-藤堂1-
この小説は語り手が3人です。
サブタイトルの名前の人物が語り手になっています。
藤堂→藤堂圭一
陣内→陣内蘭子
武田→武田愛
それぞれの目線で語られています。
-藤堂1-
「無人島なう」
と、打ったところで圏外だからどこにも送信できないのだが。
透き通った海。白く輝く砂浜。南国気分を盛り上げる森林。
そしてそこに漂流してきた俺。
いやいや、とりあえず落ち着け。現状を確認しよう。
①俺は夏休みを利用して南の島ツアーに出かけた。
②船で本島から離島へ行くプランの最中に転覆して現在に至る。
幸い記憶はしっかりしている。小説定番の「記憶障害」じゃなくてよかった。
俺は藤堂圭一 25歳 大学を出てごく普通の会社に勤める3年目
よし、大丈夫だ。
しかし、あのくらいの風で転覆する船はどうかと思うぞ? 確かに強風ではあったけど、お世辞にも「大嵐」とはいえない強さだ。まぁ格安のツアーだから仕方ないといえば仕方ないのだけど。ケチらないでもっといいツアーをとればよかった。
さて、勢いで「無人島」といったけど、正直無人島である可能性は低いと思う。
周りに人がいる気配がないので思わずつぶやいたがツアーの人が一緒にいるかもしれないし、この辺一帯が観光メインの島だから現地の人だっているはずだ。
携帯は圏外だが――水没しなかっただけましか。最近の防水機能はすごいな――どこかで人に会えれば、観光客が迷い込んだとわかってくれるだろう。
会話には苦労しそうだが、まぁしょうがない。
浜辺でそんなことを思っていると、少し離れた繁みに人がいるのを発見した。
「お! ツアーの人か?」うれしさのあまり独り言をつぶやきながら俺はその人影に向かって走り出した。
近づくとはっきりしてきた。間違いなく人だ。それも日本人っぽい若い女の子だ。
といっても俺と同い年くらいだろうか。ここでかっこいいところを見せておけばポイントアップ間違いなし。
「お姉さん、僕がいるからもう心配は要りませんよ。」なーんて言ったら「あら! 圭一さんステキ!」なんて展開になるかもしれないな。と妄想しつつ声が聞こえるくらいまで近づいた。
「大丈夫ですか? ツアーに参加していた人ですよね?」俺は女性に話しかけた。
ところが帰ってきた返答は意外なものだった。
「あぁ、圭一も無事だったのね。」
――あれ? こいつ俺のことを知っている!?