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姉妹の絆

部屋の外では、

王宮がいつも通りに息づいていた。


新しい王と王妃の未来が、

祝福の延長線上にあると、

誰もが信じている。


この部屋の中だけが、

その世界から切り離されていた。


ローザリアは椅子に腰掛け、

無意識に腹部へ手を当てていた。


守ると決めた者の、

自然な仕草。


向かいに立つリリシアンは、

すぐには口を開かなかった。


言葉を選んでいるのではない。

覚悟を、整えていた。


「……姉さん」


低く、静かな声。


「このまま王宮にいれば……

 姉さんは、

 この子を守れない」


ローザリアは顔を上げた。


「……それは……」


否定しようとして、

言葉が続かなかった。


「たとえ無事に産めたとしても」


リリシアンは続ける。


「アレクシオンは、

 もう“止まる”状態じゃない」


「子どもだけじゃない」


「姉さん自身も……

 魔王と通じた女として、

 処刑される可能性がある」


ローザリアの指先が、

わずかに震えた。


それは、

想像していなかった未来ではない。


けれど、

口にされると、

重みが違った。


「……だから」


リリシアンは、

一歩、前へ出る。


「世界から切り離すしかない」


ローザリアが、

はっと息を呑む。


「……切り離す?」


「……そんな方法が、

 あるの?」


ここで初めて、

ローザリアの声に

戸惑いが滲んだ。


リリシアンは、

小さく頷く。


「遺跡で見つけた、

 古い記録にあった術」


「禁じられた封印よ」


ローザリアは、

首を振った。


「……私は、

 そんな術があるなんて……」


「知らなかった」


その言葉は、

責めではなかった。


ただの事実だった。


「命あるものの“時”を止めて」


リリシアンは、

ゆっくりと言葉を重ねる。


「肉体と魂を、

 月の領域へ隔離する」


「名前は――

 月影の封印」


その響きに、

ローザリアの胸が

ざわめいた。


「……時を、

 止める……?」


「封じることはできる」


リリシアンは正直に言う。


「でも……

 分からないことも多い」


「解く方法は、

 まだ見つかっていない」


ローザリアは、

唇を噛んだ。


「……それって……」


「一生……

 戻れない可能性も……」


「ある」


即答だった。


隠さない。


誤魔化さない。


「術の代償として……

 術者は不老不死になる」


「終わらない時間を、

 生きることになる」


ローザリアは、

はっとリリシアンを見る。


「……それは……

 リリィが……?」


「時間はある」


リリシアンは、

静かに言った。


「だから探す」


「封印を解く方法も」


「この子を……

 人として生かす方法も」


約束として、

はっきりと。


「必ず」


ローザリアの目から、

静かに涙が落ちた。


知らなかった。


こんな術があることも。

妹が、

ここまで考えていたことも。


「……そんな……」


声が、

かすれる。


「私のために……

 そんなものを……」


「違う」


リリシアンは、

静かに否定する。


「姉さんと、

 この子の未来のため」


視線が、

まっすぐ重なる。


「姉さんは、

 生きて」


「この子も、

 生きる」


「それだけ」


ローザリアは、

深く息を吸った。


恐怖は、

あった。


失うものの大きさも、

分かっている。


それでも――


「……お願い」


ローザリアは、

頭を下げた。


「私と……

 この子を……

 未来に、

 繋いで」


リリシアンは、

姉の額に

そっと手を当てた。


「約束する」


「私は……

 諦めない」


その瞬間、

廊下の向こうから

荒い足音が近づく。


「……時間がない」


リリシアンは、

詠唱へ入った。


床に浮かぶ、

古代のルーン。


月の名。


静止の理。


ローザリアは、

目を閉じた。


知らなかった。


けれど――

知ったうえで、選んだ。


妹を信じて。


未来を信じて。


光が、

月色に満ちていく。


この選択が、

どれほどの時を越えるのか。


まだ、

誰も知らない。


ただ一つ。


この夜、

 姉妹は「時間」を味方につけた。


(第47話・了)


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