After the evening calm
[容疑者の証言]
取り調べ日:二〇一七年四月二日
担当者:東山庵治
『私が殺しました。はい、私が彼女を殺しました』
――何故殺したのか? と捜査官。
『理由……ですか。そうですね。私の趣味趣向の話になってしまうのですが、私は高校――いや、中学生の頃から女性が好きでした』
――同性愛者、だと。
『はい、そうです。はっきりとした思い出は在りませんが……中学生でそれに目覚めた私は、女子高に入学しました。恥ずかしながら、女性目当てにです。そこで、私は彼女に出会いました』
――今回の被害者、百河夕華さんですね?
『……彼女はとても美しく、可憐で、儚くて……私は彼女に恋をしました。最初は拒絶されました。当然です。……ですが、共に過ごすうちに彼女は私に心を開いてくれました。そう、それは――』
[この後二時間に渡る証言。中略]
――話が逸れていた。何故、被害者を殺した?
『分かりませんか? 彼女が好きだったからです』
[資料:二〇一七年三月三一日の日本新聞]
【須磨女子高生行方不明事件の容疑者出頭】
本日未明、二〇一六年三月より行方不明になっていた当時一八歳の百河夕華さんを殺害・遺棄したと須磨警察署に当時同級生の少女が出頭。警察は出頭した少女の証言した場所を捜索、行方不明になっていた百河さんの遺体を発見、同日、その少女を逮捕した。
[資料:二〇一七年四月五日の帝王スポーツ]
【須磨女子高生殺人遺棄事件の容疑者は『イルミカラ社』の幹部子息だった!?】
今世間を賑わせているこの事件の容疑者について、帝王スポーツ記者が彼女についてスペシャルなネタを独占入手した。なんでも、容疑者はかの超良品質タイヤで知られる『イルミカラ社』の幹部の娘だというのだ。もしこれが本当ならば、『イルミカラ社』のイメージダウンは避けられないだろう。
[容疑者の証言:二]
『私と彼女は……夕華は離れ離れになってしまう運命だったんです。私は京都の大学に、そして彼女は北海道の大学に……これじゃあ、暫く会えないうえに、未海は新天地で別の誰かと……』
――それに耐えられなかった。
『はい。彼女が別の誰かと仲睦まじくして、私の知らない内に変わってしまうなんて耐えられなかった。だから、だから……彼女が私の大好きな状態のまま、彼女を留めておく為に。彼女を呼び出し、首を絞めて殺しました』
――後悔はしなかったのか?
『はい。だって、彼女は彼女のままなんですから。今でも、私の手には、心には……夕華の温もりが残っているんです。私達は、永遠に結ばれているんです。どこに行っても、私と夕華は一つなんですよ』
――捜査官絶句。
『私は何も怖くありません。彼女ともう一つになれたから、例え死刑であっても構いません。彼女と一緒なら』
[被害者・百河夕華さんの家から見つかった手紙]
凪沙へ。
こんなに改まって手紙を書くなんて少し恥ずかしいけど、ちゃんと言わないといけないことがあってさ。
私、北海道の大学に行くって話したじゃん?
正直、行く気満々だったんだけど、やっぱり知らない土地で一人暮らしもあれだし、本当に行きたい大学じゃないから……その、あれだ、浪人する事にしたんだ。
凪沙と同じ大学、にはなれるか分からないけど、頑張って京都の良い大学に行ける様に、私頑張るよ。
だから、凪沙も一足早い大学生活、がんばってね。予備校通いであまり一緒にはなれないと思うけど、来年きっと一緒の電車に通えるようにしよう!
夕華より