閑話 シャドー達 7
シャドー編ラスト二話です。
どうぞ最後までお付き合いください。
マサは階段を使わず地下30階から10階までを昇り、地下10階で鈴木に追いついた。
「おっと、ここから先は通すわけにはいかないぜ」
「退け!」
「そうはいかないぜ。あんたが持っているそれは、ロボットを爆破するために必要なんだ。返してもらうぜ」
「やっぱりお前が壺井を!」
「それはどうかな。まぁかかわっていることに間違いはないけどな」
マサは壺井の洗脳が半分だけだと気付いている。
だからこそ、本当に自分達だけが悪いのか、それとも壺井も悪いのかわからない。
しかし、そんなことはどうでもいい。今は爆破することが大事なのだ。
「いかせねぇって言ってるだろ」
鈴木はマサの脇をすり抜けようとしてきたので、腕を掴もうとする。
しかし、その瞬間に景色が反転した。
「いってぇ!お前なかなかやるじゃねぇか。なら俺も容赦できねぇな」
こんなところで手間取るわけにはいかないのだ。
いくら武道の心得があろうと、怪人には勝てない。
「なっ!やっぱりお前が宇宙怪人だったのか、これは協定違反だろ」
「こんなところに誰も来ないからな正体をバラしても問題あるまい。地球人よ。俺がこの姿になったということはお前の最後だということだ」
シャドーに変身すれば歴然とした力さで圧倒できる。
しかし、鈴木の後ろには壺井の影が見えていた。
「鈴木!リモコンを返せ!」
階段を上りきった壺井が迫ってきていた。
「どうするのだ。奴も我々の味方。すでに貴様は詰んでいるのだ」
壺井と挟み撃ちにするために上がる階段を塞ぐ。
「これでお前に逃げ場はない」
「それはお前も同じじゃないのか?」
鈴木の問いにマサは自傷気味に笑ってしまう。
すでに命をかけているのだ。逃げ場など必要ない。
「それはどうだろうな。俺は宇宙人、お前が考え付かないような逃げ道があるかもな。何より、お前達の自慢のロボットを破壊すれば、この街自体がなくなるんじゃないのか?」
ロケットが爆発すればこの街自体が吹っ飛ぶ。どこにいても同じだろう。
「さぁ、来たぜ」
「ス・ズ・キー!やっと追いついたぞ」
鈴木を挟み込むことができた。
「どうするんだい。鈴木さんよ」
「壺井……お前は本当にいいのか?」
鈴木が壺井に語りかける。
マサは知っている壺井は自分の意志でこの作戦に参加しているのだと。
「何を今更、お前は俺から全てを奪っていったじゃないか、仕事も恋人も御前に奪われた。今の俺には生きる希望なんてないんだよ。唯一残った俺の夢は俺自身が世界を救う救世主になるだけだ」
思った通りだ。壺井もまた狂気のなかに身を投じているのだ。
「もう戻れないんだな」
「ここで死ぬ者に関係あるまい」
マサは決着を付けるため、鈴木に襲い掛かる。
鈴木はリモコンを護る為、身を丸くして歩き始める。
歩は少しづつだが確実に、マサは鈴木の足を削り気力、体力を奪っていく。
「ほう、やるな。普通の人間がよく俺の動きを避けたな」
「待てよ!」
壺井が鈴木立ちはだかり、鈴木の歩が止まる。
「もう、逃げ場はないぜ」
シャドーが階段から鈴木を見下ろし、壺井が嫌らしい笑みで鈴木を見つめる。
「ならこんなもの!」
鈴木がリモコンを振り上げて、壊そうとすると壺井がさらに大きな声で笑い出す。
「ふはははは。本当にいいのか?そのリモコンが壊れても最後の爆弾は爆発するぞ」
叩きつけようとした手を止める。壺井が言うことは嘘だ。
しかし、鈴木の行動を止めようとはしない。壺井の嘘に付き合おうと思った。
するとしばし考えていた鈴木はリモコンをまた抱え込んだ。
「なら命に代えてもリモコンを守る」
それまで逃げることに執着していた男が戦う目になる。
「できることをしてやるよ」
傷んだ身体を引きずり鈴木が走り出す。
「ほう。俺を相手にするのか?」
マサは鈴木という人物を面白いと思った。
壺井などよりよほど信念を持っている。ならば一切の躊躇も手加減もしてはいけない。
気力体力を削るようにしていた攻撃をもっと直接的に切り替える。
「グハァ!」
「俺がザコ怪人だから舐めてたか?」
マサは先ほどよりもさらに速い動きで鈴木を翻弄する。
右から顔を、左から背中を、正面から腹を殴っていく。
「何か覚悟を決めたんだろ?ならその覚悟を見せて見せろよ」
鈴木は殴られながらも倒れることなく階段へ向かう。
「ほう。殴られても進むか。それがお前の覚悟か……無駄だな」
マサは何かあるかと警戒していた自分を笑い。
鈴木という単なる人間に覚えていた自分に気付いた。
だからこそ終わらそうと、距離を空ける。
「これで終わりだ」
マサにとって必殺の一撃は、高々と飛び上がったとび蹴りだつた。
一直線に鈴木の背中目がけて飛んでいく。
筈だった……
「なっ!」
「大きなモーションで放たれる攻撃を待っていたよ」
ボロボロになりながらも、鈴木は最後の牙を隠し持っていた。
マサが放った必殺の一撃に合わせるように、攻撃を寸前で避けた。
勢いよく地面に突っ込み、地下10階はその衝撃に大きく揺れる。
宇宙怪人は地球人の何倍もの力を持っているのだ。
マサがバランスを失っている間に、腕を掴まれる。
掴まれたと思えば景色が何度も切り替わる。何度も何度も地面にたたきつけられる。
「グッ!」
それでも立ち上がろうと反撃に転じようとすると。
「ここは昔から錆びついてるんだ」
鈴木はシャドーを投げ飛ばし、先程まで叩きつけていた地面の上を何度も踏みつける。
「お前!何をしているのか分かっているのか!」
マサは鈴木の覚悟を甘く見ていた。
鈴木もまた死ぬ覚悟を持っていたのだ。
「お前達の思惑はこれで潰えたな。壺井」
鈴木が踏んでいた地面はひび割れ、地下10階は崩壊を開始し始めた。
唖然とした表情の壺井は、鈴木が崩落していく地面に身を委ねていることに意識を覚醒させる。
「お前は最後まで俺の夢を奪うのか!」
鈴木の姿を見ていた壺井が、今迄の思いをぶつけるように叫び声をあげる。
地面は崩れ去り、マサも壺井も……鈴木も崩壊する地面へと吸い込まれていく……
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