表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/13

1-1 月間恒例報告会

※この物語はフィクションであり、非現実的要素及び戦闘描写を多分に含みます。

 出てくる神や地名など、あらゆる固有名詞が同一であっても現実との関係を保証するものではありません。

 不定期連載です。


「おいおい……まじかよ」


 目の前に横たわる血だらけの少女。

 地面にはべっとりと血の池を作っており、生きているのかどうかすら危うい状態。

 そんな状態の少女を見て、彼は携帯電話を取り出すと、とっさに救急車を呼ぼうとする。

 だが、ボタンに手を掛けようとした瞬間、突如彼の足首にぬるりとした感触があった。


「ッ!?」


 驚いた彼が足元を見れば、少女の手が彼の足首を掴んでいた。


「よ……ダ……メ……」


「え?」


「よん……で……は……ダ……メ……」


 それだけを言うと少女はそのまま力尽き、意識を闇へと沈ませていった。 


「呼んでは駄目……ということか」


 まだ少女が生きていた事にも驚きだったが、それよりもどうして救急車を呼ぶことを拒んだのか。

 これだけの重傷を負っているのならば、まずは病院へ連れていくことが少女にとって最も良いはず。

 しかし、それを断ってまで行きたくない理由があったのだろうか。


「…………」


 彼は目を(つむ)り、悩んだ。

 とはいえ一刻を争う事態だ。あまり考えてはいられないだろう。

 早々に決断した彼は、携帯電話を閉じ、意識を失った少女を抱きかかえると何処かへと連れて行った……。
















◇◇◇◇◇◇







 (あかつき)見明(みあけ)町の中心部に位置するとある大きなホール会場。

 そこには、たくさんの人々が集まっていた。

 その数総勢551名。

 老若男女問わず、皆険しい表情で中央にある壇上の周りに並んで立っている。

 壇上にはまだ誰もあがっていないというのに、既に会場内には緊張感が漂っていた。

 

 やがて、ホール会場のドアから中へと入り、壇上に上がったのは4人の若い男女だった。

 

 四帝(してい)と呼ばれる、文字通りここにいる人達の中でも頂点に立つ者達だ。

 皆一様に席へと腰かける。これで総勢555名の人達が揃った事になる。


「では、今月の報告会を始めようと思うっ!!」


 しんと静まりかえった会場で声を(とどろ)かせたのは、四帝の1人であり序列第2位の五十嵐(いがらし) (もも)だった。

 その声はまだ若く、16、7歳ぐらいといったところだろうか。身長は一般的な成人女性の平均と同じぐらいであり、黒いショートカットの髪が特徴的な少女だが、顔には般若(はんにゃ)のような鬼のような仮面を被っており全容は分からない。しかし彼女が放つ威圧感は本物で、事実、会場にいる者達は皆、会場の端にまで聞こえる大きくはっきりとした彼女の声に一時も目をそらさず耳を傾けている。

 桃は、資料に書かれた内容に目を通しつつマイクを持ち、こう言った。


「今月の()()()による被害者はおよそ150名。そのうち重傷を負ったものは33名。死者は5名出ている。先月に比べると減ったとはいえ、まだまだと言わざるを得ない」


 桃が落胆の声色を(にじ)ませながら言うと、それに対し、反論の声が上がった。


「先月死んだやつは10人なんだろ? それに比べたら半分に減ったんだから全然いいじゃんか」


 声の方向へと一同が視線を向ける。

 まだ幼さが残るその声の持ち主は、序列第4位の夢月 亜理紗(むつきありさ)だった。吊り上がった目にくっきり二重のまぶた。長いまつ毛に金髪のツインテールが特徴的な強気な少女だ。きちんと礼儀正しく座っている桃に対し、椅子の上であぐらをかき、ボリボリとお菓子を食べながら頬杖をついている亜理紗。完全に舐めているとも取れる態度だが、何度桃が言っても直らない為、もはやスルーされる始末だった。


「そういう問題ではない。我々が掲げている目標は怪我人および死者数をなくすことだ。それがこの(てい)たらくとあっては、また奴らに嫌みを言われるだけではないか」


 奴ら……というのは即ち政治家の事である。


「別にそんなの勝手に言わせておけばいいじゃん。なんでそんな事を気にする必要がある――」


 亜理紗のやる気なさげな声に、桃の(りん)とした声が響き渡る。


「馬鹿者ッ!! そんなだから我々が舐められるのだ。結果を出すこともできない無能であるとな……。我々治安特殊精鋭部隊は、その名に精鋭とつくように、結果を出し全てにおいて完璧であることが求められる。そうでなければ、我々が存在する意味がない」


