表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/53

告白

朝の光は、

昨日と同じように差し込んでいた。


王妃の居室は整えられ、

侍女たちは静かに動く。


いつも通りの朝。

そう見えるように、

ローザリアは振る舞った。


だが、

胸の奥は決まっていた。


(……言わなければ)


今日でなければならない。

このまま先延ばしにすれば、

取り返しがつかなくなる。


扉の向こうで、

足音が止まる。


王の足音。


ノック。


「……入っていいか」


声は穏やかだ。

昨夜と同じ。


「どうぞ」


扉が開き、

アレクシオンが入ってくる。


王の装い。

だが、視線はまっすぐ

ローザリアだけを見ていた。


「昨夜は……

 配慮が足りなかった」


言葉を選ぶように、

少し間を置く。


「今日は、

 落ち着いて話そう」


その“話す”という言い方が、

ローザリアの決意を

さらに固めた。


「……お話があります」


彼女は、

先に口を開いた。


アレクシオンの眉が、

わずかに動く。


「聞こう」


ローザリアは、

一歩、前へ出た。


王妃としてではなく、

聖女としてでもなく。


ひとりの人として。


「……私、

 子を宿しています」


沈黙が落ちる。


ほんの一瞬。

だが、

空気が変わった。


「……は?」


声は低く、

理解を拒む音だった。


「誰の……」


言いかけて、

言葉が止まる。


答えは、

聞かなくても分かる。


ローザリアは、

視線を逸らさなかった。


「……魔王ヴェルゼリオの子です」


言い切った。


その瞬間、

アレクシオンの表情が

音もなく崩れた。


怒りではない。

悲しみでもない。


――混乱。


「……違う」


小さく、

否定が漏れる。


「そんなはずはない」


「君は……

 聖女だ」


言葉が、

縋るように重なる。


「穢れに触れるはずがない」


「それは……

 一時の、

 惑いだ」


ローザリアは、

静かに首を振った。


「違います」


「私は……

 彼を愛しました」


その一言が、

最後の楔だった。


アレクシオンの瞳が、

大きく見開かれる。


「……愛?」


かすれた声。


「そんな……

 そんな言葉で……」


呼吸が、

乱れる。


「なら……

 なら、その子は……」


言葉が、

歪んでいく。


「穢れだ」


ぽつりと、

落ちた。


「聖女に……

 あってはならない」


彼は、

一歩、近づく。


「それさえなければ……」


「それさえなければ、

 君は……

 元に戻れる」


ローザリアは、

後ずさった。


「……アレクシオン」


名を呼ぶ。


止めてほしかった。


「違う」


彼は、

首を振る。


「これは……

 浄化だ」


「君を……

 救うためだ」


その言葉に、

ローザリアの背筋が

凍る。


「……やめてください」


声は、

震えなかった。


だが、

明確だった。


「この子は、

 私の命です」


「失わせることは、

 できません」


その拒絶に、

アレクシオンの表情が

歪んだ。


理解できない者の顔。


「……なぜだ」


「なぜ、

 分からない」


彼の声が、

大きくなる。


「私は……

 君のために……」


言葉が、

途切れる。


その瞬間、

彼の中で

何かが

完全に折れた。


「……違う」


低く、

冷たい声。


「君は……

 聖女でなければならない」


「私の……

 女神でなければならない」


その目に、

ローザリアは

はっきりと悟った。


――この人は、

 私を見ていない。


見ているのは、

“あるべき姿”だけ。


ローザリアは、

踵を返した。


「……ローザリア!」


呼び止める声。


振り返らない。


守らなければならない。


今は――

それだけだ。


扉を開け、

廊下へ走り出す。


背後で、

何かが倒れる音がした。


王宮の朝は、

何事もないように

動き続けている。


けれど――

この瞬間、

確かに何かが

壊れた。


修復できない形で。


(第45話・了)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