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戴冠の日

王都アウレリアは、

その日、祝福に包まれていた。


石畳は清められ、

通りには白と金の旗が掲げられる。

花弁が風に舞い、

人々の声が空へと押し上げられていく。


魔王は討たれた。

世界は救われた。

そして――

新たな王が立つ。


王城の大聖堂には、

国内外の貴族、神官、諸侯が集められていた。

列席できぬ者たちは、

広場に設えられた魔法映像を見上げている。


その中心に、

二つの玉座が置かれていた。


一つは、

長きにわたり国を治めてきた現王のもの。


そしてもう一つは、

次代の王のための玉座。


鐘が鳴る。


静寂が、

大聖堂を満たした。


現王が、

ゆっくりと立ち上がる。


白髪の混じるその姿は、

老いを感じさせながらも、

威厳を失っていなかった。


「――アウレリア王国は」


低く、よく通る声。


「太陽神の血を継ぐ王家によって、

 ここまで導かれてきた」


言葉は、

儀式としての決まり文句だ。


それでも、

誰一人として聞き流さない。


「今、世界は救われた。

 だが、救われ続けるためには、

 次なる王が必要だ」


王は、

一歩、前へ出る。


「勇者アレクシオン」


名を呼ばれ、

アレクシオンは進み出た。


その姿に、

民は歓声を上げる。


剣を携え、

魔王を討ち、

聖女を連れ帰った英雄。


王になることを、

誰も疑っていなかった。


王は、

冠を掲げる。


黄金に輝く、

太陽神の象徴。


「汝、

 アウレリア王国の王となり、

 民を導く覚悟はあるか」


「あります」


即答だった。


迷いは、

一切ない。


冠が、

アレクシオンの頭に置かれる。


「ここに、

 アレクシオン・アウレリアを

 王として認める」


大聖堂が、

揺れるほどの歓声に包まれた。


だが――

儀は、まだ終わらない。


王は、

視線を移す。


その先に立つのは、

白ではない衣を纏った女性。


ローザリア。


聖女の装束ではなく、

王妃として仕立てられた衣。


燃えるような赤髪が、

光を受けて揺れる。


「ローザリア・アウレリア」


名を呼ばれ、

彼女は一歩、進み出た。


歓声が、

一段と高まる。


聖女。

世界を癒した存在。


彼女が王妃となることを、

誰もが祝福していた。


王妃の冠が掲げられる。


「汝、

 王の伴侶として、

 この国と民を支える覚悟はあるか」


ローザリアは、

一瞬だけ、目を伏せた。


「……あります。」


そう答える声は、

澄んでいた。


冠が、

頭に置かれる。


重い。


金属の重さではない。


聖女として、

王女として、

人として。


すべてを背負う重さ。


「ここに、

 ローザリア・アウレリアを

 王妃として認める」


再び、

大きな歓声が上がる。


祝福の声。

祈り。

希望。


世界は、

完全に正しい未来を手に入れたと

信じて疑わなかった。


王となったアレクシオンは、

玉座へと向かう。


王妃ローザリアは、

その隣に立つ。


半歩後ろ。

だが、

誰もそれを疑問に思わない。


それが、

正しい位置だからだ。


ローザリアは、

微笑んでいた。


王妃として。

聖女として。


だが、

胸の奥で、

静かに理解していた。


(……ここから)


(もう、

 戻る道はない)


戴冠の日。


祝福の拍手の中で、

ローザリアは初めて、

戻る場所がなくなったことを悟った。

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