-武田1-
この章は「武田愛」目線で話が進みます。
-武田1-
草むらから陣内さんのいた浜辺に戻ると、横に男の人の姿が見える。まさか圭ちゃん!?
「あ! 圭ちゃん! 無事だったのね!」と、私が聞くと圭ちゃんは意外な返事した。
「あ、どうも武田さん。はじめまして。」
――あれ? はじめまして?
「こちらは圭一くん。私の彼氏。」続けて陣内さんがそんなことを言うもんだから私の頭はパニック状態に陥った。圭ちゃんがはじめまして? 陣内さんの彼氏? あれ? 私の彼氏じゃなくて? あれあれ?
「なんか武田さん混乱してるみたいですよ。」圭ちゃんがまるで他人事のように言う。
「へんねぇ、さっき私としゃべってたときは普通だったのに。やっぱり船から落ちたときのショックでどこかおかしくしたのかしら?」
あれ? ちょっとまって? どういうこと?
えーっと、陣内さんはわかる。さっき会った人だ。私と同じく船に乗って漂流しちゃった人だ。
その隣にいるのはおそらく圭ちゃん。私の彼氏。私に会いに来てくれたんだ。でもさっき陣内さんが彼氏とか言ってなかった?
……まぁ圭ちゃんに確認すればわかるわ。
「あの~」まだ混乱は収まらないが、私は思い切って質問してみることにした。
「圭一君だよね?」
「はい、僕は圭一ですが。」 OK。ここまではあってる。
「私の彼氏ですよね?」
「え!?」 圭ちゃんはいままで見たことのないビックリした顔をした。人間ってビックリすると本当に目って飛び出るんだな。と私は思った。いや、そんなこと思ってる場合じゃないんだけど。
「そう……なんですか?」と聞かれたので、「そう……だと思いますけど……」と、答える。お互い自信のない声だ。
おかしいな? 確かに私が彼女なはずなのに。私まで自信がなくなってきた。
いや、そんなはずはない! 圭ちゃんは私の彼氏なのだ! とても頼りになる自慢の彼氏なのだ!
このツアーも私がなにげなく「たまにはきれいな海にでもいきたいねー」といったら圭ちゃんは私のために旅行の計画を立ててくれたのだ。しかも私も圭ちゃんもお金がないからと飛び切り安いツアーを探してきてくれたのだ。
いつも困ったときは頼りになる圭ちゃん。その圭ちゃんがこんなに情けなくなるなんて……
転覆のショックを受けているとはいえ、ちょっと残念だな……
「ちょっと待ってよ。」いきなり陣内さんが割ってはいってきた。
「圭一は私の彼氏よ。あなた何言ってるの?」陣内さんのセリフが私の混乱に拍車をかけた。
「え? でも私、圭ちゃんの彼女ですもん!」私の頭は混乱しているが、コレだけは確かな情報なはずだ。
2人がそんな言い争いをしてると、今度は圭ちゃんが横で私以上にパニックを起こしてるみたいだった。
「俺二股してるの? もしかして修羅場なの?」とぼけているようだけど、どうやら本気みたい。いつもの圭ちゃんはこんなにとぼけた人じゃないのに……
「もしかしてさぁ、あなたも記憶障害なんじゃないの?」
――! 陣内さんのそのセリフに私はまた混乱した。あなたも? も?
「どうも圭一は記憶障害らしくて私が彼女だって覚えてないのよ。武田さんも記憶障害で圭一が彼氏だと思い込んでるんじゃないの?」
「え! そんなはずないですー! 私は圭ちゃんの彼女ですよ!」
「でもその圭ちゃんとやらが覚えてないというんだから証明の取りようがないわね。」
確かにそうだ。 ――あれ? でもちょっと待って?
「でもそんなこと言ったら陣内さんが圭ちゃんの彼女だってのが記憶障害だって可能性もあるじゃないですか!」良くぞ思いついた! 偉いぞ私!
「まぁそういうことになるわねぇ。」陣内さんはため息をつくように言った。