【御神託】に運命の相手を頼んだら不良品しか来ないんだが。
「俺は、お前との婚約を破棄する!」
「そんな!酷いわ!」
「酷いのは、お前の経歴だーーー!!ちくしょー!!!」
教会での祈りの時間に始まった婚約破棄。
【御神託】への祈りの時間は、個人情報保護のため、声は外に漏れない。
「【御神託】!!コイツどうなってんだーーーー!」
<この度はご不便をおかけして申し訳ございません。不良品につき、交換対応とさせていただきます。なお、一週間後に改めて【お品物】をお届けさせていただきます。>
「きゃーーーー!!」
ダリルが叫んだ瞬間、教会の祭壇に奉られている女神像が光を放ち、事務的な声と共に婚約破棄された女性はその場から消えた。
「くそぉ!!いつもの事ながら、何故にこんな要らぬ手間を……!!」
ダリルは、肩を落としながら教会から出てきた。
この国での男女の出会い方は【恋愛】【お見合い】【御神託】の3つである。
その中でも【御神託】は神の力で運命の相手を迎える事が出来る万能のシステムである。
【御神託】で出会った場合、運命の相手であることが保証されているため、最初から婚約が結ばれる仕組みになっている。
だが、ダリルは誰よりも引きの悪い人間であった。 本や手帳を買えば乱丁、服を買えばほつれや穴があり、買ったものが欠けたり傷んでいたりと、不良品交換が日常茶飯事なのである。
領地を預かる立場として、日々の政務に追われ【恋愛】【お見合い】を避けていたダリル。
そんなダリルの結婚適齢期はまさに終わりかけているところである。
流石に心配した両親や周囲の人々に最終手段として薦められた【御神託】。
このシステムがあるせいで、周囲も「いざとなれば大丈夫だろう」とどこか油断していた。
まさか【御神託】でさえも不良品を引くとは、周囲もダリル本人も思っていなかったのである。
◆
【御神託】1回目。
【御神託】により現れた1人の女性。
共に現れる互いの【プロフィール(納品書)】を読んだダリルは目を疑った。
【犯罪歴:結婚詐偽3回。偽装殺人による財産搾取3回】
「酷いのは、お前の経歴だーーー!!ちくしょー!!!」
冒頭の婚約破棄に戻るわけである。
わずか1分での婚約破棄であった。
「1週間後か。面倒臭いなぁ……」
ダリルは遠い目で空を見上げた。
◆
──1週間と4日後。
「…………【御神託】ぅううう!!!ちゃんと検品してんのかーーーー!!!!!!ふざけんなよおおおーん!!!!」
まさかの、2回目である。
互いの【プロフィール(納品書)】に問題もなく2人目の女性と交際を始めたダリル。
事件は4日目に起きた。
自宅――すなわち領主館に招き、両親とも顔を合わせ、順調に話は進んでいた。
庭園を案内していた時、薔薇の手入れをしていた庭師と、彼女の目が合った。
「うっ……!あっ!ああ!ミリア……!!」
「アル!貴方生きていたのね!!」
「ミリア!」
「アル!」
ひしっと抱き合う2人。
聞くと恋人同士だったが、庭師は出先の事故で記憶を失い、行方不明となっていた。
彼女は庭師を忘れられないまま【御神託】でダリルと出会ったとのこと。
これ、どう考えても運命の相手、庭師だろ。
勿論、ダリルは身を引いた。
「ふざけんなよおおおーん!!!!」
ダリルは泣いた。
<大変申し訳ございません。【御布施のご返金】も承りますので、ご検討ください>
「はぁああああああ!!?!!?!?!返金したいって、いつ、誰が、言った????ごねたか!?カスハラだと思ってんのか?!?!返金されるくらいなら最初から【御神託】に頼まないんだよーーー!不愉快だー!!」
<ご不快な思いをさせて申し訳ございません。それでは検品をさせていただいた上で【お品物】をお届けさせていただきます>
「2回目の時に検品しろーーー!!【御神託】が不誠実過ぎて、星1つも付けたくもねぇ!信仰心も消え失せるわ……!」
【御神託】を受けた者は、必ず教会に石板を奉納するのが習わしである。
そこに刻む星の数で感謝と信仰心を捧げるのだが、ダリルは今、その石板を叩き割りたい気持ちを耐えている。
「もしかして、運命の相手を諦めろという事なのか……」
瞬間的爆発の怒りの後は、不安に落ち込み始めるダリルである。
◆
それから、3回目の【御神託】。
日時指定がなかったため、教会に毎日通っていたダリルだったが、それは突然だった。
「きゃっ!」
「えっ!!」
目の前に赤毛の小柄な女性がドレス姿で現れたのである。
ドレスにヒールでは上手く着地が出来なかった女性をダリルは受け止める。
その小柄な体は、少し頼りなく見え、触れれば崩れてしまいそうだった。
「あっ、あの……私、気付いたら突然ここに……」
「す、すいません……。俺の【御神託】です」
「これが…【御神託】……!!」
【御神託】には珍しく予告なく喚び出された女性は、【プロフィール(納品書)】を読むダリルを心配そうに見上げている。
「……あ、あの」
「ん?」
「私、アイビー、と申します……」
遠慮がちに名乗る声は小さい。
「俺は、ダリルだ。よろしく、アイビー」
名前を呼ばれた瞬間、彼女は少しだけ驚いた顔をした。
まるで、自分の名前を呼ばれたのが初めてみたいに。
ちなみに、返品交換は8日以内の申し出かつ未使用が条件であるが、利用したのはダリルが初めてである。
