-陣内4-
-陣内4-
「そうだよ。最初に自分でいったんじゃん。」さも当然のように答える圭一。
「いや、確かに言ったけど……あれは……」
「ごめん、いじめるのはやめよう。」圭一は笑いながら言った。「たしかに俺はこの島に着いたときお前の記憶がなかった。しかし、あの細い道ですっころんで頭を打った時にすべてを思い出したんだよ。」
「それはなんとなくわかるわよ。なんだかあれから妙に態度が違うもの。」
「だから思い出したからだよ。俺の彼女は陣内蘭子だって。だから武田愛ちゃんは関係ないんだなって。」
「愛ちゃんが関係ないのはいいとして、私が彼女なのはおかしいでしょ?」
「なんで?」圭一は当然のように答える。
なんでもクソもない。だって私はあなたの彼女じゃないのだから。
圭一の彼女は愛ちゃん。話がかみ合わないのは、きっと圭一には彼女以外の部分でも記憶障害があるからだな。と納得していたのだけど。
圭一が記憶障害で私の記憶がなかったのはいいとして、私に圭一の記憶がないのはおかしいじゃない。
「だって、そしたら――」そこまで言って私はハッとした。
「そうだよ、お前も記憶障害だったんだよ。お前も俺と同じ。自分の彼氏、つまり俺に関する記憶だけなくなってたの。俺らって仲良しじゃね?」圭一はニヤニヤしていった。
「そ、そんなはずは――だって、私、あの娘の彼氏がこんなにイケメンだからちょっと遊んでやろうと思っただけで――」
「カッコイイと思ってくれてありがとうございます。」
「いや! そうじゃないでしょ! そ、そうよ! 私とあなたが付き合ってるっていう証拠はあるの? じゃなきゃこんなこと納得できないわ! いきなり彼氏とか言われても!」
私は混乱しきっていた。確かにそう考えれば辻褄は合うのだけど、どうにも納得がいかない。なにか納得できる説明がないと……
そこに佐藤君が話に入ってきた。
「僕、見てましたよ。船が転覆する前に、藤堂さんと陣内さんが仲よさそうにいるところ。い、いや、覗きとかじゃないですよ! 愛と2人でいたら、たまたま見えるところにいたんで。仲よさそうでしたよー。」
「……」思わず黙ってしまう私。
「それに、いいじゃないですか。今だってとっても仲よさそうに見えますよ。」
「そうですよー 私より蘭子さんのほうが藤堂さんにはお似合いですよー」愛が悪乗りっぽく言った。
「というわけなんだけど。納得した?」圭一が言う。
「話はなんとなくわかったけど、急に彼氏とか言われても……」正直まだ現実を受け入れられないでいた。
「じゃあ蘭子も転んで頭打ってみる? 記憶が戻るかもよ? あ、でもバカは転んでも治らないんだっけ?」
「バ、バカとはなによ!」
「そうですよ藤堂さん、あんまりいじめたら蘭子さんかわいそうですよー」愛が横から言う。
「まぁ正直な話、付き合ってるときもこんな感じだったしなぁ。じゃあもう一度ちゃんと告白します。それでいいでしょ?」圭一が言った。
「そ、そうね……」
残念ながら私の記憶は戻らないけど、付き合ってたというのはなんとなくうなずける。こういうようなバカなやり取りができる相手というのが私の好みなのだ。私は口調が乱暴なのでこんなにしゃべれる人もあんまりいなかったし。そうね、ここから初めて付き合ったと思えばいいのよ。ダメだったら別れればいいだけのことだし……
「陣内蘭子さん! 俺と結婚してください!」
そこまでの仲だったとは思わなかったわ……