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第1章 しがらみから解き放たれたので、ダンジョンに行ってみます。

やあ、どうも俺です。

佐藤慶太郎、30歳独身、恋人いない歴生まれてから。

この度山中で事故りまして、宇宙人と名乗るちっさいおじさんにモルモットにされました。

で、惑星エニウェアって星に放り出されまして、神殿に色々お世話になりました。

修行の旅に出ていいよって言われたので、秘湯探索がてらダンジョンの街に行ってみます。

”なぜ好んで危険に首を突っ込むのでしょうか?”


――……――……――……――


かっぽかっぽ。

やぁ俺です。

のんきな音が聞こえてますけど、残念ながら風呂じゃないです。

この度修行の旅に出ていいよってことになったので、各地の秘湯探索に出たところなんです。

懐には古代の遊興人カリドウスが自ら回った秘湯を記した『百銘湯』。

俺が目指すのは、そこに記された百の名湯随一とされる『百年回廊の癒しの泉』。

街一つが迷宮に飲み込まれたとされる、百年回廊にあるとされる伝説の温泉なんですね。

カリドウスによれば、温泉設備、宿、食事に環境、湯量、湯の質、湯の種類、全てが極上なのだとか。

大変に楽しみです。


”なぜ街が飲み込まれるという大災害があったのに、その温泉に行けたのか。

そもそも迷宮で宿営業してるとか、食事が提供されるのは何故かとか、迷宮の中の環境が良いとはどういうことか。

突っ込みどころ満載なのですが。”


君も浪漫を解しなさいよ、副脳くん。

あ、この無粋なツッコミを入れているのは副脳くん。

俺の脳みそに付属した器官で、超能力とか計算とか記憶とかの補助してくれます。

俺が見聞きした範囲のことは何でも覚えてるすごいやつです。


”温泉の記憶ばかりが上書きされるのは、勘弁して下さい。”


後たまにホルモン調整とか言って、人の気分に水さすのが得意です。


「勇者様よ、もうすぐラビリンツヴァイス市につくだよ。」


ああ、ありがとうございます。

すいませんね、ここまで馬車に乗っけてもらって、楽ちんでした。


「なんのなんの、おらの村からオークの群れ追っ払ってくれたことに比べたら、この程度は大した礼にもなんねぇべ。」


ああ、あれオークで合ってたんだ。

なんかブタの鼻してるイメージがあったけど。


”欧米では緑の肌の筋骨隆々した化物のイメージが強いそうですよ。”


ああたしかに、結構強かったね。

騎士団の人といい勝負じゃないかな。


「そったら化物を、20匹も叩き斬った勇者様はホントにすごいだぁ。」


うーん、まぁ慣れてたからねぇ。

ちょくちょくモンスター退治とかでお小遣い稼いでたし。


”秘湯めぐりのじゃまになるからといって、自分から首を突っ込んでいったケースを37件記憶していますが。”


だって『百銘湯』に書かれてるのって、昔の遺跡とか辺境とかが多いんだもん。


”自ら危険を冒す必要性を感じません。”


良いじゃない、足代くらいにはなるし、付近のみんなが喜ぶし。

何より古の温泉を復活させるという浪漫がだねぇ。

ほら、ライちゃんのお風呂目当ての温泉客が増えたって、オイゲン村長から御礼の手紙貰ったじゃん。


”ライちゃんて……あれはドラゴンですよ。”


温泉を愛する友達です。

緑の鱗がチャーミングなレディだぞ。


”……ダメだ、こりゃ。”


――……――……――……――


農作物を売りに来るおじさんに乗っけてもらって到着したラビリンツヴァイスは、赤煉瓦が印象的な大きな城塞都市でした。

近くの鬱蒼とした黒い森と対照的で目立ちますね。

でもヴァイスっていうのに白くないのか。


”百年回廊が白大理石で作られた迷宮ですので、そちらにかかる形容では?”


だろうねぇ。

なんでもここは交通の要衝とのことで、通行税で非常に豊かなほか、百年回廊攻略の拠点として冒険者がたくさんやってくるんだそうです。

道理で賑やかな街ですね。

歳末のアメ横並みにおじさんたちが声を張り上げてますよ。


”あ、スリが来ました。

右から4人、左から1人、前にも2人、後ろの男は短刀を懐に飲んでます。”


はいはい、やっぱいるよねぇこんな大きな街だと。

クラウディア母ちゃんから預かった金だ、手出したら許さん。


”あっさり片付きましたね。”


まぁやること分かってたら、後の先でなんとかなります。

とりあえず全員叩きのめして、衛兵さんに引き渡したけど。


”前科もありそうですし、厳しく処罰されるでしょう。

先ほど脳内を探りましたが、人も殺してたようです。”


物騒だねぇ。

あ、ここか、神殿に紹介された宿屋は。

へぇ『小さすぎる財布』亭ね。

くんくん、なんかいい匂い。


”香辛料をふんだんに使った煮込みのようです。”


いいね、ちょうどお腹すいたし。

すいませぇ~ん!

宿借りたいんですけど、ええ長期で。

う~ん、とりあえず一月分かな。

前払いね、はい金貨12枚……え、この街だと金貨20枚になるの?

それでも割引してる?

ああ、都会だから物価が高いのか。

分かった分かった、その分夕飯期待してるよ。

お客さん、内臓大丈夫かって?

ウンウンもつ焼きとか大好物。

あ、この辺じゃ煮込みが主流なんだ。

ふうん、香辛料と赤茄子で煮込むのか……ん?

