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1-10 夢月亜理紗


(な、なんでこんなところに――)


 吊り上がった目にくっきり二重のまぶた。長いまつ毛に、肩まで伸びた金髪のツインテール。

 そんな特徴的な容姿をした少女を見間違えるはずがない。


 ――夢月(むつき)亜理紗(ありさ)

 

 PEC序列第4位にして四帝の1人。規律に厳しく苛烈(かれつ)な五十嵐 桃に対してタイマンを張れる数少ない人間だ。秋人のような下位ナンバーの人達からすれば、その強さは次元をいくつこえているのかわからない程で、たった1人で国を滅ぼすこともできるのではないかと言われている。

 基本的に四帝と直接かかわりを持つことは少ないが、特に彼女に関しては顕著で、月に1度ある報告会以外に秋人は見たことがない。


「…………」


 そんな雲の上の存在ともとれる彼女に、こうもあっさり話せる機会がくるとは思ってなかった秋人は言葉を失ってしまう。


「あたしの名前は夢月亜理紗っていうんだ! よろしくな」


 そういうと夢月は笑みを浮かべながら握手を求めてきた。


「…………」


「ぼーっとしてるけどあたしの顔に何かついてるか?」


 不審そうにこちらを見る夢月を見て、ようやく秋人は我に返る。


「あ、ああ……! 夢月亜理紗か。覚えておこう」


 内心の動揺を悟られないようにしつつ冷静に言った秋人は、夢月と握手を交わした。その手はとても小さく、少しひねったらすぐに折れてしまいそうな脆弱(ぜいじゃく)さを感じさせた。


「じゃあなあきひと。また来いよな。あたしに色々教えてくれ」


「色々って言われてもな。最終ダンジョンクリアしたからもうやる事ないと思うぞ?」


「おまえ知らないのか? 今度の大型アップデートで、クリア後のダンジョンが追加されるんだぞ」


「え、そうなのか?」


「うん。しかも、そのダンジョンを制覇した順位に応じて限定アイテムが貰えるんだ!」


 目を輝かせ、意気揚々と語る夢月。


「なるほど、だから今日あれだけ最終ダンジョンをクリアしたがってたんだな」


「そうそう! あきひとが一緒に行ってくれるなら、あたしも心強いからさ……ダメか?」


 上目遣いでこちらを見てくる夢月。大抵の人ならばこれでコロッといってしまうような破壊力があり、秋人は思わず目を逸らす。


(しかし、一緒に行く……か)


 たまたま見つけてしまった夢月との繋がり。

 それはゲームという、PECとは全く関係のない事だったものの、彼女と仲良くしておくことは悪い事ではない。むしろ、ここは四帝と仲良くなれる絶好のチャンスとでも捉えるべきではないだろうか。


(というか、ここで断ったりしたらぶっ飛ばされそうだしな)


 夢月が本気を出せば秋人など一瞬であの世へ送ることができる。ここで返事を誤ってゲームオーバーだなんてことはなんとしても避けなければならない。

 彼女に目を付けられたのは思いもよらなかったが、ゲームに付き合うぐらいなら容易いことだ。

 秋人はこくりと頷くと、人差し指を彼女の前に出してこう言った。


「別にいいぞ。ただ、1つ条件がある」


「条件? あ……わかった! エッチな事だろ? こういうのどこかでみたことある」


「違うわッ! 一体何を見たんだよ……」


 自分の体を守るようにして手で隠す夢月にすかさず突っ込む秋人。

 一度咳ばらいをし、場を整えてから再び秋人は言った。


「条件ってのは、これからは夜遅くまでゲーセンに入り浸らない事だ」


「えー……なんで?」


 あからさまに不満げな表情をみせる夢月。それは秋人も想定していた反応だ。


「さっきの店員も言ってただろ? 子供が夜遅くまでいるのは、危ないって」


「大丈夫。あたしはこう見えても強いからな!」


 確かに彼女なら夜道でも平気だろう。

 むしろ襲ってきた相手の方がご愁傷様という感じだ。

 だが――。


「だとしてもだ。危険と分かっていながら、それをおかしてまで遊ぶ必要はないだろ? ゲーセンなんかいつでも来れるしな。それに両親だって心配するだろうし」


「……いねーし」


「え?」


 ぼそりと呟いた夢月の声は、秋人には小さく過ぎてよく聞き取れなかった。

 彼女は首を横に振ると、


「……いいや、なんでもない。ん~……わかったよ、あきひとの言う通りにする。けどその代わり絶対にまた来いよ!」


「ああ、約束だ」


「やったぁ! 約束したからな。破ったら承知しないからな!」


 そういうとその場にぴょんぴょん飛び跳ねる夢月。

 さっきまで怒っていたかと思えば上機嫌になったり、また不機嫌になったかと思えばすぐに上機嫌になったりと表情がコロコロと変わる夢月。

 年相応のかわいらしさは十分あるようだ。


(四帝とはいっても、中身はまだまだ子供か……)


 その事に秋人はどこか安堵するのだった……。









◇◇◇




 夢月と分かれ、帰り道。

 未だに雨は降り続けており、風も吹いている。

 秋人は傘を差し、若干濡れながらも帰路を急いでいた。


「昨日、今日と一気にいろんなイベント発生しすぎだな」


 五十嵐桃、焔しとね、そして夢月亜理紗。PECに入ってからほとんど女性と接触のなかった秋人にとって激動の2日だったように思えた。

 そして3人とも中々個性的な人達だ。

 秋人に対し容赦なくPECをやめた方がいいと断言した五十嵐。彼女は秋人の事を心配しているからとかそういった事ではなく、四帝としての立場から言ったに過ぎないだろう。しかしそれは決して悪い事ではない。秋人自身、弱い事は承知の上だし辞めようと思った事はあったが、もしも自分が辞めてしまえば、妹に治療が払えなくなってしまう。そんな事は絶対に避けなければならない。だからこそ、秋人は勇気を振り絞って彼女に反抗したのだ。

 記憶喪失の巨乳少女しとね。彼女の目的、誰に襲われたのか、そして何故救急車を呼ぶことを拒んだのかは結局不明なままだ。もし次に会う事があれば、色々と話をしてみる必要はありそうだ。

 そして、夢月亜理紗。五十嵐桃とはまた別の意味で目立つ彼女だが、話してみた感じ、意外と年相応の少女という雰囲気はあった。ただちょっと……いやかなり口は悪いように感じたが。 

 結局夢月が秋人の事をPECの一員だと気付いている様子はなかった。しかし、知られれば変に警戒される可能性もあるため、それについてはむしろ好都合だろう。聞かれれば答える必要はあるだろうが……。

 

「ん――?」


 公園を通り過ぎようとしたところで、ふと秋人は視界の端に何かが見えたため立ち止まる。

 滑り台と鉄棒を越えた先にあるブランコ……そこに誰かがいたような気がしたのだ。

 方向転換し、公園の中へと入っていく。


「あれは……」


 やはり、見間違いではなかったようだ。 

 秋人はその人物の元へと近付くとびしょ濡れの体に傘を差した。


「お前……こんな所で何をしてるんだ」


 土砂降りの雨で濡れるのも(いと)わず、その人物――しとねは(うつむ)くようにしてブランコに座っていた。




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