第一章6 『気狂いの一途 still get chanel』
双子の制服に付いている校章には見覚えがあった。
自身が着ている制服にも同じ校章がついている。
私が通う学校は都心部で随一を誇るお嬢様学校。
それを象徴する白百合の紋章が刻み込まれていた。
「その制服....サンクチュエール学園の?」
「そう!すみれさんは?」
「私も2人と同じ学校だよ。」
「す、すみれさんは何年生ですか...?
「2年。」
「ぅえ?!もしかして先輩を殺しかけちゃってたってこと?!...」
「そうだね。許すけど、許さないかも。」
「ど、どっちなのぉ」
他愛もない雑談をしながら摩擦を無視した回転する石で目的の線路を辿る。
他に双子に訊くことは何もなかった。
おどってる内気な姉はまだ好意的に見れるが、妹は初対面が初対面なもんでどこかめんどくささを感じた。
それとアレを除いて見れば仲睦まじい双子の姉妹だ。
「すみれさんは"アレ"にいつ気づいたの?」
「きのう。いや、一昨年だったかも。」
「ウチらも一緒!!そんぐらいの時!その時どう思った?!」
「んービックリもしたし困惑もした。」
「アヨはその様子だと嬉しかったとかなのかな。」
「うん!!そりゃもち!だっておねぇちゃんにちょっかいかけるのが楽しくなったし!」
「い、石が勝手に転がってきたりぶつかってきたりした時は...ほ、ほんとにびっくりした...アヨ...もうちょっかいはやめて...」
「あの時のおねぇちゃんの反応ときたらもう...」
少し煩いな話をしていく内で次の駅が見えてきた。
駅を出て学園への道にまた足を踏ませて進む。
学園には一本道が続き周りには見事な桜が並び儚く散っている。西洋文化そのものな外観が見えてきた所で門をくぐると立派な噴水の向こう側に城のようなサンクチュエール学園の校舎が姿を現した。噴水から湧き出る水は瞳に映るだけで瞳に潤いをもたらすほどに透き通っていた。
校舎時計に目をやると時刻は50分を過ぎている。分かりきっていたが20分の遅刻という事実が押しつけられた。3人はそれぞれの教室へと足を回すほどに急いで駆け込んだ。
―――――――――――――
放課後の学園は玉虫色の声で賑やかに包まれている。
運動の声、勉強の声、文学の声。それを散る桜が包みその声達は人気のいない個室にこもっているすみれの耳にも聞こえてくるほどだった。
先程、双子と連絡先を交換しあいそのやりとりを無臭とすみれの甘い香水が漂うトイレで個室で行っていた。帰りの電車も当然今朝の件で運行停止している。双子、それも妹のアレがないと帰る事もならないので
物珍しくすみれから連絡先の交換を提案するに至った。双子の方も学業を済ませたようでようやくといったため息を漏らして回転石タクシーに向かうために足をあげた。時刻は16時、個室を出ようとドアノブに手を伸ばし開けようとすると
カチャカチャ カチャカチャ
―あれ?....何で...開かないの....?
トイレの個室の内側から閉じ込められるという前代未聞の状況に置かれてしまった。
誰かが外側から押し込んでいる様子も物を引っ掛けられている様子も一切感じられなかった。
下の隙間から外を覗き見ても白色単一の洗面台と、水垢一切ない鏡しか見当たるものはなかった。
異常の在処はドアノブか、それともこの女子トイレそのものなのか。自身や双子が保有する事象の事も頭をよぎった。思考を錯綜しているとドアの向こうから声がまた耳に入ってきた。
「す〜み〜れ〜ちゃ〜ん♡」
―ッ?!