赤茄子って、トマトか!

最近外国から入ってきて、よく作られてる?

え、じゃがいももあるの。

オー、楽しみ、楽しみ。


――……――……――……――


あ~食った食った!

いや言うだけあって旨いね、もつのトマト煮込み。

この辺のワインに良く合ってたよ。

何より共同浴場とはいえ、温泉があるのがいいね!

ちょっと熱めの湯でさ、地元の若い衆が、ぱぱっと入って出て行くの。

風情があるねぇ。


”その割には長風呂でしたね。”


お風呂はじっくり味わう質ですので。

それにほら、旅日記につけないとね。

次に遭った時ライちゃんに話してあげるためにも、じっくり詳しく鑑賞しなくては。


”(うぜぇ。)”


そんなことよりさ、百年回廊攻略目的の冒険者が来てるそうだけど、彼らどうやって儲け出すんだろ?


”食堂で聞こえた話をまとめますと、どうやら迷宮で発生する怪物は生物ではないようです。”


生物ではない?


”宝石や貴金属を核に、生物や怪物の情報を入力し、その情報を元にした幻覚を発生させるようですね。

このため怪物の発生源の近くにはそうした貴金属等が発見されるため、これを換金しているようです。”


ほうほう。

しかしなんでまたそんなことを。


”ある種の警備システムではないかと思われます。

なお、普通にダンジョンに潜り込んで住み着くモンスターや野生生物がいるので油断は禁物ですが。”


その幻覚て、俺の超能力で破れる?


”試してみないことには分かりませんね。可能性は十分にあるかと。”


うーん、温泉巡りがメインなので、楽したいところだねぇ。

あ、でも冒険譚とか話したらライちゃん喜ぶかな。

あの子、住まいから出てこないみたいだし。

いや、ドラゴンてむっちゃ強いらしいし、人間の冒険譚聞いてもつまらんだろうか。

なぁなぁ、どっちだと思う?


”どっちでも良いんじゃないですかね。”


困るなぁ、はっきり意見出してくれないと。

なぁなぁ、副脳くんてばぁ。


”(うぜぇ。)”


――……――……――……――


ロープよし、背負袋よし、火口箱と念のための松明よし、チーズに干し肉、ナツメに乾パンと、食料はこんなものかな。

各種食器に毛布、マントに応急処置用の薬と包帯、着替えの服と手ぬぐいも忘れずにと。


”随分手馴れてきましたね。”


秘湯探索って要は登山+温泉用品だからねぇ。

何件も回ってきたから準備は万端ですよ。

最後に、クラウディア母ちゃんから預かった大金は神殿で預かってもらって、準備は終了か。

しかし、神殿てなんでもやってんのね。


”金融機関、教育機関、治安維持、土木工事に田畑開拓等々……

この時代で、最も組織化されていたものは宗教組織だと言われるくらいですからね。

そのほかの組織が不安定ゆえ、神罰なり神の怒りなりほど信用を担保するのに優れていたものはありません。

まぁそれゆえに現代日本と宗教組織のイメージが大きくかけ離れているのですが。”


そういや歴史でやったっけ……

ま、いいや。

あるサービスは最大限利用しましょう。


――……――……――……――


おっほう、タージマハルみたいに真っ白!


”いや基本的にヨーロッパの文化圏と似ていると思うのですが。

たとえば教会とか、もっと適切な例えがあるでしょう?”


だって写真でしか知らんもん。

実感のわかないものを例えられません。


”ライちゃんとやらに、そんな適当な記述を残すのですか?”


……んじゃえーとね、ギリシアのパルテノン神殿みたいにでかくて白くて、ホワイトハウスみたいに白くて豪華。


”ギリシャのパルテノン神殿は建設当時極彩色に飾られていたといいますが。”


それじゃ副脳くん、君はどう例えるんだ。


”世界遺産、ウラジーミルとスーズダリの白亜の建造物群に似た雰囲気の構築物ですね。

あるいは趣こそ違うものの地中海の白い町並みでしょうか。

いずれにせよ黒い山肌から浮き上がり幻想的で美しい。”


…………行こか。


”素直に負けを認めて良いのですよ。”


――……――……――……――


うわぁ混んでるなぁ。

なにこれ、日曜の秋葉原?


”まぁ言いたいことはわかりますが、双方にいろいろ失礼ですよ。”


見渡す感じ、いかにも強者って感じの人から、兵士っぽい人、そのへんの田舎の兄ちゃんまでいろいろだね。

みんな無傷で戻れたら良いんだけど。


”なかなかそうは行かないでしょうねぇ。”


あれ、何かデカイもの担いできた人がいる。

人間でも入ってそうだ。


”人間のようですね。

幻覚のモンスターに負け、死んだと思い込んだ人です。

あのように早期に救出されれば助かりますが、気がつく頃には衰弱してそのまま死ぬというケースがあるそうです。”


よく知ってるな、副脳くん。


”昨日食堂で聞いた噂話ですよ、もう忘れたんですか?”


モツの煮込みに夢中になってた。


”……だんだんずぼらになってませんか?”


はい、注意します。

ん?


”誰かに見られていましたね。”


こんなところに知り合いなんていないと思うんだけどな。


”神殿の同期の聖職者の方々は?”


いやいや、みんないいところのお嬢さんたちだし、こんな迷宮には来んでしょ。

ま、敵意とかなきゃそれでいいや。

さぁ行くぞ癒しの泉!

4話完結予定の第1話です

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