌日だろう。

そして今は昼を過ぎた辺り。

今帰ってもかなりの間1人で過ごす事になり、お人好しくんはそれが心配で許せないのだろう。

しかし私に取っては一段と低いトーンで話すからか、余計帰りたくなってしまう。

正直男の人のマジトーンは嫌いだ。

恐らく、いや確実に私が産み出しているものなのだが。

兎に角早く帰りたい。

例え向こうが謝り土下座し変顔し出したとしても、マジトーンを聞いてしまった後ではいつやってくるか怖くてとても居てはいられない。

しかし私の性格は実に同性にも異性にも嫌われる性格だ、でも仕方ないだろう、誰かさんがそのままの方が好きだと爆弾発言をし出したのだから。

そうだ、私に友達1人人っ子居ないのはありのままで良いとか言うあいつのせいなのだ。

もう良心も何もかもズタボロな私がそれを口にするのは容易い事だった。

「い、言っとくけど私に友達がいないのはあんたのせいなんだからね!?あんたが…」

「は?話飛んでるのはいつもの事だから慣れたけど、急に何言い出してんだよ…?」

「いや話飛ぶのは良いんかい!だから…」

「まぁそりゃいつもの事だし」

「ぬぁぁ~!?…って、続き言わせて!?」

「お前が勝手に話遮って飛ばしてんだろ…同時進行させようとすんなよ」

心外ではあるが取り敢えず言う通り、先に言いたい事だけ言わせて貰おう。

そうすればこの怒りも収まる。

「…あ、あんたが…あんたが私に『ありのままで良い、そっちの方が好きだ』とかぬかすから私のこの面倒な性格が周りにバレて友達が居ないんでしょ!?」

「…へぇ。…で?」

「…へ?」

「何言い出すかと思ったら、それだけ?」

「な、なんだこいつ腹立つ…!」

「どーも」

にぃっ、と意地悪く笑うもんだから。

何か無いかと必死に頭を巡らせる。

知恵熱が出るほど頭を回らせ、やっとこれだと思った時だった。

「…ま、良いんじゃね?俺だけで」

なんてまた爆弾発言が飛んできたもんだから、ぶっ倒れそうになった。

危うく近くのソファに手を掛けた為に持ち堪えたが、ここに何も無ければ恐らく私は死んでいただろう。

「別に良いじゃん、そっちの方が変な虫付かないし楽。友達と遊ぶ時間とか無くなるから全部俺に割り振られるし」

こいつなんて言うナルシスト発言だ。

しかし可愛らしく「違う?」と首を傾げてくるもんだから、即行でそうですと頷いてしまった。

それを見た相手はまるで分かっていたかの様にケラケラと笑い出した。

私の目の前にいるのは悪魔なのだろうか。

いいや悪魔に違いない。

なれば熱にも負けない正義の制裁を…、

「だーめ、もう効かない」

「なっ…、なんだと…っ!?」

「フッ…貴様の攻撃は見切った…」

「Why…ナンツーコッタァ…」

「そこ英語で言えや」

「知らん」

おいそこ、吹き出して笑うな。

みぞおちにグーパンしてやろうとしたのだが止められてしまった。

なら反対の腕で…

「ぐっ!?み、右腕が疼き出す…!は、離れろ!」

「なっ…んだと…!?」

今お前本気で引きそうになったな、まぁ乗ってくれたから良かろう。

「私は誰も傷付けたくない!もう…もう嫌なんだ!だから…!」

「嫌だ!俺はお前を離したくない!」

「グフッ…あっご、ごめんちょっと素が出た、駄目よ!もう、私の前で誰も傷付けたくな、ぐっ…!」

「ど、どうした!パプリカ!!」

「ちょっ…」

いきなりネタをぶっ込んでくるのはルール違反、そう言う前に吹き出してしまった。

なんやねんパプリカって。

「いやそんな私ヘンテコな名前じゃないから」