すみれにとっては聞き覚えのある声だった。
嬉しそうな声色でまたすみれの名前を呼ぶ。ドアノブにまたを目をやると紺色の"モヤ"がかかっていた。
飛蚊症だとか顕微鏡で映される微生物のようなモヤが。
『事象』がまた、彼女に降りかかった。
「すみれてゃ〜ん♡こんなところでぇ〜なぁ〜にしてるのぉ〜??」
「誰?!....私に何か用でもあるの?...」
「んふ♡わたし....コレの存在に気づいた時....真っ先にしたい事があったの....それはぁ〜すみれちゃんにぃ、あんな事やこんな事をしちゃうこと♡」
「あ、あんたその声....は」
「猫兎すみれちゃん一途のぉ〜香田麻由里だよぉ〜♡」
クラスメイトの香田麻由里。初対面の時から妙な距離感だった。手を絡めてきたら、いきなり抱きついてきたり、堂々と頭の匂いを鼻をつけて描いできたり、トイレの個室にわざと入り込んできたりすることもあった。今それが2度目になるかもしれない。
「みゆり....!!私をここから出して!!!」
「すみれちゃん!めっ!静かにだよ?あ、でもぉ〜今この放課後の時間わたしとすみれちゃんいないみたぁ〜い♡いっぱいイチャイチャできるね♡」
「みゆり...この事は黙っといてあげる...だからここから出して。人を待たせてるから...!」
「その人よりわたしのほーが大事でしょ〜?...♡」
意識をしてもそのための手段であるドアが封じられて、準備が効かない。自身が閉鎖された空間では制限がかけられてしまう。保有するものの知見が依然として浅いままだった。そうしている内にドアの下の隙間からモヤが入り込んできた。モヤは形態を変えて遂にみゆりがすみれの瞳に姿を写した。
荒い息をあげる彼女は頬を赤らめて左手でストレートの黒髪をいじりながら右目のバツ模様の瞳孔を曝け出すようにすみれをただ見つめている。
「はぁ....はぁ....はぁ...すみれちゃん...今日もかわいいね♡....はぁ...はぁ」
「ゆ、ゆみり....」
「すみれちゃんがトイレの個室に駆け込んだ時ぃ...ほんと信じらんないくらいにコーフンしちゃってた...♡
すみれちゃんにあんな事とかできちゃうんだなぁ♡って...」
「ゆみり...ラインが越える前に私をここから出して..!」
「なんでぇ〜?せっかく今こーして2人きりなのにぃ?私が素直に言う事聞くと思う?♡...」
彼女は右手の人差し指をすみれの口に当ててあのモヤを流し込んだ。
―ンァぐ..!!..んぅ...ぎ..!
「けほっ...げほっ...!!!ぐ...ぅぅうう...」
「やば...えずいてるすみれちゃん見たらもっとコーフンしてきちゃった...♡」
すみれの右手が自身の意思に反して別の意思に従うようにゆみりの胸に押し当てていた。
「やぁん♡すみれちゃんもぉノリ気になってきた感じ?...♡」
―何で?...私の右手....勝手に...
「なぁーんちゃって♡わたしの"細胞ちゃん"たちってわたしの意思と連動して動いてくれるんだよ〜?おもしろいでしょ?♡すみれちゃんにだけ特別に教えてあげるね♡」
「さ、細胞...?!」
「今のすみれちゃんとならどんなことでもできちゃうね♡」
「あ、あんた...!!何しようとしてるか分かってる訳?!...同性だろうと強制わいせつだよ?!...これがバレたら拘禁なんだよ?!分かってる...?!」
「わたしは刑務所に入っちゃてもぉ〜?すみれちゃんのこと一生一生...身体中の細胞から愛し続ける事を覚悟してるんだよ!!」
―こいつ、何言ってもダメだ....!
「...ほ?」
目の前で便座に座っていたはずのすみれがドアの服かけフックに足をかけて乗り越える態勢に姿へと唐突に変わったことにマヌケな音をさらした。
「あ、え...?す、すみれちゃんもわたしの細胞ちゃん達みたいなの...あるの?...」
「悪いけど、後輩を待たせてるの。」
ドアが使えないなら違うやり方でトイレから出たらいい。出る方法はドアだけが有する物じゃない...常識だけに囚われず意識をして準備をする...!
女子トイレから長い廊下へと走り込む。
陽の光が幾何学なスタンドガラスを通して神々しい通路へと様を変えていた。
すみれは右足を突き出して進もうとするも、また別の意思に操られるように右足が固まってしまった。
―また身体が...!
「酷いなぁ...すみれちゃ〜ん...。人の純粋な愛情から逃げるなんて...でももう、そんな事はさせないようにしてあげるね♡....わたしは優しいんだから♡」
甘く恍惚とした声を固まるすみれの背後から奏でる。すみれの困惑した表情や声を肴にするようにまた甘い声を晒し、すみれの元に歩み寄った。