「あーやだやだ。これだから頭が硬い人は。んなもん完璧な結果を出すなんて無理に決まってるっつーの」


 亜理紗が嘆息しつつ言うと、桃が彼女の方を見て睨んだ。

 そうして桃が口を開きかけた時。

 彼女とは別の方向から思わぬ発言があった。


「くすくす……。確かぁその死んだ人達が住んでいる地区の管轄(かんかつ)って亜理紗ちゃんじゃなかったっけぇ?」


 亜理紗の方を(わら)いながら見つつそう言ったのは、序列第1位の稲葉 真白(いなばましろ)だった。

 まるで人形のように愛くるしい顔つきと雪のように白い肌を持ち合わせた、一見(はかな)げな少女だが、その心の内に抱えているものは謎が多い。


「あん? だからなんだっつーんだよ」


 真白の発言に亜理紗は不快そうに顔を歪め、軽く威嚇した。

 しかし、それを意に介することなく真白ははっきりとこう言った。


「いや~? ただぁ、それならその責任の一端は亜理紗ちゃんにあるんじゃないのかなぁと思ってぇ」


「んだとぉ!? てめー全部アタシのせいだっつってんのか?」


「別に私は全部なんて一言も言ってないけどぉ? それとも何、もしかしてそういう自覚でもあったのぉ?」


「こいつ……!」


 不穏な空気。2人の間に火花が飛び散るのが見てとれた。

 もしも2人がここで喧嘩を始めれば、彼女達だけでなくここにいる全ての人達も無傷では済まないだろう。

 しかし、逃げ出すことも許されない。そんなことをすれば後が恐ろしいからだ。

 そんな張り詰めた糸のように緊迫した空気の中。

 今までずっと喋らなかった、四帝唯一の男子であり序列第3位の木島雄二(きしまゆうじ)がゆっくりと口を開いた。


「仲がいいのは結構だが、そこまでにしたらどうだ。五十嵐が怒ってるぞ?」


 一触即発な彼女らの間に静かな声が響き渡る。彼の声に2人が桃の方へと顔を向けると、彼女は刀の鞘に手をかけていた。


「……二人共、私の刀の錆びにされたくなければ今すぐ喧嘩をやめろ」


 彼女が低い声を出し、2人を牽制(けんせい)する。これは最後通告だろう。これ以上もしも騒ぎ立てることがあれば、彼女は間違いなく抜刀する。

 それを察したのか、真白が手をひらひらさせつつこう言った。


「別に私は喧嘩するつもりなんてなかったんだけどね~。でもま、亜理紗ちゃんをからかうのも楽しいけどぉ、()()()()()()()()()()()()()()()やめておくねー」


「ちっ……この腹黒女め。いつか絶対ぶっ殺すかんな」


 桃の方を横目に見つつ、亜理紗が言った。


「私はいつでも亜理紗ちゃんを歓迎するわ。まぁ、命の保証はしないけどねぇ~? ふふっ」


 亜理紗の毒づいた発言にも、真白はただ挑発的に言葉を返すだけだった。

 桃は嘆息すると、続いてこういった。


「はぁ……あのな。お前達の仲が良かろうが悪かろうが私にとってはどうでもいいが、きちんと方針には従ってもらうぞ。

 我々治安特殊精鋭部隊という組織に必要なのは規則。その規則を守れない者は――」


 そう言うと、桃が突然抜刀した。

 目にもとまらぬ速さで居合いを放つと、ホールの端の方で立ったまま居眠りをしている男へと風の刃が向かっていき、吸い寄せられるようにして直撃――血しぶきを上げた。


「――相応の罰を受けてもらう事になる」


 声をあげることもなく、そのまま床に崩れ落ちる男。

すると、会場の外からそそそ……と黒服の男達が現れ、男は何処かへと連れていかれた。

 後に残ったのは大量の血痕のみ。

 その様子に、ホールにいる人達の中には驚きや恐怖心を抱く者もいたが、大概の人は無関心だ。こういった事には慣れているという事だろうか。


「来月こそ怪我人、死者数共に0だ。この目標を達成できない我々に、未来はない……。皆、その事を胸に刻み、日々、平和を守っていくことだ。わかったなっ!」


「「「はいっ!!」」」


 ホール内に大きな返事がこだまし、桃は満足げに頷くと再び大きな声でこう告げた。


「それでは、本日の報告会はこれにて終了する。解散ッ!」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