第一話
ある日のこと、都電に乗って知らない駅に降りてみた。
降りた先は時間が止まっているような空間が広がっていた。
地名は知っていても、普段はなかなかいかないところだし、なんも縁がないところだろうと思って、降りた駅。
降りた瞬間から恋に落ちたような気がした。
気持ちが洗われる。
丁度その時は「普通」と言う言葉になぜか無性に腹ただしく思っていたのだ。
「普通」の生活に「普通」に恋して、「普通」に暮らす。
そもそも、普通って何?
まるで「くじ」の結末みたいに石を投げつけられてるような錯覚におちいっていた。
そんな風に心がやさぐれていたので、まるで「陰翳礼讃」のような空間に恋をしてしまったのだ。
光と影って生活にとても大事なものなんですよ。
最近になって生活に光と影を意識する生活をするように心がけるようにしてる。
光と影を見ていると同じ空間でも別な感じになるのだから。
古びたアパートを改装した。カフェに入ってみた。
美しいブルーの陶器に、黒蜜色の珈琲が入っている。
目の前には寡黙なマスター(イケメン)が1人で切り盛りしているみたいだ。
店の空間もオシャレで、センスある人が作った個人店の色が所々に出ている。
空間で自分を一番出すのは、本棚ではないかと思う。
見てみると、ピンチョンやら、オースターやら、ヴォネガットやらの本が見えた。
あっ、このオーナーは本好きだ。
(いよーっしゃーーっイケメンさんに話しかけられる。あっ!でも、ピンチョンは挫折したし、オースターも、ヴォネガットも読んだことない_| ̄|○)
「あのう、素敵な本棚ですね。ピンチョンか置いてある。」
(うわっ!お前「V」読んで挫折しただろーっ何、しったかぶりをしているんだ)
(うるさーい!イケメンさんに声をかけるチャンスみすみす逃してなるものか!)
と脳内会議をしている間に。
「外文、英米文学が好きで、蔵書なんです」
とオーナーと二、三分会話できた(๑˃̵ᴗ˂̵)و
「今度、また来ますね」
と言って店を出た。
そのあと、目白の方まで歩いていき、フランク ロイド ライトの建築をたっぷり堪能してから家路に着いた。
二ヶ月後、「アメリカの鱒釣り」と「芝生の復讐」を買った。
もうそろそろ、またあそこのカフェに行くとしよう「リチャード ブローティガン」をバックに入れて…。