第一章5 『事象交錯 Rolex ②』
ウチは今、ものすごく気持ちが昂揚しているの。
ウチらの他に同じような『モノ』を持ってる人がいたんだから。それが来た時は、ほんとに驚いたよね。おねぇちゃんも腰を抜かしてた。すこし邪かな。あのモノを人にぶつけたらどーなるんだろぅって。見えてたりするのかなとか、ウチら以外に接触できるのかなとか。その答えは今日、さっき出会ったばっかの気だるげなおねぇさんで知る事ができて、とても嬉しい。
「あれは私がやった訳じゃなかったんだね....他にも持ってる人がいたのは考えもしなかった。」
「ウチもウチも!....だからもっとおねぇさんの事、おねぇさんの持ってるモノの事。おしえて。みせて..!」
すみれの足元には岩石から羽虫の死骸、ゴミの塊、ペットボトルや空き缶が転がり集っていた。潔癖気味な彼女にとっては今一番の苦痛の拷問である。
ぶつかり合って転がり対象のすみれに力強く衝突する。
―ぐぅぃぃいい.....!!
テロだとか...さっきの交通事故だとかに巻き込まれていた方がマシだと思えちゃうくらいに...!
身体的にも精神的にもキツすぎる...。あのイっちゃてるキチ女に声をかけただけで....これならもう徒歩で行った方がよかったがもッ!.....『準備』しないと..!
意識が彼女を通じて彼女自身手助けする。それが今、彼女にできること。反撃する隙もなく転がるモノの渦に包まれてくたばれビッチを叫ぶだけ。羽虫の気持ち悪い脚や羽が手にこびりつき、嗚咽する。エナジードリンクの空き缶が足裏に入り再び転がせるつもりだと先の経験で悟った。
「やっぱり、またやったね。」
「....!」
彼女は何を意識したのか今度は自販機からベンチの前に足を立たせていた。それを見越したかのようにイっちゃってる女は岩石のキャタピラを全てのベンチ付近に敷いていた。
「なるほどねぇ...何か瞬間移動的なモノ?持ってるのかなぁ。」
「...なんなのもう....過遅刻でもしたいの....?私達で仲良く?...」
「過遅刻よりも面白いコトがいまここにあるの。」
すみれは足がついてる地の違和感に気づいた。
すみれの立つホームの地面が球体状となって移動していた。すみれそのものが転がりあちこちぶつかり合う。その度にか弱い女子高生の呻吟の音があがる。
「何これ何これ何これ何これぇえぇええ....!!!」
「楽しいでしょ!!!おねぇさん!!」
足場が丸い...!!球場になってるの?!.....
落ちてるゴミだとか岩石だとかもそれに続くように転がってる....。転がって転がって転がって.....それがあのヤバい女の持ってるモノだって言うの?....。
球体は摩擦を知らずに転がって私を転ばせてぶつけて傷つける。ビリヤードの球みたいにホーム内を駆け回っている。
―意識!意識!意識!意識!....準備を!...
「なっ!...」
すみれの立つ球体と周辺の転がる物は軌道を持ち主であるアヨに完全に変えていた。飼われる動物が飼い主に帰るように岩石やゴミ、すみれの立つ球体が曲線を描いてアヨに狙いを定めていた。すみれの冷静さを見せつけられたように自身の保有するモノを利用されたことに気づくのはそう難しいことではなかった。
軌道を変えた転がるモノ達はアヨの足の付け根や脛に直撃し態勢を崩させた。歯をぎしらせてアヨは怒りと想定していなかった事態に混乱した。
「私もだけどキミもあまり使い慣れてなさそうだね。」
「あ、あはは..おねぇさん応用するのはやいなぁ...」
「でもまだ、これはウケてないでしょ?」
先程のあらゆるものを転がすだとか一部を球体にして転がすだとかと違って今度は世界の基礎を書き換える様にホームそのものが斜めに傾き始めていた。
180℃という目標を目指して駅が傾いてる。
それを見流してアヨは姉と宙へ浮かんでいった。
―浮かんだっ?!
