逆転
逆転、事の成り行きなどがそれまでとは反対になること。
シャドーが放った必殺の一撃は、高々と飛び上がったシャドーがとび蹴りだつた。
シャドーは一直線に鈴木の背中目がけて飛んでいく。
筈だった……
「なっ!」
「大きなモーションで放たれる攻撃を待っていたよ」
鈴木はボロボロになりながらも最後の牙を隠し持っていた。
シャドーが放つ必殺の一撃に合わせるように、攻撃を寸前で避けた。
飛来するシャドーは勢いよく地面に突っ込み、地下10階はその衝撃に大きく揺れる。
鈴木はシャドーがバランスを失っている間に、腕を掴んで地面に叩きつける。
何度も何度もシャドーを地面へと叩きつけ、動きを封じる。
「グッ!」
地面に打ち付けながらも、シャドーは立ち上がろうとしたが、鈴木は次の一手を打っていた。
「ここは昔から錆びついてるんだ」
鈴木はシャドーを投げ飛ばし、先程まで叩きつけていた地面の上を何度も踏みつける。
「お前!何をしているのか分かっているのか!」
鈴木の行動を理解して、シャドーが驚愕した表情で振動する地面に恐怖する。
鈴木自身も振動が何をもたらすのかわかっている。
「お前達の思惑はこれで潰えたな。壺井」
ひび割れる地面に鈴木は覚悟を決めていた。
地下10階は崩壊を開始し始めた。
唖然とした表情の壺井は、鈴木が崩落していく地面に身を委ねていることに意識を覚醒させる。
「お前は最後まで俺の夢を奪うのか!」
鈴木の姿を見ていた壺井が、今迄の思いをぶつけるように叫び声をあげる。
地面は崩れ去り、シャドーも壺井も……鈴木も崩壊する地面へと吸い込まれていく……
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鈴木が目を覚ましたのは真っ白な天上と真白な壁に包まれた綺麗な病室だった。
「太郎さん……」
鈴木が目を覚ますと入口に花瓶を持った望が立っていた。
「望?」
意識がハッキリとしない鈴木は、確かめるように望の名前を呼んだ。
「やっと……」
望はゆっくりと花瓶を置いて、鈴木に抱き着いた。
目には涙が溢れ、声にならない嗚咽を漏らしている。
「どうなったんだ……」
鈴木は自分の体を確かめるように、ゆっくりと望を抱きしめた。
望の背中を擦り、望の頭を撫でる。望が落ち着くまでずっと続け。
望が涙を止めたときには、腕が怠くなっていた。
「ごめんなさい。本当に嬉しくて……」
「ああ。そんなに喜んでくれて嬉しいよ。でもどうなったか教えてくれないか?」
「その前に私の話を聞いてもらってもいい?」
鈴木は事件のことが気になったが、望の覚悟を決めた瞳に頷くほかなかった。
「ずっと隠してきたことがあるの……」
望の言葉に何を告げられるのわからずに、鈴木は息を飲む。
「私ね……ヒーローなの……」
「えっ……」
望の告白が理解できずに鈴木は間抜けな顔をする。
「だから、私宇宙人と戦うヒーローだつたの」
望はどこか照れたように、それでもやっと隠していたことを告られた清々しさが顔に浮かんでいた。
「ごめん。言っている意味がわからない」
「そうようね。順番に説明するね」
望は自分が六年前からヒーローとして活動を始め、ロボットに乗って戦っていたことや、そのために会社に勤めることができずに派遣社員で中小企業に協力してもらって、早退や休み、中引きをさせてもらっていたことを話した。
そして、鈴木が眠っている間にヒーローを引退することになって自分がヒーローだったことを話せるようになったと告げた。
「ははは。そうだったのか……憧れのヒーローが目の前にいるのか」
鈴木は実感が持てないが、告げられた事実に笑うことしかできなかった。
「それでね……太郎さん。もし太郎さんが同じような危険を犯すようなら、私も連れて行って。私があなたを守るから、もうこんな思いは嫌よ」
その後、望は何があったのか教えてくれた。
あの後、平田がロボットを操作して鈴木と壺井を救ったこと。
平田はそのまま搬入口から崩壊するビルをロボットで脱出したこと。
鈴木のケガは暴行による肋骨の骨折と、落下時に右下腿骨折をしたらしいなど話を聴いた。
鈴木が見たシャドーという宇宙怪人はビルの崩壊で行方がわらかなかったということだった。
事件の話を聞きながら鈴木は良く生きていたものだと、自分の運に感心する。
「ビルは事前に移る予定だったらしくて、データとかは取り出していたから、無事だったって」
望も事件の真相を平田から聞き、また会社関係者からその後の会社のことを聞いたのだ。
「そうか……一先ず事件は解決したんだな」
「ええ。他社からも宇宙人の介入があったと証明されたことで、中小企業の面子も保てたって言っていたわ」
望は前川に会社の事情を聴いたらしく。
詳しく教えてくれた。壺井は警察病院で憑き物が落ちたように素直に事件について話しているということで、狂気に駆られた壺井はいないらしい。
「太郎さんは体を治すことに専念してね。今は会社の移動やらなんやらでバタバタしているから、ゆっくり休んでいる方がいいかもね」
望のウィンクに微笑み。鈴木は窓の外を眺める。
「平和が一番だな」
鈴木は改めて平和のありがたみを実感する。
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