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祝福の中の違和感

王宮は、

穏やかだった。


婚礼の余韻が残り、

人々の表情には安堵がある。


廊下を行き交う者たちは、

声を潜めながらも、

どこか浮き立っていた。


「聖女様も、

 ようやく幸せになられたのですね」


「勇者様が傍にいれば、

 もう何も心配はいりません」


そんな言葉が、

すれ違いざまに聞こえる。


エルシアは、

その声を聞きながら、

歩いていた。


否定する理由は、

どこにもない。


姉は結婚した。

勇者は隣にいる。

国も、民も、救われた。


正しい結末だ。


(……そのはず、なのに)


胸の奥に、

小さな引っかかりが残る。


朝食の席。


ローザリアの席は、

今日も空いていた。


「……ローザ姉様、

 まだ休んでいらっしゃるの?」


侍女は、

少し困ったように頷く。


「はい。

 お疲れとのことです」


それ以上は、

語られない。


理由は、

十分すぎるほど、

もっともだった。


式の緊張。

王族としての責務。

聖女としての重圧。


エルシアは、

それを否定できない。


できないからこそ――

引っかかる。


(……疲れている、だけ?)


ふと、

視線を上げる。


回廊の向こうで、

アレクシオンが誰かと話している。


姿勢は正しく、

言葉は穏やかで、

周囲への配慮も行き届いている。


非の打ちどころがない。


(……勇者様らしい)


そう思おうとして、

なぜか、

胸の奥が静かになる。


満ち足りている。


そんな印象を、

受けてしまった。


「勇者様、

 本当にお幸せそうね」


近くにいた神官の言葉。


「ええ。

 やっと、

 全てを手に入れられた、

 という感じがします」


その言葉に、

エルシアは何も返せなかった。


(……全て?)


何を指しているのか、

分からない。


分からないのに、

胸の奥がざわつく。


リリシアンの姿が、

ふと脳裏をよぎる。


姉ほど、

表情に出す人ではない。


けれど、

今朝から、

言葉数が少なかった。


(……私だけが、

 気にしすぎなのかな)


そう思おうとする。


王宮は平穏だ。

誰も疑っていない。


この空気の中で、

違和感を口にする方が、

おかしいのかもしれない。


エルシアは、

自分の手を見つめた。


まだ、

何も掴めない。


けれど――

何もない、とも言い切れない。


祝福は、

すべてを覆う。


だからこそ、

その中で生まれた小さな違和感は、

簡単に見失われてしまう。


(……でも)


なぜか、

見なかったことには、

できなかった。


エルシアは、

胸の奥に残る感覚を、

そっと押さえる。


それが何なのか、

まだ言葉はない。


ただ、

祝福の中で、

確かに浮いている感情があった。


それだけは、

はっきりしていた。


(第41話・了)


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