傾むきつつある地に足をくねらせながら、浮きはじめた2人の姿にただ唖然として困惑に乗っ取られた。
目を凝らしてよくみてみれば2人の足裏にまた何かが転がるように回転していた。ただ回転の軌道を描いているだけで何かがあると視認することはできない。
―あれは空気を回転させて浮いてるの?...空気中に含まれている分子だとか原子だとかとんでもない速度で回転させて...浮かばせているとでも言うの?....
アヨの保有するモノを受けて、考えられる原理を推測した。推測した所で傾向した足場はたまらない。すみれは傾いて落ちる先を見て嘆いた。硬い線路とそれにふりかけられた岩石の地に。このまま落ちてしまえば、岩石と赤い液体がトッピングされた女子高生の完全である。
「ねぇアヨもうやめようよ....?」
「すぐ終わるっておねえちゃん、もうちょっと見させて。」
「アナタが今何してるか分かってるの?見ず知らずの女の子を殺しかけてるんだよ?これがアナタがやりたかったお相手なの?」
「もう黙っててよ、落としちゃうよ?」
「アヨ!!いい加減にしなさいッ!!!」
アヨの姉は怒鳴りつけた後、回転する空気を蹴飛ばしてホームに飛び移った。鉄柱に掴みかかりすみれある事を告げる。
「おねぇさん!!!さっきしてたヤツ!もう一回やって!!!」
「き、きみは....さっきしてたヤツ?....」
傾く足場に気を取られて意識を放り出していた。
彼女の意識を誘発する目的は不明だが、彼女はただ言葉通りに今できる意識をした。
そこに浮かぶ生意気な女を懲らしめるための意識をする準備を_。
―ただぶん殴りたい...!
―?...浮かんだ?あのおねぇさん浮かぶ事もできるの?
すみれがホームから空へと飛び移るように拳をつくってアヨに向かって浮かんでいた。とあるものが準備を大袈裟にして浮かぶアヨにぶん殴らせるようにした。
―違う!!...これはおねぇちゃんの仕業!!!おねぇちゃんが手助けをした...!!
すみれの大袈裟な拳がアヨの右頬に直撃する。パン生地をこねるように拳をめり込ませてぶん殴った。
「ブッッッ!!!」
ぶん殴られた彼女が行く先にクッションや枕はない。
ただ硬いコンクリの地面やモノのみ。空気から降ろされて風靡く身体に硬いものと人体が衝突すればどうなるか想像は容易にできる。
「アヨ!!!!!」
気づけばアヨはすみれに抱かれてホームに降り立っていた。転がっていたものはピアリと止み、球体は元の形に戻って、駅は傾向を止めて平行へと帰っていた。
すみれは安堵と僅かな怒りを顔に出して、抱くアヨをベンチに座らせた。
「ごめんね、めっちゃウザかったからぶん殴りたくなっちゃったの。」
「アヨが悪いんです...ウザくても助けて頂きありがとう..ございます....。」
「キミもあるの?アレ」
「わ、わたしもはい...一応あると思います...」
妹とは対象的に姉はどこか内向的な印象が強かった。
瞳は見惚れるほどに愛おしくキレイだった。
指をもじらせて彼女はご迷惑をおかけした事を詫びた。
「やば...分かってはいたけど8時20分。チコ確じゃん..」
「い、妹がごめんなさぃいぃいぃいぃ...」
「責任は取ってもらうからね。あの妹がしてた移動法で私を学校に連れてって。てかそのために声かけたんだし。あんな事されるなんて思う訳ない」
「は、はい...そ、そうさせます。」
「アヨ、起きて...」
「あ、お、おねぇさん....じょ、冗談だから...さっきのはほんの悪ふざけだったの!...ご、ごめんなさい...?」
「許しはしないけど、今は水に流しとく。だから私を石かなんかに乗せて連れて行きなさい」
「あぁう、うん、もちだよ!もち!分かったわかった!連れてってあげる!!!」
「私、猫兎すみれ。」
「三依アヨ...」
「三依テオです...」




