幽閉
石の扉が、
低く音を立てて閉じられた。
叩きつけるような荒さはなく、
ゆっくりと、
確実に――
逃げ道を断つ音だった。
リリシアンは、
振り返らなかった。
王命により、
彼女は王宮地下へと
移されていた。
王族が使うことを
想定されていない場所。
厚い石壁。
小さな採光口。
湿った空気。
鎖の音が、
一つだけ鳴る。
「第二王女リリシアン」
名を呼ばれる。
「王妃ローザリア殺害の罪により、
ここに幽閉する」
淡々とした声。
非難も、
怒りも、
哀れみもない。
それが、
この裁きの正体だった。
扉が閉じる。
音が、
遠のく。
世界が、
一枚隔てられた。
リリシアンは、
石の床に腰を下ろし、
ゆっくりと息を吐いた。
震えはない。
涙も、
出なかった。
「……姉さん」
小さく、名を呼ぶ。
返事はない。
それでいい。
(生きている)
それだけが、
確かだった。
ほどなくして、
足音が近づく。
一人分。
「……リリシアン」
顔を上げる。
鉄格子の向こうに、
セレスタンが立っていた。
「来てはいけない」
リリシアンは言う。
「あなたまで、
疑われる」
「……もう遅い」
短い答えだった。
「裁きが始まる」
それ以上は言わない。
言葉にしなくても、
何を意味するかは分かっていた。
沈黙の中で、
リリシアンが口を開く。
「封印は、
完全じゃない」
「遺跡の記録は不完全だった」
「代償も……
本当に不老不死になるのかさえ、
分からない」
それでも、
声は揺れなかった。
「このままでは、
姉さんも、
生まれてくる命も、
守れなかった」
セレスタンは、
否定しない。
「……ああ」
ただ、それだけ。
そして言う。
「お前には、
やるべきことがあるだろう」
リリシアンは、
何も答えなかった。
否定も、
迷いもない。
「生きて、
考え続けろ」
「封印を解く方法も、
子を守る道も」
「時間がかかってもいい」
「……それが、
お前の選んだ責任だ」
一拍、置いて。
「隠れ里へ行く」
短く、区切る。
「私もだ」
その言葉は、
決定だった。
リリシアンは、
小さく息を吐く。
驚きはない。
ただ、
受け取る。
「……ありがとう」
それだけを告げる。
「礼はいい」
セレスタンは、
視線を逸らしたまま言った。
「これは、
選択だ」
「お前だけのものじゃない」
足音が、
遠ざかる。
だが、
今度は違った。
独りではない。
石の牢は、
確かに彼女を閉じ込めていた。
だが――
未来まで、
閉じ込めることは
できなかった。
(第50話・了)




