幹部
幹部、組織の首脳や執行部にあって、組織運営の意思決定と指揮・命令を担う人物またはその職位を指す。
中小企業には10人の幹部と呼ばれる人間がいる。
トップの席に座るのは、親会社の会長であり黄島重工業の会長を務める。
黄島 鉄山だ。中小企業の会長として幹部会に参加している。
しかし、黄島が参加するのは一年に一度きりで報告を聞くためにやってくるのだ。
その一年に一度の幹部会は毎年年明けの一月に開かれることになっている。
「今回は会長である黄島 鉄山会長にもいらしてもらっている。皆、去年の報告と今年の抱負を話すように」
吉川社長の言葉に一同が立ち上がり、黄島に頭を下げる。
「「「今年も一年よろしくお願い致します」」」
副社長の号令の下、幹部一同で黄島に新年の挨拶を済ませ幹部会は始まる。
「うむ。皆も座ってくれ。ワシも老いた。今は第一線で活躍している君達が主役じゃ。では今年の報告を頼む」
老いたと言いながらも黄島の存在感は半端ではない。
常務から報告をしていくのだが、黄島の眼光に晒され、たどたどしい報告になってしまう。
専務が終わり、各部門の部長が報告をしていく。
中小企業内は大きく四つの部門に分かれている。
1、営業部
2、総務部
3、開発部
4、宣伝部
人事や行事などは幹部会で報告が行われ人事が決定されるため、人事部と言った決まった部署はない。
事務処理は総務部が全て受け持っているのだ。
派遣が多い中小企業では社員の数が少ないので、そういうスタンスが取られたのだ。
「営業部は大手企業赤城自動車で提携を結ぶことに成功しました。我が営業部に属します鈴木課長がよく働いてくれました」
営業部部長は、耄の下で鍛えられた者なので鈴木の働きを正しく評価してくれていた。
「総務部の前川です」
総務部でも人事異動が成された。
鈴木が大手企業と提供したことで、育ての親である前川 太が部長へと昇進していたのだ。
部長職にいた者が耄と同時期に引退を迎える者だったこともあり、この昇進もスムーズに行われた。
「うちも上半期は鈴木 太郎君のお蔭で。修繕、修理のコストを抑えることができ、また新しい発想の提供により、格段に能率が上がっています」
前川はますます成長したお腹を突き出して、誇らしげな顔をしていた。
「宣伝部です。現在は大手企業赤城との提携のお蔭で宣伝効果もうなぎ上りです。業績も昨年度に比べて3割増だと考えられます」
三部門ともに鈴木の功績により、それぞれの成果を出していた。
「開発部の的場です。実はここで我が部門の報告をする前に皆さんに提案したいことがあります」
的場の発言に九人の視線が集中する。
「私は鈴木 太郎を幹部候補として推薦します」
「なっ!」
「彼はまだ課長だぞ」
的場の言葉に常務や専務などは驚いた。
しかし、各部門の部長たちは苦笑いを見せ、仕方がないと言いたげな顔をしていた。
「鈴木君はまだ若い。それでも幹部になる資格があるというのかね?」
的場の発言に吉川が質問を返した。
「はい。鈴木 太郎という男は欲がありません。サラリーマンとは少なからずも欲深いものです」
的場の言葉に咳払いや、笑顔を作るものもいる。
皆それぞれに思い当たることがあるのだろう。
「しかし、彼は欲が薄い。無いとは言いません。しかし、欲が薄い。よく言えば平凡。悪く言えば自己評価が低い。それは彼にとって美徳かもしれません。しかし能力ある者が能力を発揮しないと言うのは本人にとっても会社にとっても損なことです」
的場の発言に頷く者が半数を占めていた。
「して、的場君。彼はそれほどの器かね?平凡なのだろう?」
的場を射抜くように黄島会長が目を見開く。
「それはわかりません。ですが、去年の彼の功績は皆が認めるところです。そればかりか、彼は成したことを凄いと微塵も思っていない。当たり前のことだと言ってしまうんです。そんな社員が他にいますか?」
的場は真っ直ぐに黄島会長の目を見返した。
「うむ。君がそこまで言うのだ試してみる価値はあるかもしれんな」
黄島会長が賛同すれば、反論する者は誰もいなかった。
「では、鈴木課長に幹部候補として辞令を……しかし、彼は若い。そのため、まずは候補として期間をおく」
半分の者が未だに鈴木への幹部入りを納得していないと判断した吉川社長は候補と言う言葉を使った。
「それでお願いします」
的場にとっては、一番いい形ができたのかもしれない。
鈴木は自身には荷が重いと断っていた。
候補と言えば少し肩の力も抜けるだろうと思ったのだ。
「それでは今年の幹部会を閉会とします」
それぞれの報告、抱負を話し終えたことで、吉川が閉会を宣言する。
会議室から出て行く的場を黄島が呼び止めた。
「的場君。君はうちの孫のことを知っておったな」
「会長……はい。知っています。ですが、鈴木君のこととお孫さんのことは全くの無関係ですよ」
的場の言葉が真実かどうか黄島も見分けられる目は持っていると思っている。
「ふむ。嘘はないようじゃな。君の人を見る目……試させてもらおう」
黄島 鉄山は楽しそうに笑って去って行った。
的場は深々と頭を下げながら、背中には冷汗が流れていた。
「化け物だな、あの爺」
黄島の眼光は未だに衰えてはいない。
一代で終戦後から黄島重工業を立ち上げた生ける伝説は健在も現役のようだ。
鈴木がナイトクラブを経験した次の週、鈴木に新たな辞令が下りた。
『幹部候補生 鈴木 太郎』
その辞令を見たある一人の男の額には青筋が浮かび、腕には無数の引っ掻き傷ができていた。
「許せねぇ~」
恨みを込めた目で辞令を睨む壺井 浩孝の瞳は、憎しみの炎が宿っていた。
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