部下
部下、ある人の下に属し、その人の命令を受けて行動する人。
鈴木 太郎が課長になって変わったことは部下が増えたことだろう。
今までは望だけしかいなかった部下が、今は望以外に二人の係長と六人の派遣者員を部下に持つようになった。
耄は12月を以って退職となり、1月からの課長として赴任した。そのときに吉川の配慮で部下に成る者が決まっていたのだ。
「では自己紹介をしていこうと思う。まずは私から、私は、鈴木 太郎です。総務課で七年間この会社に勤めてきました。去年より営業課に配属になり、今年から課長として働かせて頂きます。今回は耄課長の定年と重なり、普通の人事とは違い異例の時期の昇進になりますが、自分なりに頑張りますのでついてきてください」
鈴木の挨拶に望が盛大な拍手をくれる。
それに習って全員の拍手が鈴木を迎えてくれる。
「では次は俺がします。俺は営業課係長、平田 弘樹です。営業課一筋5年。営業のことは鈴木課長よりも経験があるので、何かわからないことがあれば言ってください。自分なりの経験になりますが、答えられると思いますので、気軽に声をかけてください。学生時代から平ちゃんと呼ばれているので、皆さんも平ちゃんと呼んでくれると親しくなれると思うので、よろしくお願いします」
平田は優しそうな顔に穏やかな声で話をする。
内容も鈴木のフォローをするように徹してくれているので、その場の雰囲気が柔らかくなる。
「次は私ですね。私は椿 彩愛です。営業事務係長をしています。勤務年数は7年で鈴木課長と同じですが、シングルマザーをしております。ですので育児と兼任させてもらっています。子供の事情で会社を早退することもあると思います。そのときは皆さんにご迷惑をおかけすることもあると思いますが、どうかよろしくお願いします」
椿さんは歳は鈴木よりも五つ上で35歳。勤務年数こと鈴木と同じだが、育児休暇が取れなかったため一度会社を退社して再就職してきたのだ。
色々事情はあるだろうが、仕事に慣れた落ち着いた女性なので頼りになりそうだと鈴木は思った。
「はいはい。次は私がします。私は黄島 望といいます。鈴木課長の妻です」
元気よく挨拶する望に全員がついていけずに唖然としている。
それに構わず、自己紹介を続ける。
「ですので、鈴木課長には手をださないようにお願いします」
最後の方は仕事と関係ないが、望の自己紹介が終わったので鈴木は次に視線を向ける。残りの派遣社員は2人が女性で、4人が男性だった。
女性から順番に、溝口 秀美、山本 順子
男性は、藤井 貴之、森本 拓也、藪下 和輝、五百蔵 稔の計六人だった。
それぞれの性格や個性については後々わかってくることだろう。
「皆さん。まずはこれから一年よろしくお願いします」
この挨拶を行なったのが、一月四日のことだった。
翌日からは残業が続き、椿は育児があるため残業には出ないが、鈴木と平田は秘密基地作成の警備員として残業に駆り出されたのだ。
「課長の噂はよく聞いていましたよ」
鈴木は平田を誘い。いつものオヤジさんのおでん屋に来ていた。
「噂?真面目に仕事していただけなのにどんな噂が流れるんだ?」
「そうですね。一番有名なのは普通の人ができないロボットの清掃を方法考え出したとか、普通ではないことを平然と行う掃除の化け物とか、普通の人には無い発想でロボットの修理を提案するとか。危機リスクのスペシャリストとか色々言われていますよ」
平田の言葉に、鈴木は苦笑いで返す。
自分は何かをしたつもりはない。しかし、自分が思っていないことでも人の評価を得られることがあるからわからないものだ。
「営業では平ちゃんの方が先輩なんだ。色々わからないことが多いと思うが頼むな」
「こちらこそよろしくお願いします」
二人は何度目かの乾杯をする。
「そうだ。今度クラブに行きませんか?これから接待などで使うこともあると思いますし。もちろん経費じゃなくて僕の驕りで」
平田のそんな提案に鈴木はしばし考え、これも社会見学の一環かとそれを承諾する。
「よし。じゃ今週の金曜日は空けておいてください」
平田も残業のことは分かっていてこんなことを言っているのだろう。
鈴木なりにまずは平田と仲良くなろうと思っていたので、平田の気分転換に付き合おうと考えていた。
営業に変わってからの残業のほとんどはどこにどの子会社を派遣するかを考えることが多い。
さらに、他社との連携を乱さないように繋ぎ役になったりと、人と関わる仕事が増えた。
赤城から派遣されてくる技術者とも顔を合わせ、そのときに梶原と打ち合わせをする。
梶原は赤城で課長に昇進したらしい。
元々課長職にあった。赤城 龍牙の降格に伴い、昇進が決まったらしい。
「新型機実働はもう少しかかりそうですね」
現在は新型ロボットの実践導入を実験検討中である。
ヒーロー達の訓練もあるのだが、新型ロボットが戦闘に耐えられるかの実験が繰り返されているのだ。
「完成にはいたっているので、気長にいきましょう」
鈴木と梶原のやりとりはいつも気楽な調子で終わる。
休憩室でコーヒーを飲んでいると、今日も今日とて宇宙怪人がテレビに映し出される。
「しかし、宇宙怪人って色々いるもんなんですね」
平田は煙草を吸っており、鈴木はコーヒーを口に含む。
「ああ。しかも大きくなる前には手下の黒子みたいなやつもいるらしいよ」
「ああ。イィーとか叫ぶ奴ですか?」
「いや。ウガイっていうらしいぞ」
「ウガイ?どういう意味なんでしょう?」
「さぁ?イィーも意味わからなんけどな」
鈴木と平田のやり取りとは別に、テレビ画面ではヒーローが怪人に勝利していた。
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