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彼氏

望サイドのお話です。

 彼氏、男性または女性と恋人である男性のこと・男友達。


 ずっと子供の時から好きな人がいました。彼はカッコ良くて、頭が良くて、運動も誰よりもできて、明るくて、笑った顔が可愛くて、幼馴染の私のことを一番にわかってくれている人でした。


「どうして?どうして私じゃダメなの?どうして香澄なの?」


 私達は共通の秘密を持っていました。だからこそ、絶対に別れることはないと思っていたんです。でも、あの日、彼から告げられた残酷な言葉は、私の心を傷つけました。


「ごめん。俺は気付いたんだ。俺は桃鳥モモトリ 香澄カスミのことが、世界中の誰よりも好きだって」


 地面が無くなるような衝撃を受けました。私にとって彼が如何に大事だったか……死が二人を別つそのときまで、側にいてくれると信じていた。なのに彼はアッサリと私を捨てて、違う女の下へ行ってしまいました。

 桃鳥 香澄……彼の選んだ女は、私達幼馴染グループの一人で、世界で一、二を争うアパレル会社の娘です。私と肩を並べるほどの超お嬢様で、胸は大きく長い黒髪が純和風な顔立ちと合わさって、控えめな美しさをもっています。

 大和撫子とは彼女のための言葉ではないかと思ってしまうほど、その言葉に似合う女性だと私が見ても思います。それでいて、努力家で天然なお人好しところがあって、嫌なところが一つもない完璧な女の子です。

 彼が私と香澄の間で悩んでいたのは知っていました。それでも彼なら一番古くからの幼馴染である、私を選んでくれると信じていたのに……


「どうしてよ!」

「見てしまったんだ。怪獣が攻めてきたとき、香澄のスーツが緑色の液体で溶かされていく姿が目の奥から離れないんだ。香澄の白い肌が徐々に見えてきて、白くて大きく実った果実が今にも零れ落ちそうで、そのとき気付いたんだ。俺は香澄が好きだって」


 彼のあまりにもバカげた理由に、気持ちが冷めていくのを感じました。


「ただ、胸が大きくてスレンダーで黒髪が綺麗で、清楚なだけじゃない」

「そうだよ。望がもってないものを香澄はもってるんだよ」


 私が泣き始めると彼は去って行きました。泣いている私をほっていくなんてありえない。何より胸の差で負けたことが信じられない。彼の言動が信じられない。

 涙と共に、彼への思いが失われていくのを感じました。どうして私はあんな男が好きだったんだろう。顔が良くてお金持ちで、でも傲慢で我儘な彼の何がよかったのか、今はわからない……


「望ちゃん……?」


 涙とともに気持ちが冷えていく。気持ちと頭が噛み合わず、一人になりたいと思っていると声をかけられた。繁華街のこんな路地裏で、声をかけられると思ってなかった。

 チンピラやナンパのようなゲスな声ではなく、優しい声。声の先に見知った顔がこちらを心配そうに見ていた。

 仕事でも易しく見守ってくれて、困ったときに支えてくれた。相談すると心配して慰めてくれた。平凡な顔で、お金持ちじゃないし、男性としての魅力があるとも思えない。

 

 でも……顔を見ると、どうしようもなく安心する。


「係長!!!どうして?」

「ごめん。たまたま残業に必要な物を買いに来ていたときに声が聞こえてきてね」


 買い物と言われて係長を見ると大きな荷物を持っていた。ホームセンターの荷物を持った係長の姿は間抜けで、可笑しいような係長らしいような気がした。

 その態度と言葉に我慢していたモノが堰を切るようにあふれ出してきた。何も信じられないと思ったのに、どうして係長の顔を見ると、こんなに安心してしまうんだろう。

 係長は女心をわかってないし、いつもオドオドしていて頼りないし、学歴も二流大学を卒業しているだけだし、男性としての魅力は何も無いのに……だけど係長の胸の中は、誰よりも優しくて温かい。


「今だけすみません。係長」


 係長は固まったまま、私が泣き止むまで胸を貸してくれました。泣き止んだ私を、タクシーに乗せてくれました。最後まで何も聞かずに背中を擦っていてくれた、係長に癒されて寝るときは彼の事よりも係長のことを考えて寝ていた。


 朝、目覚めると、彼に振られた気持ちに整理がついていました。自分の気持ちが冷静にそれを受け止め、落ち着いていた。同時に芽生えた思いがあります。

 係長に胸を借りて抱きしめられたことで、私は知ってしまったんです。本当の幸せを、安心感と温かさを、そして好きだと思い追いかけるよりも、あの人に好きと言ってほしいと思いました。

いつも読んで頂きありがとうございます。


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