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1-7 介抱した少女は××××


「よい……しょっと」


 どうにか他の人に見つからないように部屋の中に入ることのできた秋人は、ベッドに少女を横たわらせる。その間も少女は意識を失ったままだが、荒い息を吐き苦しそうだった。

 まずは呼吸しやすいよう、(あご)を少しくいっともちあげてやる。

 

「次は傷口の確認だな」


 処置をしようにも、少女がどんな傷を負ったのかを確認する必要があるだろう。

 

「悪い、少し服を脱がせるぞ」


 斬られてボロボロになった少女のカーディガンのボタンを外すと、Tシャツが露わになった。しかし、元の色がわからない程赤黒く染まっておりかなり出血していたことが分かる。

 少女を軽く抱き起こし、カーディガンとTシャツをどうにかして脱がせ、上半身を生まれたままの姿にさせる。手入れしているのか、ムダ毛のない綺麗な肌だ。

 そして肝心の傷口の方はといえば……


「あれ? なんか思ったより傷が浅いな」


 少女の胸部には鋭利なもので斬られた痕があるのは明らかだが、あれだけ出血していた割には傷口が小さすぎる

 まさか、この短期間でもう傷口がふさがったというのだろうか。

 少女の肩を少し持ち上げて背中の傷も確認するが、傷の深さは同様だった。


「…………」


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そこから導き出される答えはただ1つだが、それについては少女が起きてからゆっくりと聞けばいい。

 秋人は救急セットを持ってくると、鎮痛薬を取り出す。この薬は、PECの人の能力によって治癒力を強力に高めた塗布軟膏だ。軽傷ならばものの数秒で完治させてしまう程の効力があり、秋人がPECに入隊した時に支給された物の1つである。水分をほとんど含まず、油分が多いため傷口にも染みにくいのが特徴だ。

 貴重なのでなるべく使わずにとっておいたが、ここで役に立つとは。

 クリーム状になった軟膏を少女の傷口に丁寧に塗っていくと、冷たかったのか一瞬少女が体をびくつかせた。そして全ての傷口に薄く塗っていった後、秋人は包帯を巻いていく。


「ん~……。流石にこの服は血でカピカピだし、しかもボロボロだから使えないよな……」


 少女が着ていたカーディガンとTシャツを洗濯かごにいれる。

 どうやら傷を負っていたのは上半身だけで、下半身はほぼ無傷のようだった。治療とはいえ下半身を脱がすことをしたくなかったので幸いというべきだろう。


「とりあえずはこれで様子見か」


 鎮痛薬を塗ったおかげなのか、荒い息を吐いていた少女も、今は規則正しい寝息を立てていた。

 


◇◇◇


 そしてそれからおよそ2時間後。

 食事と風呂を済ませ、少女の近くで椅子に座ったまま考えごとをしているうちにうつらうつらし始めていた時だ。


「ん……」


 身じろぎをしたかと思うと、少女がゆっくりと目を開けた。


「よう、目が覚めたか」

 

 軽い調子で話しかける秋人。

 少女はまだ虚ろ気な目で周囲に視線を彷徨(さまよ)わせた後、言った。


「ここは……」


「俺の家だ。まあ正確には寮だけどな」


「寮………」

 

 少女は自身に巻かれた包帯を見たあと、ゆっくりと体を起こそうとする。


「痛っ!」


「まだ無理すんな。傷口は浅いように見えたけどお前結構斬られてただろ?」


「斬られ……?」


「なんだ、覚えてないのか」 


「ん~……?」


 口元に手を当てて考える少女。

 すると、突然手を打った。


「…………あっ!」


「何か思い出したか?」


 と、秋人が期待した時だった。


 ぐぅううううーー。


「…………」


「…………」


 少女の腹から鳴る盛大な音。


「今のは……」


 秋人が言うと少女は顔をほんのり赤くし、照れ混じりに後頭部をかきつつこう言った。


「すみません、何せ2日も食べてないので……」


 こんな状況下でお腹を鳴らすとは、身体は正直という事だろうか。


「お、おう……。怪我してるのに食欲はあるのな。とりあえず何か食うか?」


 秋人が言うと少女はまるで満開の桜のような笑みを浮かべ、


「いいんですか!?」


 と言って身を乗り出してきた。


「痛いっ!?」

 

