薄目とプライドと指差しゲーム
金曜の夜。
店は、いつも以上にうるさかった。
理由は簡単。
agjtmが、ホスト仲間たちを連れてきていたからだ。
いつものようにユキ指名。悠々と着席。
「今日さー」
金髪ホストが笑いながら言う。
「この中でさ」
「一番タイプの子、目つぶって指さそ?」
「え~まじ?」
「いいじゃんいいじゃん!」
周囲が盛り上がる。
agjtmは、一瞬だけ固まった。
「……え……」
(いや……)
(でも……)
(ユキ、俺のこと結構気に入ってるし……)
(さすがに……俺だよな……)
「……い、いいじゃん」
余裕ぶった声で言う。
内心、心臓バクバク。
「じゃ、せーの!」
全員、目を閉じる。
指を伸ばす。
その瞬間。
agjtmだけ――
薄目。
ほんの1ミリ。
(……ちょっとだけ……確認……)
視界の端に映る。
ユキ。
腕を組んで。
無表情で。
――ナカジマの方向を指している。
別席。
壁際。
酒を抱えて待機中の。
あの、重課金おぢ。
(…………は?)
脳、停止。
「はい、開けてー!」
全員、目を開く。
「えっ」
「え?」
「そっち!?」
指差しの先。
ナカジマ。
困惑している。
号泣寸前で。
「え……俺……?」
「……ユキ……?」
ユキは、にこっと微笑む。
営業用。
「待ってくれてて、可愛いなって」
ナカジマ。
即死。
「……っ!!」
「嬉しい……!!」
「結婚……!!」
「黙れ」
agjtm、即ツッコミ。
声が低い。
「いやいやいやいや!!」
「おかしいだろ!!」
「俺いるじゃん!!」
仲間ホスト、大爆笑。
「やばw」
「負けてて草w」
「もう指名替えまちゅ?w」
agjtmの心、粉砕。
「……ユキ」
必死に笑顔を作る。
「冗談だよね?」
「え?」
ユキ、きょとん。
「本気だけど」
即答。
0.1秒。
「……は?」
「だって」
ユキは肩をすくめる。
「ナカジマの方が」
「使うし」
「静かだし」
「楽だし」
正論三連撃。
致命傷。
agjtm、白目。
(……金……)
(俺……負けてる……)
そのとき。
ナカジマ、震えながら手を挙げる。
「……ユキ……」
「俺……」
「……今日も……」
「…ピンドン…」
「いれる……」
「待って」
ユキ、即制止。
「今日はクリスタルのロゼな気分」
「……っ!!」
ナカジマ、昇天。
agjtm、死亡。
心の中で叫ぶ。
(……くそ……)
(絶対……俺の方が……)
(顔いいのに……!!)
「…………俺も」
一拍。
唾を飲む。
「…………サロン……入れるわ」
言ってしまった。
完全に。
取り消せないやつ。
ナカジマ、即反応。
「え!?」
「agjtmも!?」
「マジで!?」
「負けねぇ!!」
勝手にライバル化。
ユキ、無表情。
「……本気?」
agjtm、背中に冷や汗。
(……いや無理……)
(……まだ、売掛回収もできてねーし……やばい……)
(でも……)
ナカジマを見る。
札束。
勢い。
狂気。
(……ここで引いたら……)
(俺……一生……負け犬……)
「……本気」
震えを殺す。
笑う。
「ユキのためだし」
ユキ、少しだけ目を細める。
「……ふーん」
「じゃ、タワーにしてね」
「……っ」
死亡宣告。
その後。
ナカジマとagjtmは並んで座り、
同じように青い顔で、
同じようにスマホで残高を見ていた。
「……なぁ……」
ナカジマが呟く。
「俺たち……」
「……幸せだよな……?」
agjtm、遠い目。
「……うん……」
「……たぶん……」
ユキは、その二人を見ながら思う。
(今日も順調。)
(養分が増えた。)
(最高。)
ユキは、そんな二人を見ながら思う。
(今日も平和。)
(収入安定。)
(最高。)