「どうしたんだパプリカ!!」

「ぐふっ…えっ、続けん…」

「パプリカ!?」

「おいこら待て…ふふっ…」

どうやら先方は珍しく続けたいらしい。

今日はお互いいつもとは掛け離れているらしい。

仕方ない、乗ってやろう。

「パプリカ…なんて言う事だ…死んで…しまったのか…?」

「えっ?」

「パプリカ…っ、パプリカぁぁ!!」

完全に置いてけぼりをくらっている。

しかも何故お前泣きそうになってるんだよ子役か、子役が泣くシーンで親が死んだ事を想像して泣くあれか。

しかも勝手に殺すなよ、ギリ生きているのだが。

「…いや、まだ諦めちゃ駄目だ…パプリカ…」

「待って待ってどさくさに紛れて脈計らないで寝かせようとしないで!?まだ私死んでないし生きてるよ!えっ!?なんでそんな入り込んでんの!?」

訳が分からぬ。

回らない頭が余計こんがらがりショートしそうだ。

いや、もうしているのかもしれない。

これは成り行きに任せる他無さそうだ。

確かに自ら始めたノリだったがここまで乗ってくるとは思わなかったのだ。矢張りいつもでは無い。

「……心響」

「へっ?」

急に耳元で名前を呼ばれたから、何かと思えば。

私の目の前にあるのは顔。

イマイチ状況が分からない。

しかし次に漏れ聞こえた吐息で、私は悟ったのだ。

そして声にならない悲鳴を上げる。

これは何かまずい気がする。

みぞおちグーパンしようにも腕は止められているし、どこに隠していたのか謎な強引な力によって私は何も身動きが取れないのだ。

藻掻く様にジタバタと足を動かしてみるも、矢張り封じられる。

唇と同じ様に。

「んんっ…!…はっ…な、なに、急に…」

本当にどうなってしまっているのだろう、これは。

「あ、あの、変なキノコでも食べました…?」

「…気付いて無いんだ?」

「は、はい……?」

まるで自分で思い出せ、とでも言いたそうな目でこっちを見るから、なんとか頭を回らせてみる。

もうショートしていたものを更に粉々に粉砕してきたものだから、所々抜け落ちているかもしれないが。

兎に角私がこいつにキノコを食わせた記憶は無い。

そもそも食べ物さえあげてないし、せいぜい私がアイスを勝手に食べた事くらい。

「はっ…まさか、私が勝手にアイス食べたから、それを密かにまだ怒ってて…!」

「違うし」

冷たい言葉と軽いデコピンの後にまた来た顔。

なんだかさっきよりおかしい気がする。

そもそもさっきのものなどほぼ覚えて等いないのだが。

「な…っ、なが…い…って…」

小さくそう呻いてみるも状況は変わらず。

やっと離れたかと思えばストンと私の肩に頭を置いてきた。

普段ならどうしたと頭を撫でたりくすぐったりする所だが、如何せん先程の事があってはどうも息が耳に当たって落ち着かないったらありゃしない。

「…間違えたらその度にキスするから。場所問わず」

「はぁっ!?何その理不尽…!大体、んなもん分かる訳無いでしょ!?分かってたら今頃ちゃんと答えて…」

「うるっさいなぁもう…ん」

何も間違えてなどいないのに、と言うか答えてもいないのにそれはやってくる。

もう軽く限界は超えているものだが。

もう抗う力も無く、只それが終わるのを待つだけ。

「…なんか急に大人しくなったな?」

「…あ、あんたが…」

「なぁに?」

「うぐっ…なんでも無いデス…」

今何か言えば確実に口付けが落とされるので大人しくしているのが妥当だろう。

しかし只寝かせつけただけだと思ったがどうやらこれは押し倒されているらしい。

発情でもしたか?