 鋭い痛みに顔をしかめる少女に秋人は叱咤(しった)する。


「だからまだ動くなって! 傷口が開いたらどうするんだ」


「大丈夫です! 私鍛えてますからッ」


 自信満々に言う少女に、秋人は苦笑する。


「そういう問題か……? まあいい。じゃあとりあえず、何か作ってくるからちょっと待ってろ。つっても、インスタントしかねえけど」


「いえいえ、全然構いません! もうお腹がぺこぺこで……」


 腹をさすりつつ言う少女。

 秋人は一旦部屋を後にして、カップ麺を作ってやることに。

 お湯をいれてできたカップ麺を渡してやると、少女は美味しそうな匂いに表情を緩める。


「いただきます!」


 そういうなり、一気にがっつき始めた。


「ずるずるずる……!!」


「…………」


 余程腹が減っていたのか、少女の食べっぷりは見事なものだった。


「ひとすすりでラーメンを平らげた奴なんか初めて見た……」


「ふひはへん、ほははいいははへまふは?」


「ちゃんとよく噛んで飲み込んでから喋れ。何言ってるかわからねえぞ」


 というか、掛けてやったタオルもはだけてるんだが、気付いていないのだろうか。


「もぐもぐ……。すみません、おかわりいただいてもいいですか?」


「おう、食べろ食べろ」  


 少女の食欲は留まることを知らず、秋人が家にストックしておいたカップ麺を一気に10個も平らげてしまったぐらいだった。

 

「うまいか?」


「はい! ずずず……!」


 熱いラーメンをものともせず、一気にすする少女。

 しばらくその食べっぷりに秋人は圧倒されていたが、やがて一息ついたのか、


「ふう……ごちそうさまでした!」


 と言って手を合わせる。


「お腹いっぱいになったか?」


「はい! こんなに満腹になったのは、久しぶりです……!」


 満足げな表情で頷く少女。


「よかったよかった。じゃあそろそろ、本題に入ってもいいか?」


「本題?」


「ああ。お前が誰で、一体なんであんな状況になったのかという話だ」


 首を傾げる少女に、秋人が説明した。


「あーそうでしたね! えへへ、すいません忘れていました」


 そう言うと、少女は一度コホンッと咳ばらいをする。


「えーと、私の名前は(ほむら)しとねって言います!気軽にしとねって呼んでください。この度は助けて頂いて本当にありがとうございました!」


 そういって深々と頭を下げられる。


吉良(きら)秋人(あきひと)だ。皆からは秋人って呼ばれてる。名前は好きに呼んでくれ。

 それで、しとねはなんであんな所に倒れていたんだ? 一体誰にやられた?」


「はい! 実は……」


「実は……?」


「…………」


「…………」


 そう言ったきり、しとねは考え込むようにして黙ってしまった。

 沈黙が続き、しばらくして耐え切れなくなった秋人が、


「どうした?」


「あーえっと……えへへ」


「ん?」


 どうにも歯切れが悪いしとねに、秋人は不信感を募らせる。

 そしてしとねはバツが悪そうにこう言った。


「…………すみません。忘れました」


「おいおいっ!」


 思わずずっこけそうになった秋人。


「じゃあ誰に斬られたのかっていうのはわからないのか?」


「はい。残念ながら……」


「そうか……。じゃあ、俺が救急車を呼ぼうとした時、止めたのはなんでだ?」


「え……? 私、そんなことしたんですか?」


「…………」


「すみません。頭を打ってしまってから、ちょっと記憶が飛んでいるみたいです」


「ちょっとどころじゃねえけどな……」


 秋人は目を瞑り、思わず頭を抱えそうになる。

 彼女をここに連れてきた段階でわかりきっていたことだが、()えて言わせてほしい。

 こりゃ、厄介な事に巻きこまれた……と。










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