「3回目もだったら、石板を本気で叩き割ってたぜ……」
そんな罰あたりなことを考えている間も、彼女は怯えたままだった。
「えっと……アイビー?大丈夫か?」
「……ごめんなさい……。私、出来損ないで……【御神託】に喚ばれるはずがないんです……。目立つ傷跡もあって……それに……今……婚約破棄を言い渡されていたところで…………」
彼女はうつ向いて涙混じりに目を半分隠すほどに長い前髪を上げると、額にはひし形の傷跡が見える。
「うーん。そんな言う程の傷か?俺は気になんねぇよ。むしろ、その程度なら、うちに来な?みたいな?」
ダリルは支障が無い程度の不良品なら愛着が湧くだろうという諦めの境地に達しているので、彼女の傷跡にも何も思わなかった。
「むしろ、それって、そこの女神像の額にある……ホラ、あれに似てて、御利益ありそうじゃないか? ──それに、瞳の宝石の色も君と……」
安心させようとダリルは彼女の瞳を見つめた瞬間、雷が落ちたような音が自分の中で響き渡った。
同世代より幼いだろう顔立ちに、やけに大きな瞳は宝石に劣らないきらめきを持っていた。
──可愛い。
言葉が、抜け落ちた。
静かに固まったダリルに、気づかない彼女は震える声で話し出す。
「私の国では、女神と同じ瞳の色は……聖女の証らしいんですけど……力が制御できなくて色々壊したりしちゃったりで……それで……“不良品”だって……。国では、“不良品の聖女”って言われて……」
彼女の言葉に、ダリルは小さく眉をひそめた。
この国では【御神託】が存在する分、信仰心も厚く、聖女は大切にされている。
力の伝承も保護制度も整っている。
少なくとも、どんな能力でも女神が与えた力を“不良品”などと切り捨てるような扱いはしない。
そこで、ダリルは理解した。
――ああ、もしかして“規格外の不良品”ってやつじゃないのか。
不良品を引くことには慣れていたが、まさかこんなに可愛らしい不良品まで引くとは……自分の引きも、満更でもないのかもしれない。
「……なあ、それって“不良品”って言うほどのもんか? 見てねぇのに言うのもなんだが、俺はそうは感じねぇけどな」
「え……?」
「ただ、その力でアイビーが危なくなるなら、放ってはおけねぇ。その時は俺がそばにいる。それでいいだろ」
ぽかんとする彼女に、ダリルは肩をすくめる。
「俺、引き悪いからさ。多少のトラブルは慣れてる」
「……っ」
彼女の目に、じわりと涙が滲んだ。
「……いいんですか?」
「お試し期間は8日間ある。その間に決めりゃいい。 ただし、俺はアイビーを手放す気はないからな。覚悟しとけ」
「……はい!」
◆
こうして始まった“不良品”と呼ばれた聖女との8日間。
ダリルは引っ込み思案な彼女を毎日デートに誘った。
最初は遠慮していた彼女も、少しずつだが笑顔を見せる事が増えた。
甘い言葉を囁けば赤くなる彼女の可愛らしさに、ますます目が離せなくなっていった。
そして、ある日のことだった。
「ダ、ダリルさん……私の力を見てもらえますか……?」
庭園の花壇に向かい、恐る恐る手をかざすアイビー。
彼女の長かった前髪は整えられ、隙間から覗く額の傷跡と、女神と同じ色の瞳がほのかに光を放つ。
次の瞬間。
ぼこっ、と音を立てて地面が盛り上がった。
「うおっ!?」
草花が辺り一面に芽吹き、伸び、花が咲き乱れる。
その勢いは花壇の枠を軽々と超え、石畳ごと押し上げながら広がっていった。
「す、すみません……!」
青ざめるアイビーに、ダリルは一瞬だけ呆けて――
「……アイビー、これは、すげぇよ……!」
ダリルはそう言って、震えている彼女の手を掴むと包み込むように握った。
「え?」
「もっと広いとこでやろう!やり過ぎても気にすんな!責任は俺が取る!!」
その言葉に、アイビーは目を見開いた。
アイビーによる豊穣の力の暴走は大騒ぎにはなったが、最後にはダリルが良い方向に納め、領地の人々も笑顔になった。
そんな大騒ぎのあった広大な畑の花を眺めながら、ダリルはアイビーに笑いかける。
「アイビーが咲かせた花。調べたら、全部野菜の花だってよ!収穫が楽しみだな!」
アイビーのいた国では、アイビーの咲かせる花は美しくないと直ぐに刈り取られていたため、何の花かまで知ることはなかった。
「……ありがとうございます!」
それはもう、騒がしくて――でも、楽しい日々だった。
◆
そして、8日後。
「……どうする?」
ダリルは視線を逸らしたまま、ぽつりと零した。
手放す気はない。だが、それでも――選ぶのは彼女だ。
「――ここに、ダリルさんとずっと一緒にいたいです」
迷いのない声だった。
「そっか、じゃあ、決まりだな」
ダリルは、迷いなくアイビーの手を取る。
「好きだ、アイビー。結婚しよう。俺はアイビーを絶対に離さない。ちなみに俺も返品不可だ!」
「喜んで……!」
涙を浮かべながら笑うアイビーの足元に、たくさんの花が咲き乱れた。
のちに2人は仲睦まじい夫婦となり、 彼女の力によって、その地はかつてないほど豊かになった。
【御神託の石板(評価)】
★★★★☆
最愛の嫁に出会えた。
だが、
検品はちゃんとしろ。
──なお、これが全て星5評価だった【御神託】における、唯一の星4評価である。