しかし私がこの男を発情させる様な事をした覚え等全く無く、強いて言うならばこいつが完璧に引いていたと思っていたあのお嬢様口調に萌えたのだろうか。

実は密かに萌えていた等、正直気持ちが悪い。

しかし考えてみれば私も時々あるので、そう思う事はいけない事なのだろう。

なれば忘れる事だけは得意だ、すっかり忘れ去ってしまおう。

そして今考えるべきはそこじゃない。

何がどうなってこうなったのか。

正直本当に分からない。

…いや、どこかの漫画でこんなシチュエーションを見た気がする。

彼女が熱を出したが心配を掛けたくないから家に帰ると言い張り、それを彼氏が家に誰もいないんだからと引き留める所が。

あれの彼氏が彼女を引き留めていた本当の理由はなんだったか。

その後どう言う展開になったか。

実は、と明かされた事実はなんだったか。

わざとか否か、私の家に帰りたい理由以外は全て一致していて、こうやって押し倒されている事も全て一致しているのだ。

ならばもう、あれしか無いのでは無かろうか。

しかし私の口から言うのは実に恥を感じるものだ。

まさかそれを狙っているとか。

実に考えられる事。こいつ只のお人好しだと思っていたがそんな所もあったのか。

「あ、あの…」

「何?思い出した?」

「ほ、本当の本当の本当ーーーーーに多分の事だから、これだけは間違っててもキスしないでね!?これ言った後にされたら本当私りんご病になるから…」

「もうなってるけどな…まぁどうぞ」

ぬっ、と声を出したかったが取り敢えずここは我慢しよう。

出来る限り大きく息を吸い込む。まるで今から決戦の地へ向かう武士の様だ。

「…さい、しょから…こうするつもりだった、とか…?」

そう言えば、見事にあいつは少し目を見開き黙ってしまった。

嗚呼、これは多分違うのだろう。

恥ずかしいにも程がある。穴があったら入って埋めて貰いたい。

しかし黙り過ぎでは無いだろうか、あんなに肉食かましていたのに。

気まずさから逸らしていた目を合わせてみると、今度は私が吹き出してしまった。

「な、なんだよ…!」

「だ、だって…顔、真っ赤…」

「なっ…てお前いつの間に冷静になってんの!?あーもうはっずかし…!」

こいつの心から照れた顔を見るのは久々では無かろうか。

それが面白くて、少し優越感に浸って、小さく笑いの声を零した。

「くっそ、絶対バレないと思ったのに…」

心底漫画を読んでいて良かった。

今になって本当にそう思う、命の危機だったのだ。

「…でも、さ」

「え、何?」

「お前だって最初からこうなるつもりで家に来たんだろ?ならお互い様じゃん」

「うっ……」

実を言うとそうだったりする。

本当は人肌寂しく、あわよくばそうなれば、なんて馬鹿な事を考えながらこの家のベランダに飛び移ったのだ。

即行でバレ、そんな理由が恥ずかしくて暇だったから、と嘘を吐いていたが。

「なら結果オーライじゃん、こうなれて?」

「うっさいなぁ…熱、移るよ?」

「良いよ別に、パプリカの熱なら」

「ぐふっ…そ、それまだ続け…」

なんて巫山戯た事を話していたら、また口付けが落とされた。

しかしなんだろう、気が抜けた感と言うかなんと言うか。取り敢えず抵抗はしなかった。しようと思わなかった。だから素直に目を閉じて受けてやったのだ。あいつはそれに驚いて、一瞬目を見開いたが。

こいつはこんなキス魔だったのだろうか。

今日は何だか初めて知る事が多い気がする、もう10何年も一緒にいると言うのに。

少し離れたかと思えば、息継ぎの為だけだったのか否か、またそれはくっ付いてくる。

なんだか本当のカップルの様でくすぐったい。

途中でまた深く閉ざされたが、その数秒後にはもう離れていた。

「…抵抗、しなかったな」

「なんだか気が抜けちゃったのよ~」

なんて言って少し笑ってみる。

普段なら何を言う、とデコピンが飛んでくる筈だったのだが。

あいつは至って真面目な顔で、じゃあ、と言い出した。

「もうちょっと、やってても良いよな?」

「へ…あ、あの、数時間後にベッドでとか無いよね?」

「大丈夫、お前の事だし知ってるからそんなのしないよ」

「…じゃあ、良いよ」

少し躊躇い迷ったのだが。

素直にそう答えてやる事にした。

それに私が迷ったのは答えの仕方で、答えの内容は最初からイエスと決まっていたのだ。

「…それより、ゲーム良いの?」

「今ラスボスだった」

「えぇっ!?それじゃあ先にゲームの方しなよ!」

「良いよ、別にあのまま放置出来るし。今は心響の方優先」

「ええっ…」

なんだか申し訳無い気分、になどなる訳無い。

何やってんだこいつは、としか思わない。

しかしゲームよりも重要な事はある。

「あ、あの…真面目にこの熱をどうにかしなきゃいけないと思うんだけど…」

「看病ならちゃんとするよ、でも終わってから」

「いやいやそれじゃ駄目だし移るし…」

「大丈夫だよ、俺馬鹿だから」

「いやそうなんだけど…」

「おいこら」

しかしそれは風邪では無かろうか。

しかもそれって馬鹿は自分が風邪なのを気付かないってやつなので風邪にはなるのだけど。

「あーもう分かった分かった、そんなに心配なら看病するか、ベッドで」

「うっ!?」

確かに普通看病と言えばベッドで寝る事なのだが。

今はとてもおちおちとベッドで寝られる気がしない。

「わ、分かったよ…あんたのせいで熱上がっても知らないからね」

「はいはい」

結局オチはこうなってしまうものなのだろう。

手を出さない、と言っても正直余り信じられないものなのだが。

仕方ない、私が熱を出して倒れてしまったものだから、少しくらいの我儘は許してやろう。

しょうがないから。

幼馴染の特権で許してやるよ、彼氏さん。

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