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私は、硝子の檻の中から、いきちを啜って生きることにしたのです  作者: じょな


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勇者様、貴女は聖女の「匂い」をご存知でしょうか。


それは朝露に濡れた白百合の香りであり、古い教会の焚き火の煙であり、そして何より、穢れを知らぬ処女おとめだけが持つ、甘くパウダリーな乳香の匂いです。

私の薄汚れたダンジョンに、その清らかな香りが漂ってきた時、私は吐き気を催すと同時に、股間の奥が熱くなるような、背徳的な興奮を覚えました。


モニターには、貴女のパーティの要、「聖女」が映し出されていました。

行方不明になった盗賊を探しに来たのでしょう。彼女は、白磁のような肌を露わにし、怯えながらも気丈に、カツカツとヒールの音を響かせて進んでいました。


そして彼女は、見てしまったのです。

私の可愛い社員、魔竜君が、過労で泡を吹きながら倒れ伏す瞬間を。


「ああっ! なんてこと……可哀想に!」


彼女は駆け寄りました。

ああ、なんと慈悲深い。彼女は敵であるはずの魔物に対しても、その膝を折り、白く滑らかな手をかざしたのです。


神聖治癒(ホーリー・ヒール)


瞬間、眩い黄金の光が炸裂しました。

素晴らしい。実に素晴らしい出力です。魔竜の裂けた筋肉は瞬く間に繊維を繋ぎ合わせ、濁った瞳には生気が戻り、疲労物質は湯気となって毛穴から蒸発しました。


魔竜は、完全回復したのです。

通常ならば、ここで「よかった、助かった」と涙を流す場面でしょう。


しかし、私の会社ここでは違います。


私は、愛おしい宝石を鑑定するかのように、硝子の檻(ウィンドウ)を操作しました。


(回復魔法とは、即ち「修理」だ。修理が終われば、機械はどうなる? ――そう、再稼働だ)


╔══════════════════════════════════════╗

║ 対象捕捉:聖女(SSR)           ║

║ 役職:産業医兼メンテナンス担当       ║

║ 業務:HP 30%以下で自動回復        ║

║ 勤務形態:24時間常駐・ワンオペ      ║

╚══════════════════════════════════════╝


「――契約サイン


ズブリ。


私の言葉は、見えない楔となって彼女の心臓を貫きました。

聖女の身体がビクンと跳ね、その美しい瞳孔がカッと見開かれます。彼女は自分の意志とは無関係に、魔竜に向かって再び杖を構えさせられたのです。


魔竜は、回復した身体で、再びツルハシを握りました。

健康になったのですから、当然です。働けるのですから、働かねばなりません。


ガッ! ガッ! ガッ!


「あ、あれ……? 私、なんで……身体が、勝手に……?」


聖女の唇が震えます。

魔竜が岩を砕き、疲労で腕が千切れそうになると、彼女の杖が勝手に光り輝くのです。


『ヒール』


魔竜の傷が癒える。

魔竜が働く。

魔竜が疲れる。


『ヒール』


魔竜の傷が癒える。

魔竜が働く。


「や、やめて……! 休ませてあげて……! 私の魔法は、こんなことのためにあるんじゃない……ッ!」


彼女は泣き叫びました。真珠のような涙が、冷たいタイルの床にポタポタと落ちます。

けれど、勇者様。

これこそが「永久機関」ではありませんか?


睡眠という名のロス(損失)は消滅しました。

彼女のおかげで、私の工場は 1秒たりとも止まることなく、莫大な利益を生み出し続けることができるのです。


モニターの中、聖女は泣きながら、それでも機械のように正確に、癒やしの光を撒き散らしていました。

その光景は、ステンドグラスに描かれた宗教画よりも、遥かに神々しく、そして冒涜的です。


(ふふ、ありがとう。君たちは最高の歯車だ)


私はグラスに残った葡萄酒を飲み干しました。


さて、勇者様。

盗賊は事務を。魔竜は現場を。聖女はメンテナンスを。

残る貴女には、一体どんな「適職(ポジション)」を用意して差し上げましょうか。


そうですね……。

この巨大になった組織には、そろそろ対外的な「広報(マスコット)」が必要かもしれません。

貴女のその、無駄に正義感の強い美しい顔立ちは、きっと素晴らしい宣伝効果を生むことでしょう。


待っていてくださいね。

すぐに、招待状(オファー)をお送りしますから。


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